59.シドウサイシドウ
どうにもすっきりせずグダグダな週になったが、話し合いの末、結局はこれまで通りに美菜実の指導を続けることになった。しかし紗由が出した結果はなかなか手厳しいもので、指導探索中に理恵の能力を使って美菜実を監視すると言うものだった。もちろんこれは美菜実に伏せられているどころか虹子にも伝えられていない。
「それじゃ行こうか。
今日は一気に十階層まで行ってから十五階を目指そうと思うんだ。
モンスターは多くないけど地形が入り組んでるからはぐれないように注意してくれ」
「了解です、私でも十階層以上進めるようになったと認めて貰えたんですね。
なんだか嬉しくてウキウキしちゃいます!」
「トマトちゃん、油断は禁物だよ。
私が初めて十五階層まで行ったときはワニに追いかけられて怖い思いしたんだから」
「だからはぐれないようにって言ってるんだよ。
何かに出会ってもセブンみたいに走り出さないようにしてくれよな」
「いまさらそんなこと言わなくたっていいでしょ。
初めて潜ってから数回目であんなところまで連れてった癖にさ」
「だから指導では少しずつ進めてるだろ?
今日から二、三回は十五階層、その後は二十階層くらいを目指したいな。
予定通り行くかどうかはわかんないけどそのつもりで頑張ろう」
準備と言うか心構えが出来たところでいざ出発となった。最初は慣れた道をひたすら進み小型の節足動物やトカゲを蹴散らしていった。むやみに殺してしまうと持って帰ったりわざわざ埋めたりしないといけないので、手間はかかるが倒さないように慎重に転がしていく。
「そういえばトンファーにスタンガンを組み合わせる件はどうなった?
頼んでもそんなすぐ出来ないんだっけか」
「あの…… 装備開発課へ行ったんですけど断られてしまったんです。
カスタム武器の注文は索検二級以上が必要らしくて……」
「あれ? そんな制限あったのか。
俺は大学入った時に一級だったし、そもそもすでにパーティー組んでたからなぁ。
探索に制限なんてつけられたことないから知らなくて悪かったね」
「まあ普通にこのペースで潜ってれば半年くらいで実務経験は満たせるからさ。
昇級試験もそんなに難しくなかった気がするよ。
それまでは殴るだけで何とかするしかないね」
『イモウトよ? トマトの武器は何ともならないよな?』
とりあえずダメ元で、紗由へ美菜実の武器について相談してみると意外な答えが返ってきた。
『なんともなるよ。
指導探索でシックスが連れている時ならパーティーメンバーってことになるからね』
『じゃあ臨時メンバーにレンタルするって体ならいいのか?
探索隊の規約って意外と緩いんだな』
『今のところ怪しい気配はないから武器くらい作ってあげてもいいよ。
戦闘力が不足してパーティーがピンチになるのは困るしね』
『助かるよ、それじゃ来週までに用意出来るか?
一応来週までは黙っていた方がいいよな?』
『そうだね、先に伝えてしまうとなにか探られる可能性があるしさ。
怪しくないのは今のところ、ってだけかもしれないからね』
『いい加減疑うのはやめていいんじゃないか?
今も理恵に監視させてんだろ?
こんな長時間能力使わせて大丈夫なのか?』
『目をつぶってるだけだから全く問題ないよ。
能力発動中に驚かせたりすると昏睡しちゃうみたいだけどね』
どうやらなにかよからぬことまで試していたようだが、あえて突っ込むのはやめておこう。その辺りは超能力研究にも精通している紗由ならちゃんと加減をしているはず。こんな具合だから超能力研究者の父さんも、科学者で発明家の母さんも紗由と一緒に暮らすことを避けるようになってしまった。
それはともかく、考えていたよりも簡単にことが運びすぎて戸惑ってしまったが、それでも紗由が協力的になってくれたことは喜ばしい、と思っておこう。もしかしたらなにか企んでるかもしれないが、俺たちの不利益になることをするわけがない。
「まあ武器の件は俺もなにか考えておくよ。
とりあえず今日のところは普通の武器を使っていつも通りに進もう」
「はーい!」
「了解です!」




