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76.アジト

 外へ出てみると特に変わった施設は無く、さびれた住宅街と小さな工場がいくつかありそうな場所と言う程度か。この辺りは何十年も前から人はあまり住んでいない地区だ。


 犯罪者が拠点にするなら持って来いかもしれないが、インフラがまともに整備されていない地区ではさすがに普段から困ることが多いはずだ。そんなところにわざわざ構えるだろうか。


 しかし今俺が出てきた点検口の周囲には例の樹脂破片が落ちていて、この近辺はいかにも怪しいとサインを出している。


「紗由、かなり細かいが樹脂自体は検知できている。

 でも点検口を出てからはっきりとした方向までは見当たらない。

 なにか手がかりとかないだろうか」


『周辺に絞って確認してみるから少し待ってて。

 この辺りの川沿いには、数年前までプラスチックの再生工場があったはず。

 今資料送るから目を通した方がいいかも。

 現代はさっきから追いかけてる天然繊維を天然樹脂で固めたものだけどさ。

 製造技術的で言えば繊維強化プラスチック(FRP)と同類だからね。

 それも再生していたなら設備は共通で使えるかもだよ?』


「今回使われてた材料と親和性が高すぎるな。

 するとプラ再生工場の関係者が関わってんのか?」


『決めつけるだけの材料はないけど可能性の一つってくらいだね。

 とか言いつつ、ここに当たりがあったみたい。

 川沿いを戻って土手の下を西へ進むと人の出入りがあったっぽい建物あり。

 地面の残留樹脂が多いし、足跡が新しいからさ』


「アジトがわかったならとにかく突入してやるぜ。

 絶対に許さねえ…… 何がどうあっても誰だろうと絶対にだ!」


『どんな奴らがいるかわからないんだから見つからないよう慎重に!

 警備隊だって近くまでは来てるはずなんだからさ。

 逮捕は本職に任せた方がいいってば!』


「そりゃそうだろうな。

 でも俺は今ここでじっと待ってらんねえんだよ!」


 十数メートル先には、紗由がマーカーで示してくれた建物が確かにあった。古くて外壁は崩れかけているが、地面にはそれほど古くないタイヤの跡がある。これは明らかに人の出入りがある証拠だ。


 慎重に建物へ近づいていくと出入り口は使っている気配がなくボロボロの扉が腐って斜めになっていた。だが油断はできない、使ってない建物なら人や車の出入りがあるはずがない。


『おにい、建物の左手側奥に動きあり。

 多分人間だと思うけど、警備ロボットの可能性もあるか。

 とにかくすぐに隠れて』


 そういやダンジョンから出たのにHMDRを被ったままだった。それが返って役立ったしこのまま被ったままでいた方がいろいろ都合が良さそうである。とにかく隠れて身をひそめていたが誰も来ない。やはり小型の警備ロボットだろうか。


 そう思った矢先、車いすに乗った誰かとそれを押す者の二人が建物奥から出てきた。どうやら駐車場に止めてある車に向かうようだ。しかしそうではなく、駐車場と同じ敷地内にある大きな箱型の設備へと近づいていった。


 一人は細身の男性だったが、車いすを押して来たように見えたのは勘違いで、彼には両腕がなかった。そして車いすの前へ背を向けてしゃがみ込むと、そこから女性が手を伸ばし両腕の無い男性の首元へと手をかけて背負われるように体を預けた。そしてその女性には両膝から下の脚が無かった。


 なんだろうか、この違和感と言うか不自然さは。あの体の預け方を見ると夫婦や恋人のようなかなり近しい間柄に見える。そんな苦労をしながら生活するような人たちが、こんな廃工場のようなところで人目に隠れて生活していると言うのか?


 俺がさらに驚いたのはその二人が次に取った行動だった。大きな四角い設備の横にある階段に男性が上り、背中に乗ったままの女性が上部についているハッチを開く。そしてその開口部へ向かって両手をかざすと、大量の水が注ぎこまれて行った。


 目の前の光景を見た俺はたまらず紗由へテレパシーを飛ばした。


『紗由、この光景見えてるか?

 水を出す能力者、もしかしてこの女性が理恵の母親か?

 となるとそれをおんぶしているのが父親ってことかもしれねえ』


『カメラ映像だから完全じゃないけど内容はわかるよ。

 個人識別コードは出てないから特定はできないけどなんかそれっぽいねぇ。

 二人まとめて捕まえる? 他にも仲間がいそうだけどね』


『この様子だと水道が通ってないか止まってて補充に来たんだろうな。

 覇気の無い動きから、なんとなく下っ端臭がすると言うか……

 誰かに命令されて動いているような感じだよ。

 全部で何人くらいいるかくらいは知りたいなぁ』


 気が急いて仕方がないが、焦って俺がやられたら虹子の身に何が起きるかわからない。様子見すべきだとわかっているのに今すぐにでも飛び出しそうな自分を抑えるだけで精いっぱいだった。


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