46.アンゼンダイイチ
実地テストも十分に済んで最適化が進んだDLS-HMDRでの探索配信は、これまでも問題は無かったのだがさらに動作が軽くなって見栄えが良くなっているらしい。自分ではリアルタイム配信を見ることができないのが残念なのだが、講義中にサボってみることのある虹子に言わせると、ランキング上位になってもおかしくない画期的な配信技術だと言う。
上位ランカーと差がついてしまう決定的な違いは探索者がしゃべっていないことらしく、今起きている出来事を面白おかしく、時には真面目に解説することも大切だと言われてしまった。しかしそんな器用なことが俺にできるはずもない。質問をされれば答えることは出来なくもないが、わざわざそこまでやる必要はないだろうしやりたくもない。
「でももったいないよ。
だってシックスのアバターすごくかわいいし、しゃべったらもっと人気でるはず。
それに戦ってるときの迫力も他の配信者とは大分違うよ」
「そんなもんかねぇ。
アーカイブ同士で比べるとそう変わらないけど、やっぱリアルタイム時のFPSが違うからかな」
「えっとそれって秒間コマ数だっけ?
シックスの配信は全然カクカクしないもんね。
やっぱりイモウトちゃんはすごいよねぇ」
「私は普段配信とか見ませんけど、自分が映ってるアーカイブには目を通してます。
その程度の知識でも違いがわかるほどすごいと思いますよ。
特に背中が見えてるのがいいですね」
「確かにその点は明らかな相違点だもんな。
物珍しさはあるだろうし、好評な要因の一つだろうね。
先週の人気ランキングではまた七十台だったからまぐれじゃねえし」
『はいはーい、イチャイチャ楽しいお話し中に悪いけどさ。
次の曲がり角になんかいるぽいぽい。
念のためセブンの鉄格子を先行させてみて』
「誰かが待ち構えてるってのか?
とするとモンスターじゃない可能性もありそう?
イモウトはマップと実地形ににずれがないか確認してくれ。
水分まではわからねえよな?」
『流石に水分はわからないけど、マップにずれはないよ。
例の能力だと壁が二重になったりするんでしょ?
今のところそんな兆候はないかな』
「となると襲撃者じゃなくてモンスターの可能性が濃厚か。
動かないとなるとヤツかもしれねえ。
二人とも十分注意して進むぞ」
虹子と美菜実がコクリとうなずき、俺が先に曲がり角まで進んだ。次に虹子が砂鉄を操作してその角を曲がらせると、鉄格子上になっていた砂鉄の塊が一瞬で粉砕されてしまった。チラっとしか見えなかったがほぼ間違いなく例の触手ヤローだ。
「セブン、次はなるべく高いところから撃ち下ろすように侵入させてくれ。
触手が上のほうを攻撃したのを確認したら俺がブッパするからな。
もし俺が捕まるようでもショットガンは投げ返すから拾えるようなら頼む。
そんでトマトさんが次を撃つんだ」
「でもそんなことしたらシックス君が巻き添えに……」
「俺は肉体硬化と超回復があるから問題ない。
ためらわずにぶちかませ!
それくらいできねえとパーティーなんぞ入れられないから頑張ってくれ。
セブンはとにかく何回も上空から気を引いてくれよな」
「わかった、任せて!」
「が、頑張ります!」
打ち合わせが終わってそれぞれが所定の位置で準備を整えた。虹子が俺の上空に砂鉄の槍をいくつも待機させており、美菜実は俺のやや後ろでもしもに備えてくれている。息詰まる緊張感の中、俺が合図すると予定通り虹子の磁力槍が敵に向かって飛んで行った。すると狙い通り槍が降りてきた方向へと触手が伸びて叩き落とすように振り回されている。
俺は身体を低くしたままで曲がり角から飛び出しショットガンを構えた。視界には想定通りイソギンチャクのような食虫植物のようななんとも言えない本体と、上空に向かって触手を振り回している姿が入る。そのまま腰ダメで初撃を放つと数発に分離した弾丸が突き刺さり、爆発音と共に銃創から体液と炎が噴き出した。
続けてもう一発、さらにもう一発と撃ちこむと全身が燃え上がっていく。振り回していた触手は根元から崩れ落ちその機能を失った。高科先生を初めとする研究者たちは残念がるだろうが、初心者を二人も連れた指導探索で万一は許されない。きっちりと燃やし尽くしてやるべきだ。
燃えさかる巨大なモンスターを眺めながら、俺は満足そうに仁王立ちしていた。




