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64.マクヒキ

 のしのしとにじり寄ってくるのは非常に珍しいとされている二足歩行のモンスターだった。分類的には類人猿になるのだろうか。考古学で習うような人類の祖先に近い姿をしており、現代の生物で言えばゴリラよりも背筋を伸ばしたオランウータンという出で立ちか。


「畜生、こんなのとやるしかねえのかよ。

 俺に倒せるのか? せめてこないだまでみたいにショットガン持ってればなぁ」


『大丈夫、シックス(おにい)ならできるよ!

 いつもどおりにやれば大丈夫、相手だって怖いんだからさ』


「そうか、だから一気に近づいてきたりしないんだな。

 よし、気持ちで負けたらやられちまう、やってやるさ、イモウト(紗由)よ!」


 こんな嫌なタイミングで手ごわい相手に遭遇するなんてとても偶然とは思えないが、今はそんなこと考えている暇はない。俺は伸縮棍棒(スタンガン)を全開に伸ばして片手で正面に構えた。脅かすつもりでトリガーを引くと、先端に電撃が走りバチバチと音を立てる。


 胸元にセットしてあるナイフを確認してからポケットに手を入れフラッシュグレネードを取り出す。少しずつ間合いを詰めていくと類人猿も近づいてきた。もしかして思ったよりも知能が高いのか? 俺は警戒しながら投擲が届く間合いに入り、フラッシュグレネードを時間差で二つ放り投げた。


 一つ目が光った瞬間に距離を詰めて走り寄りひざ元へ一撃喰らわせた。その瞬間もう一つのフラッシュが光り、痛がり俺を捉えようとした類人猿は再び両目を手で覆う。そこですかさず反対の膝を力いっぱい引っぱたくと両手をつき、俺の背丈よりも倍以上高い位置にあった頭がさほど変わらない高さまで下がってきた。


「これでも喰らいやがれ! まずは一本!」


 気合を入れるために叫びながらナイフを閉じた瞼めがけて突き刺した。その狙いはバッチリで、頭蓋骨に防がれることもなく眼球を貫き、その痛みで類人猿は大きく吠えながら悶えている。そのまま脳天をかち割る勢いでスタンガンを両手で握りしめて振り下ろした。


『バギッ!』


 骨は砕けなかったがかなり大きな音がして強力な一撃が入ったことを物語る、が、それは俺が類人猿の裏拳を喰らった音だった。もちろんその行動は想定していたので予め体は硬化させていたが、かといってビクともしないなんてことはなく、六、七メートルほどふっとばされて岩肌へと叩きつけられた。


「ちぇっ、一発入れ損なったか。

 だけどこっちにダメージはないぜ!

 行くぞ! このクソザル!」


『シックスったら言葉がきたなーい』


 紗由が余計な茶々を入れてくるが、実はそんな言葉に笑っている余裕はない。クソザル(類人猿)が目からナイフを抜いているところへ走り寄って行って再びひざ元へ全力の一撃を浴びせる。そこを頭上から平手で潰すような一撃が振り下ろされて俺は地面に埋まってしまうかと思うくらいの衝撃を受けた。


 生身で喰らったらきっと踏まれたアリのようにぺちゃんこだったろうが、俺の肉体硬化はそれくらいではビクともしない。さすがに地面へ押し倒されてめり込んだが、代わりに頭上へ差し出しておいたナイフがクソザルの手のひらにバッチリと刺さっていた。


 痛がり怒りに震える巨体が俺に向かって突進してくる。左右の腕を振り回し俺を殴ろうとするが、片目で距離感がつかめていないのか見当違いの場所へ手を伸ばしていた。その大振りが空を切った瞬間にまたフラッシュグレネードを眼前へと放り投げて一瞬動きを止めると、両手に力を込めてクソザルの膝を三度ぶっ叩いた。


「グガアアギャガアー」


「どうだこん畜生! 今ので皿くらい割れただろ!

 ザマア見やがれってんだ!」


 言葉が通じるわけもないのに悪態を付きながら、膝の皿をえぐるような角度で同じ場所へナイフを付き刺した。悶えるクソザルの反撃が来る前にと、そのナイフの握りめがけてスタンガンを振り下ろす。これは相当効いたらしくその巨体に見合わないくらい大げさに頭を抱えて痛がっている。


「さらにこれはどうだ! じっくり味わいやがれ!」


 傷口を広げるようにぶら下がっているナイフへ棍棒を押し当てて電流を流すと、クソザルは身体を硬直させながらあおむけにひっくり返った。しかしその瞬間、流した電流で足の筋肉が動いたらしく、俺は派手に蹴飛ばされてしまった。


シックス(おにい)!!』


「だ、大丈夫だ、間一髪で肉体硬化が間に合ったからな……

 心配するな問題ないっての、なんとか致命傷で済んだぜ……」


 俺は(いにしえ)のネットミームを吐き出す程度には意識がはっきりしており、あばらか鎖骨かわからないがどこか骨折したものの命に別状はないと自己診断していた。だがそのまま意識を保っていられるかと言うとそうではなく、頭の中に紗由の叫び声を響かせながら気を失ってしまった。


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