66.クサイメシ
三十階層で小型の狂猪を仕留めて解体し、必要分だけ確保してから地上へと戻った。すでに三十三階層に置いてきた類人猿とあわせて運搬業者に回収を依頼し、そのまま買取を依頼してある。
現代では食肉用の家畜飼育はほとんどされておらず、タンパク質を初めとする栄養素は色々な素材から分解抽出し最終的な総合フードベースになる。その材料にはもちろんモンスターも含まれているのだが、探索で狩りをして利益を出すほどの大物を持ちかえるのは簡単ではない。
「それじゃこちらをご確認ください。
全部で五百四十一キログラムですね。
買取価格に問題なければサインをお願いします」
「大丈夫です、ではこれで」
運搬業者の報告を待ってから係留所まで出向いた俺は、索検カードで電子署名をして買取をしてもらった。運搬料と差し引くとホントに僅かな儲けしかないため、これを専業にして暮らしていくのは難しい。
怪力系の能力を持った探索者なら、自分で持って帰ってこられるため相当の利益になるらしい。そんな彼らが探索者を引退したあと、能力を活かして運搬業へ転職することも多いと聞く。
俺の場合はどんな仕事につけるだろうか。一番可能性が高いのは大学に残っての研究職だろう。ただ今のままでは無理で、全国のダンジョンをある程度は把握する必要がある。後進の指導をするなら地元の舎人洞窟だけ知っていても仕方ないのだ。
だがそうなると紗由を一人にすることになってしまうし、俺にとってはそんなの考えられないことだ。あいつは別に不都合なく暮らすに違いないとしても、心配で落ち着いて地方回りなんてしていられない。
と言うことはやっぱり会社を興して紗由の作った製品を製造販売するか、地財管理で生活を成り立たせていくのが間違いなさそうだ。それだと妹に食わせてもらっているようで引け目は感じるが、当人が拒否しない限りは一番現実的である。
今日はどうにも考え事が多くて困る。それはあのクソザルとの戦闘で気絶させられたことが影響しているのは間違いなかった。絶対に紗由より先に死んではいけない、なんてことはないだろうが、心持ちとしてはそんな感じだ。
家に帰りついたころにはすっかり日は暮れており、こんな時間に帰るのは久しぶりだ。それに今日は理恵と虹子が大学寮へ泊ってくる日だから紗由と二人きりである。
「おにいおかえり、肉はまたわけてきたの?
こないだは向こうでも鍋やったらしいじゃん」
「らしいな、今日も五人分くらい置いて来たよ。
うちの分も頑張って運んできたから三日くらいは食えるな。
残ったら干し肉にしておけばいいだろ?」
「うん、今日は鍋じゃなくて厚切りにして生姜焼きがいいな。
フードメーカーのボックスはこないだ補充したばかりだからできるよね?」
「そうだな、それじゃ生姜焼きにしような。
多めに焼いて腹いっぱい食うとするか」
肉を焼いているとあっと言う間に家の中は油臭くなったが、たまにはこういうのも人間らしくていいもんだ。普段口にしている、フードベースを使った3Dプリントの偽料理も栄養価を考えたら最適なのかもしれないが、本物の食材を食べている実感は何物にも代えがたい。
この油臭さは、そんな大げさな気持ちにさせてくれる気がした。
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