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43.ヨビダシ

 週末をゴロゴロと過ごし特に何の目標もなく月曜日がやって来た。虹子たちはきっと大学で講義を受けているだろう。しかし俺はのんびりと起きて午後から軽く探索配信の予定である。このところ視聴者数が伸びていて紗由の機嫌がいい。

 

 それにこの間の錆びた上着事件のアーカイブには、紗由が『死体発見!?』なんて大げさなサムネを付けたおかげで再生数はうなぎのぼりだ。そしてビックリすることに、いや予定通り? 三人称視点によるアバター配信はかなりウケがいい。


「おにい、今日はどこまで行くつもり?

 一人の時は三十階層くらいまで行って派手に戦ってほしいなぁ。

 ウチ、かっこいいおにいが見たい」


「お前が見たいのは大きな数字の視聴者数とアーカイブの再生数だろ?

 別に正直に言ったって怒りゃしないし行かないなんて言わないさ」


「ううん、ホントのことだよ。

 再生数一杯回せるおにいがかっこいいんだもん。

 それか何かと変なことに遭遇するおにいもかっこいいよ?」


 あーそうですか、とふてくされたポーズを取りながら出掛ける用意をしていると高科先生から連絡が有り、能技大の救護課から呼び出しが来ていると言われてしまった。どうせ行きがけに研究室へ寄ることになっているのでついでと言えばついでだが、何となくがっつりと時間を取られそうな予感がする。


 週末を挟んで忘れていたが、そう言えばあの少女というか幼女か? あの幼い子供がどうなったのか聞いていなかった。電話連絡だけでは済まないから呼び出しを受けたわけなので、きっと普通ではない状態なのだろう。


「なあ紗由、この呼び出しってこないだ拾った子供の件だと思うんだよな。

 多分探索は休みになると思う、こりゃ仕方ないだろ?」


「まあ仕方ないけどさ、『ダンジョン内で謎の幼児を拾った!』の続きに期待だよ。

 あのアーカイブ、思ったよりも回らなかったのは保護して引き渡しただけだったからでしょ」


「だってそれ以上どうにもできないだろ。

 身元不明なんだから出演してもらうわけに行かなくてモザイクばっかだしな。

 あれじゃ何が起こってるか全然分からないから回るわけないよ」


 ぷーっとむくれている紗由をなだめてから昼飯を済ませ、気乗りしないまま研究室へと向かう。そんな気持ちを悟られてしまったかのように、高科先生だけではなく救護課の職員が当然のようにその場で待っていた。


 週末に何の連絡も寄こさなかったのにわざわざ担当講師を通じての呼び出し、そして来てみれば研究室で待ち構える救護課の職員。これは明らかにただ事ではない。最悪の報告も頭に入れて覚悟して話を聞かないとならなそうだ。


「綾瀬君ですね、僕は救護課の柳原と言います。

 わざわざ呼び出して申し訳ないが、先日保護してもらった幼児について話があります」


 ほら来た、やっぱり何か起こったに違いないと思ったんだ。できればせめて命に関わることでないことを願う。いくら無関係で知らない子供だと言っても悲報を聞いて何とも思わないなんてあり得ない。どうか無事でありますように、意識を取り戻したから事情聴取に付き合え、なんてのが無難で最良だ。


「実はですね、昨晩意識を取り戻したのですが妙なことが起こりまして……」


「妙なこと、とはいったいなんですか?

 意識を取り戻したのは朗報ですけど、そうじゃないからわざわざ俺を呼んだんですよね?」


「はあ、なんと言うか、意識を失っていた時のことを覚えているようなんです。

 それで、ずっと自分を抱えてくれていたお兄ちゃんにお礼がしたいと言っているのです」


「まさか!? 完全に意識はなかったですよね?

 それとも寝たふりでもしてたってことですか?」


「まあとにかく綾瀬君が来ないとなにも話してくれないと言っているのでね。

 申し訳ないが同行お願いできないだろうか」


 結局予想通りと言えばそうなんだが、思っていたのとは少し違う。それでもあの子が無事だったことにはホッとしていた。


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