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56.イガイニモ

 虹子が美菜実たちと鍋を囲んでいる頃、俺は高科先生からも話を聞いていた。


「実はね、私は鶴城(かくじょう)君が不自然なくらい突然に容姿を変えたことを知っていたよ。

 ゼミへ入る学生は全て入学申請書を確認しているからね。

 でも女性なら別に珍しいことでは無いし、友利君と似ているなと思った程度さ」


「そうなんですよね、その点は俺もあまり問題視してないんですけど……

 うちのオペが気にしてるんで指導を断れと言っているんですよ。

 でも美菜実さんの身元が間違いなければまあ納得してくれるはず、多分」


「彼女の両親は研究職や学者等ではなく普通のサラリーマン家庭だね。

 個人情報だから詳しくは話せないが不審な点は無いよ。

 出身は埼玉県、地元の高校から能技大へ進学と言ったところかな。

 もし誰かが入学を知って接触を図っているとしても調べるすべはないだろうね」


「あとは虹子がどこまで話せるかですかねぇ。

 ムリに聞き出そうとして険悪にならないといいんだけど……」


「いやあ私が二人を綾瀬君に押し付けてしまったからね。

 妹さんのことを考えたら知らない人の面倒を見ることに不満を感じて当然さ。

 こじれてしまうくらいなら、鶴城君には別の指導担当をあてがうよ?

 友利君も今後付き合いが続くのに気まずくなるのは辛いだろうしね」


「わかりました、ちょっと連絡してみます。

 虹子のやつ言い出せなくて困ってると思うんで」


 高科先生の申し出に乗ってしまおうと、俺は急いで虹子へメッセージを送った。担当替えの理由は二人同時指導は荷が重かったとでもすればいいだろう。実際にはどちらも面倒がかからず模範学生なので、美菜実を担当する側の上級生に得があると言える。


『高科先生へ相談したら担当替えしてくれるって。

 だから無理に嫌な話しなくていいから適当に切り上げていいぞ』


『大丈夫、もう色々話しちゃって鍋パで楽しくやってるよ。

 思ったよりもお肉が多くて、他に仲いい子も誘えてよかった』


『本当に大丈夫だったのか?

 あんな事を話したなら揉めたり気まずくなったりしただろ?』


『ちょっとした誤解だったんだよ。

 あとで詳しく話すね』


 どういうわけかわからないが、疑うようなことを伝えたはずの割には仲良くやっているらしい。一体どういう話をしたのだろう。それとも美菜実は元々隠すつもりはなく、虹子に本当のことを話してくれたのかもしれない。



 翌日、美菜実の件があって週一の指導探索は中止にしていた。俺は一人で潜って来ており帰りに研究室へと立ち寄り今日の素材を引き渡し、そのまま虹子たちが講義から戻ってくるのを待っていた。しばらくすると虹子が理恵の手を引いてやって来たのだが、その後ろからついてくる者を見て戸惑いを隠せなかった。


「えっ? 君ってまさか美菜実さん?

 その格好、いったいどうしたんだよ?」


「綾瀬君おつかれさま。

 やっぱり見慣れないからおかしいかな?

 真面目なパーティーだと思ったから雰囲気あわせたつもりだったんだけど……

 かえって不信感持たせてしまったようでごめんね」


 そこには昨日まで虹子と同じ黒髪三つ編みだったはずの美菜実が、明るめの髪をサラッとなびかせている姿があった。表情も明るく見えるのは歳相応に手間をかけたメイクのせいだろうか。


「いや、なんか明るくなった感じでいいんじゃないかな。

 なんでそんなことしてたのかはわからないけどさ。

 でもやっぱ無理して取り繕うより自然体が一番だよ」


 ただ、その自然体を紗由が受け入れるかどうかと言う重要な問題が、まだ残っていることを忘れてはいなかった。


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