49.カイギのユクエ
家族会議と言う名目で座らされた俺と虹子は、不機嫌な妹の目の前でとりあえず黙っていた。しかしそれがさらに気に入らないのか、紗由はテーブルを平手で叩き大きな音を立てる。
「虹子!? 一体どうしたいわけ? このままでいいの?
新しい女の子を自分で連れてきちゃって何してんの!
しかも聞いた話だと虹子とそっくりらしいじゃん?
勝ち目あるわけ? 自分に自信あるっていうの?」
「いや、それは…… なんというか流れで……
担当講師も一緒だし断れないよ……
指導員の選定は私がするわけじゃないんだからさぁ」
「言い訳無用! 自分でその子を講師のところへ連れて行ったんでしょ?
そのトマトって子がおにいを狙って近づいてきたんだとしたらどうすんの?」
「おい紗由、その辺にしとけよ。
いくらなんでも妄想が過ぎるぞ?
俺だって別にいい気になってるわけじゃなくて指導はちゃんとしないといけないだろ?」
「おにいは黙ってて!
虹子、ちょっとこの写真を見てみなさい」
紗由はそう言って、顔写真が表示されているタブレット端末をテーブルに置いた。そこには髪を明るく染め派手目なメイクをしたかわいい女の子が映っていた。これがどうかしたのかと紗由を覗き込むが無言のままだ。しかし虹子は目を丸くしてタブレットを食い入るように見つめている。
「紗由ちゃん、この写真っていつの?
どこで手に入れたのかはあえて聞かないけど……」
「虹子? なにを言ってるんだ?
これがどうかしたのか? 知り合い?」
「さすがにおにいじゃそんなもんか。
これはね、能技大の入学申請書の写真だよ。
虹子はこれ見てどう思う?」
「確かに入学説明会にいたし、入学してすぐの講義で一緒になったことあったけど……
えっ!? なんで気が付かなかったんだろう」
「これ見てもまだのんきでいられる?
おにいが狙われてるとは思わない?
このニブチン目当てなのか産業スパイなのか、それとも虹子を嫌ってるのか。
ホントのとこは本人に聞いてみないとわからないけどね」
完全に置いてきぼりになってる俺はとりあえず黙っているしかない。話の内容からすると結構深刻だったりするのだろうか。それより美菜実の話はどこへ行ってしまったんだろう。
「でも直接聞くなんてできないよ。
ただ単にリクのこと好きになって近づいてきたのかもしれないし……
気にいられようとして私の真似した? いやないない……」
「だから余計に気になるんでしょ?
男子に好かれたいからって虹子っぽくするなんておかしいもんね。
本気ならもっとやりようあるはずだしさ。
だいたい武器の話が出たあたりから何となく引っかかったんだよね」
「ちょっと待て?
もしかして今って鶴城美菜実の話をしてんのか?
じゃあこの写真ってまさか……」
「だからそのまさかなんだけどさ。
おにいに近づくために虹子に寄せて近づいたのかもって。
そんで同じゼミに入ってパーティーにまで入ってきたってわけ。
正当な理由があると思う?」
「それは…… 俺が……?
いや待って、ちょっと待って、なんて答えたら正解なんだ?」
「クイズじゃないっての!
おにいがどう思ったか聞いてるんでしょ!
はいはい、モテるモテる、おにいはモテモテだよ、そうでしょ?」
「いや、さすがにそこまでは思わないけどさ……
つーかあんまり大声出すなよ。
マルリェが起きちまうじゃねえか」
「ていうかさ、そのマルリェってなに?
おにいたちはあの子が外国人だとでも思ってんの?」
「は? どういうことだ?
本人がそう言ったからその通りに呼んでるだけだろうが。
お前こそなにが言いたいんだよ」
「あの子の名前は『丸理恵』だっての。
ちょっと考えたらわかるでしょ?」
「えっ!?」
「えええっ!?」
俺と虹子は顔を突き合わせ同時に驚きの声を上げていた。きっと二人とも今日一番の予期せぬ出来事に違いない、それくらい驚いていた。
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