67.キュウテンカイ
金曜は指導探索の日なので研究室で待ち合わせ、のはずなのだが、高科先生から考えたこともなかった意外なことが告げられた。
「そうなんだよ、寝耳に水と言うのはまさにこう言うことを言うのだろうね。
私のゼミを辞めるのは花田先生のゼミに移るためともっともではある。
なにより驚かされたのは鶴城君が飛鳥山隊へ加入したことさ」
「飛鳥山隊は三年生以上を加入条件にしていたはずですよね。
それがなんで突然一年生、それも索検三級の初心者を加えたんでしょうか」
「僕も念のため確認したんだけどね。
今後の勢力拡大の準備と言う名目で予備隊を結成するようだ。
飛鳥山本隊へ取り上げられるかどうかは予備隊での評価如何といったところかな」
「それにしても、まさか美菜実さんがねぇ。
虹子も驚いてたんじゃないですか?
一緒に指導受けてたのに急にいなくなるんだもんなぁ」
「まあ友利君は綾瀬君がいるから心配いらないでしょう。
鶴城君も優秀ですから上手くやって行くと思いますよ。
飛鳥山隊の方針にうまく合うようなら、ですが」
高科先生の心配はもっともで、飛鳥山隊は先日であった十二番隊まであるのだが、その全てが品行方正と言うわけではない。ほとんどの部隊はまともだが、一部の部隊は金儲けや名声、その他我欲のためならなんでもやるようなやつが混じっている。
美菜実とはここまでひと月半ほどの付き合いだが、俺との会話で見せた高潔さのような雰囲気は上っ面だけだったと言うのだろうか。それはとても残念でならないが、それほどまでして俺たちに近づきたかったと言うことになる。
すなわち、少なくとも美菜実に悪意があることは間違いない。だがその目的はなんなのか。それは俺か紗由かそれとも虹子なのか、研究や製品、はたまた能力なのか立場なのか、考えられることは様々だが、今のところは何もわからないままだ。
「それじゃ虹子が来たら指導探索へ向かいますね。
美菜実さんがいないなら二十階層から先まで行こうと思います」
「ここ最近は色々とおかしな出来事もあるから十分注意するようにね。
必要なら火器携行も認めるけど持っていくかい?」
「それなら麻酔弾を持っていこうかな。
ショットガン用の在庫有りますか?」
「もちろん、綾瀬君が使うと思ってたっぷり仕舞ってあるからね。
弾帯も一緒に持っていくと良いでしょう。
それじゃここにサインを、はい確かに」
手元から索検カードを取り出して電子署名を行い、ショットガンと麻酔弾十六発が差し込まれた弾帯を受け取った。これがあればこの間のクソザルも楽勝だったもしれない。
そんなやり取りをしているうちにようやく虹子が現れた。理恵は検査があるので医療スタッフに預けてくるはずだったが、なぜかそのスタッフまで一緒にやってきてしまった。
「あら? 虹子どうした? 理恵まで連れてきちゃって。
もしかしてぐずっちゃったのか?」
「ううん、虹おねえちゃんは悪くないの。
りぇがお話したくて来たんだから。
だからリクおにいちゃん、あのかぶるやつ貸して」
その言葉に何となく嫌な予感を感じつつ、俺は自分のHMDRを理恵へ被せてやった。そして言われるがままに紗由へと通信を繋いだのだった。




