5.ホームグラウンド
詳細を知っているはずの紗由は、虹子をからかうネタが出来たとほくそ笑んでいるのだろう。とにかくことあるごとにいじりたくて仕方ないのだ。その為には小さな嘘なら平気でつくのは困り者だが、横須賀校へ行くのは事実なのでとりあえず強く否定はしないでおくことにする。
「ふふふ、虹子ってば焦ってる。
それともヤキモチかな?」
「ななな、何言ってんのよ。
私は別にリクのことなんとも思ってないけど興味はあるから。
ただの幼馴染だけどそう言うのは知っておきたいじゃない?」
「なんだよ、人のこといちいち勘ぐるんじゃねえよ。
ちょっとこの間こっちのダンジョンで横須賀校の面子を助けたんだけどさ。
向こうの先生にお礼を兼ねて交流しないかって誘われたら断れねえじゃん?
俺の担当講師の高科先生も行って来いって言うしなぁ」
「横須賀校の人がこっちまで来てたの? なんか珍しくない?
舎人のダンジョンは希少資源の発見実績少ないからランキング低いのにね」
「だから虹子はランキングばかり気にしすぎなんだってば。
横須賀港管轄の東京湾ダンジョンより舎人のほうがいい面も多いぞ?
周辺に土地があって近くに住めるとか、植物の生態系研究に適してるとかさ」
いつの間にか虹子の試験勉強は中断してしまったが、たまにはこういうことがあってもいいだろう。幼馴染の友利虹子の索検三級四回目の受験が数日後に迫ったこの日、俺は苦労が報われることを願いながらモンスター肉の調理をはじめた。
「おい虹子、ダンジョンにはそれぞれ特色があるんだよ。
もちろん試験対策として、メリットデメリット含めてしっかり頭に入れておく必要があるからな」
「大体は理解してるつもりよ?
私たちがホームにしている舎人洞窟は周辺が広くて植物生態系の研究に適してる。
でも資源には乏しくて不人気でしょ?」
「不人気は余計だっての。
んじゃ横須賀管轄の東京湾洞窟はどうだ?」
「えっとあそこは周辺が海だから船がないと行かれないし天候にも左右される。
資源はそこそこ豊富で、大規模な鉄鉱脈や銅鉱脈が見つかってるんだっけ。
周辺海域には魚型のモンスターが多数生息してて水産資源になってるんだよね」
「OK、そこまではわかってるんだな。
関東三大洞窟、残りの一つ、九十九里洞窟はちゃんと覚えてるか?」
「えっと、海岸の砂浜近くに入り口があって周りに植物は少ないんだよね?
それって潮風のせいなのかしら。
主な資源はカニだっけ?」
「バッ―― ッカじゃねえの!
カニが資源のわけねえだろ!
あそこにはレアメタルがたっぷりあるんだよ。
そんでモンスターがほとんどいないから工作機械を設置して動かすことが出来んの。
確かにカニもいるんだけどそこはどうでもいい、ちゃんと覚えておけよな」
「はーい……
リクったらそうやって時々厳しいよね。
もうちょっと優しくしてくれてもいいのにさ」
索検三級にもう三度も落ちてるやつ相手に甘くはできない。これまで直前で気を抜いた結果が不合格の山なのだ。今度こそ受かって試験勉強の相手から抜け出してやる、と自分が受けるわけでもない試験への意気込みを強くした。