44.ナゾのジョジ
その幼児はマルリェと名乗った。見た目はまるっきり日本人だし、ダンジョンガス環境下で普通に行動できているのだから日本人で間違いないはずだが随分と洋風な名前である。年齢は両手の指を三本ずつ立てたから六歳なのか?
「それでマルリェちゃんはどこから来たんだ?
なんであんなところにいたのか言えるかい?」
「えっとね、わかんない。
パパとママはリェを逃がしてからどっかいっちゃった」
「じゃあマルリェちゃんはパパママとはぐれちゃったんだね。
どっかっていうのはダンジョンの中? それとも外かな?
誰かと一緒だったりしたかな?」
「ママたちはきっと奥に行っちゃった。
でもリェは逃げてっていったから助けてくれそうな人を探したの。
そしたらネコさんが来てくれたんだよ」
「そのネコさんと言うのは俺のことなんだよね?
見ての通り普通の人間なんだけどなぁ」
「ううん、お兄ちゃんを見ている人には猫ちゃんに見えるんだよ。
リェにはね、誰かを見ている人と同じのが見えるの」
見ている人と同じものが見える? そういう能力持ちなのか? この場合の誰かは俺のことだろう。その俺を見ている別の誰かの視界と同じ物をこのマルリェは見ることができる? なんだかややこしい能力なのは間違いないが、ようは配信を見ているようなものだと推察できる。
「その誰かを見る能力と、助けてもらうのとはどう関係あるの?
たまたま近くに俺がいたってことかな?」
「えっとね、いっぱいの人に見られてるのは強くて偉い人だから。
だから歩いてきたお兄ちゃんがいいかなって。
その時リェはヘビに見つかってたし」
つまりあの時探索配信をしていた俺は、大して多いとは言えないがそれでも数十人かそこいらに見られていたことになる。普通はそんな大勢に見られている奴なんていないわけで、マルリェの能力に目を付けられて当然なのだろう。俺の姿がネコだったというのも、誰かが見ている配信画面を写し取ってみるような能力と考えれば不思議ではなかった。
「そっか、あの時はヘビから逃げて飛び出して来たってことか。
というかどこから出てきたんだ?」
「んと、石の中かな?
パパが出してくれたの」
「パパは石の中に入ったり出たりできるってことなのか、すごいねぇ。
ママはなにか凄いこと出来る?」
「そうそう、パパはすごいんだよー!
でもねママもすごいの。
だってね歩いてるときに後ろからお水がいっぱいついてくるんだから」
これはもしかして重要重大な証言なのではないだろうか。大量の水を運び、それを人知れず隠す能力の二つの使い道には心当たりがある。
とにかく最優先なのはこの子の身元を調べることかもしれないが、在留外国人の能力者なんて存在するのだろうか。もしいるのなら簡単に該当者が見つかるだろうが、まったく存在しない、認知されていないとなると調査には時間がかかるかもしれない。
隣の部屋で様子を見ている救護員や高科先生がしかるべき機関へ連絡しただろうし、警察か特殊捜査官あたりがすぐに調べ始めるはずだ。捜査が始まれば施設等で保護されどこかへ移動することになるだろう。
俺は決して憐れんでいるつもりはなかったが、数年前の紗由と重ねあわせていた。それだけに放っておく気にもなれず、能技大で保護されているうちはちょくちょく顔を出すつもりだった。




