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60.カツドウホウシン

 予定通り十階層まで飛ばしてきたが、ここから先はじっくりと進んでいった。ここから十五階層までは水が染みだしぬかるんでいて足元の悪い場所が続く。モンスターは小型の爬虫類や両生類のようににょろっとしたやつやネズミの仲間ばかり、のはずだったのだが――


「なんかさ、セブン(虹子)がいるとワニが出る法則でもあるのか?

 このへんじゃ滅多に見ないんだけどなぁ」


「そう言う言い方しないでよね。

 素材としては高級なんだからもっとありがたがってもいいんじゃない?

 で? どうやって仕留めるの?」


「帰り道なら良かったけどなぁ。

 でも三人いるから荷物にもならないか。

 それじゃ二人で狩って貰おうかな。

 表皮には傷をつけないようにしてくれよ?」


 俺がそういうと、虹子と美菜実はうなづいて相談を始めた。目標のワニはまだ遠くにいてこちらには気づいていない。できれば裏返しにするような策を思いついてもらいたいが、二人の能力や武器の特性を考えると簡単ではなさそうだ。


 しばらくひそひそ話をしていたがようやく意見がまとまったようで、まず最初に虹子が前で美菜実が後ろと言う陣形でワニへと近づいていった。当然相手も気づいて二人へ向きなおり早足で突っ込んできた。


 すると虹子まであと三メートルと言ったあたりで、ワニは突然ジャンプ台を上ったかのように空中へと飛び出した。というか本当にジャンプ台が作られていて、それはどうやら磁力で集めた砂鉄を板状にしたもので、ワニがその上を通過するタイミングに合わせて徐々に持ち上げたのだ。


 いつの間にか高い場所から飛び降りたように誘導されたワニは、地面へ下降しながら美菜実のトンファーで前足の辺りを殴られて裏返しにされた。さらに背中から着地したところへ手脚に向かって虹子の磁力槍が突き刺さる。拘束され動けなくなったあとは美菜実のトンファーによる腹部への強打が続き、ほどなくしてワニは力尽き動きを止めた。


「二人ともすごいな、いい連携だったよ。

 背中の一番いい部分を確保しながら無力化するのはなかなか難しいからね。

 それじゃ解体してしまおうか」


「やった! シックス(綾瀬)くんに褒められてうれしいです。

 でも確かにスタンガンがあればもっと安全に、傷つけるリスクを押さえて無力化できますね」


「そんな、トマト(美菜実)ちゃん凄かったよ。

 手際が良すぎて、これじゃすぐに差を付けられそうって心配しちゃったもん。

 私ももっと頑張らないといけないなぁ」


「いやあ、セブンのジャンプ台みたいな作戦は良かったよ。

 一瞬宙に浮いたところをうまく裏返したトマトも見事だったね。

 獲物の大きさは中くらいってとこだけど、表皮がきれいだから良い値がつきそうだ」


 話をしながらワニを解体した俺は、肉を三等分にしてから袋詰めにし、皮はきれいに巻いてからバックパックへと縛り付けた。解体のために地面が渇いた場所に移動していたため、いったん休憩することにして内臓や細かいくず肉を一緒に燃やして後片付けをする。残った骨や灰をしっかりと深めに埋めて始末完了だ。


「こういったクズはなるべく深く埋めること。

 さっき見かけたみたいに小さなモンスターを倒してそのまま放置するやつもいるけどさ。

 ああいうのがあると腐臭の原因になるし、集まったモンスターで後から来た探索者が思わぬ被害を受けるからね」


「そうなんですよね、配信でも結構そのままにしていくっぽいパーティーも見かけます。

 片っ端から倒していって大して時間を開けずに進んでいくのはおかしいですよね」


「まあ断言はできないけど、配信方向を不自然に切り替えるとあれって思うね。

 明確な決まりはないといっても他人の迷惑になることなんてするもんじゃない。

 でもトマトさんがそう言う考えを持ってるのは意外だったよ。

 別に学校で習うことでもないよね?」


「うちの父親が食品加工工場で働いているんですよ。

 だからモンスターと言えど粗末にするのはダメって小さいころから聞かされてて。

 シックス君たちのパーティーはそういうのしっかりしてて感銘を受けました!」


「なるほど、それでうちに入りたいって考えたわけか。

 それにしても活動方針が固いからって見た目にこだわりも制限もないよ。

 俺やセブンが地味なのはもともとだから変に合わせる必要なかったのにさ」


「それはちょっと反省してます。

 髪型だけいじるつもりだったんですけど、思いのほかセブンちゃんに似ちゃって。

 前髪とか眉までいじったからかなり似ちゃいましたよね」


「私もびっくりしたもん。

 世の中にはそっくりな人が三人はいるとか言うでしょ?

 こんな身近に現れるものなんだなーって思ったよ」


 こんなやり取りを聞いている限りやはり美菜実に悪意は無さそうで、俺はカフェ・オ・レを淹れながら一安心していた。


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