42.フキツ
ここは三階層、ダンジョンに入って間もなくの場所に位置する大広間のような場所だ。細かな道はあまりなく、視界が開けていて何かの訓練にはもってこいの場所と言える。俺たちはここで模擬的な探知訓練を行うことにした。
「それじゃ虹子は鉄鉱石やそれに類するものをなんでもいいから探してくれ。
あまり地形を変えない範囲で掘ってみることも大切だからな。
美菜実さんはこの階のビーコン数を数えて報告してくれ。
マップを確認するとわかるはずだけど、入り組んだ地形は無いよ。
もしモンスターが出たら広間まで引っ張ってくるようにお願いします」
「「了解!」」
二人へ指示を出してからキャンプセットを取り出して火を起こした。別にこんなことしなくてもいいんだけど、焚火には目印としての役目の他に、自分たちの拠点であると言う安心感が得られるのであるに越したことはない。幸いにもこの階層にモンスターはほとんど出てこないし、いたとしても小型のネズミ類や節足動物程度だ。
お湯を沸かしてからインスタントカフェ・オ・レの粉を入れて火からおろす。間もなく二人とも戻ってくるだろうから休憩にするつもりだった。その時虹子から通信が入った。
『ねえリク、ちょっとこっちまで来てくれない?
なにかが埋められているみたいなんだけど掘ってしまっていいか確認したいの』
「了解、美菜実さんも合流できるかな?
埋められているのは間違いないのか?」
『埋めた後があるから間違いないと思うよ。
なにが埋まっているのかまではわからないけど鉄製のなにかなのは間違いないかな』
虹子の表示されている場所へ小走りで向かうと、美菜実のほうが近かったらしく先に合流していた。俺がその場所へ着いたとき、虹子は地面へばらまいた砂鉄に磁力を与えており、それらが埋まっている金属に反応しどんな形状をしているのかを示していた。
「これって…… もしかして人型?
埋まってるのって死体じゃないよね!?」
「いや、可能性が無いとは言わないけど、最近行方不明者報告もないしなぁ。
それに磁力に反応する死体なんて無いだろ。
いたずらにしても、こんな浅い階層ならすぐに見つかるはずだしいつ埋められたんだろう。
とりあえず俺が掘ってみるよ」
さすがの俺も緊張しながら地面を掘り起こしていった。すると確かに人型の何かが埋まっている。ジャンバーのような物を恐る恐るめくってみると、その下にはなにも無かった。つまり埋まっていたのはただの上着だけで、しかもそれは磁力に反応する材質でできていると言うこと?
「なんだこれ? 意味わかんねえ。
鉄粉がびっちりついて錆びてるっぽいな」
「誰かが棄てるために埋めていったのかな。
それにしてもなんでこんなに錆びてるんだろうね。
どうやったらこんなんなるんだろ」
「虹子みたいな磁力操作能力が暴走して服が重くなったから棄てたとか?
能技大指定の作業服ではないけど、まるキやいぬの制服とも違うな。
俺みたいに服装自由なやつ、もしくは闇探索者かもしれない」
「もっともらしいこと言ってるけど結局なにもわからないってことね。
死体が埋まってたわけじゃなくてホッとしたわよ。
はぁ、せっかくお茶入れたなら休憩にしようよ」
最近はたびたびトラブルに巻き込まれているからまたなにかおかしなことに遭遇したかと思ったが、タダの不法投棄なだけでホッとした。それでも報告義務があるので、俺は仕方なく錆びだらけの上着を袋詰めにしてバックパックへとしまい込んだ。




