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77.リョウシン

 あの二人が理恵の両親である可能性が高いなら何とかして近づき話がしたい。これは全くの勘だが、あの二人は積極的に加担しているのではないと考えていた。


 明確な理由は特にないが、理恵の性格に暗さがないこととダンジョン内で俺たちに気付いて託してくれたんだと思っているからだ。とは言えあの時の状況は微妙に危険だったので、子供が邪魔になって捨てた酷い親と言う可能性も十分ある。


 だがまさか両腕の無い父親と両脚の無い母親だなんて随分と珍しい。先天性の障害だと多くの場合、物体操作系能力(テレキネシス)を持っていることが多く、義手や義足を付ければ日常生活に不自由ないくらいにはできると聞いている。


 紗由の場合は両脚の膝関節から下が丸っきり存在せず産まれてきた。だが義足を検討する際に実施した検査でテレキネシスを持ってなかったことが判明し、珍しい例だと言われたことを両親から聞いていたのだ。確か割合にして一割程度だったとは思うが、それが身の回りで三例も?


 さらにその二人が出会って結婚して子供が出来て悪に堕ちる、どうも話が出来過ぎている。やはり警戒はしておくべきだろう。悪人だろうが利用されていようが、今は敵とみなすのが妥当な相手だ。


『おにい、あんま動けないのかもしれないけどさ。

 なんとか建物にピッタリと接触できないかな?

 そうしたら中までスキャンできそうなんだよね』


『マジか、それならあいつらと反対側の死角へ移動する。

 こっちからも見えなくなっちまうけど今は仕方ないしな』


『うん、この距離からでも壁の向こう側までは把握できるからね。

 ぴったりくっつけば内部まで見通しが効く可能性はあるよ。

 どうやらあまり立派な建物じゃないみたいで助かった』


 俺は理恵の両親らしき二人組が水を補充しているのとは反対側へと移動し、建物の影に身をひそめた。建物から見ると二人が出てきたのは南側でタンクは西、今俺がいるのは北側で、敷地への出入り口がある道路側だ。


 HMDRのセンサが最大限生かされるように右側面を壁にもたれ掛け辺りを警戒しつつ紗由の解析を待つ。しばらくすると妹から待望の連絡がやってきた。


『一応全体図っぽくスキャンはできたんだけどさ。

 一、二階はほぼがらんどうで大き目の機械か作業台みたいなのしかないね。

 三階は床くらいまでしか届かなかったけど似たようなもんかな。

 本命は地下なんだけど、明らかに昇降口って部分があるのわかる?』


『おう、ここから地下へ入って行かれるんだな。

 でもこれって、地階全体が金属の箱にでも囲われてるのか?』


『いやあ、そんな工事大変過ぎるでしょ。

 多分これは岩のとき見たくコピーした壁だと思うよ』


『なるほど、それならあり得る構造だってことか。

 そうなるとシェルターに飛び込んでいくみたいなもんで出入り口は一カ所かもしれないな』


『構造からするとここは本部じゃなくて捕らえた能力者を監禁……』


『またはそれ以上のこと…… だろうな……

 姿を消してから九日目になるのだから猶予はないだろ。

 やっぱり俺、行くよ……』


『ウチには止められないけど、ちゃんと帰って来てよね?

 おにいがいないと色々と不便なんだからさ』


『うん、間違いなく帰る、二人でな』


 おそらくさっき理恵の両親らしき二人が出て北側に出入り口があるのだろう。今いる場所から駐車場と反対の壁沿いにぐるりと回って行くと、狙い通りまともに使っていそうな扉があった。


 もちろん鍵はかかっていたのだが、そんなものはコロボにに装備されている開錠ツールがあればなんてことなく一瞬で開いてしまう。このご時世、本気で敗れない電子キーなんて存在しないのだ。


 屋内へと入り、先ほど確認した昇降口へと向かう。特に見張りもいないのでここにいるのはもしかしたらあの二人だけなのかもしれない。もし虹子が居なかったとしても、奴らを締め上げて吐かせるだけだ。


 床に開いているハッチを開いてからカメラで確認したが通路には誰もいない。俺はそのまま下へと降りてあのシェルターのような部屋へと向かった。するとすぐ手前の部屋に腕の無い男性と脚の無い女性が無言で座っていた。


 女性のほうは明らかに元気がなく、なにか落ち込んでいると言った様子で頻繁にため息をついている。男性はその姿を見ながら同じようにうつむいて黙っているだけだ。俺は見ていられず声をかけてしまった。


「静かに、理恵のご両親ですか?」


 叫んだり通報したりする素振りは全くなく、二人とも声を出さずに驚きの表情を見せた。女性の瞳には涙があふれこぼれ落ちている。やはりこの二人が理恵の両親で間違いなさそうだ。


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