41.シドウタンサク
今まで気楽にやって来たツケが回ってきたのか、今までほぼ無かった後輩指導で一気に二人を押し付けられてから今日で四回目の金曜日、つまり一カ月が経過した。いまだにあの触手モンスターは討伐されずたまに遭遇報告が上がっている。とは言っても遭遇後に隠れてしまえばどこかへ消えてくれると言う対処法が広まっているおかげで、今のところ人的被害は出ていない。
「それじゃ今日はコケ類の採取をメインでやっていこう。
あまり下を向いたままでなくてもゴーグル内に採取支援のマークが出るからさ。
例によってモンスターが出たら無力化して階層を移動するよ」
「「了解!」」
二人とも素直に言うことを聞いてくれるし理解度も十分なので指導と言ってもラクチンだ。オペの紗由は暇を持て余していて、裏でゲームをやっている音が聞こえることがある。オペレーターによる採取支援もAI任せで十分まかなえている。
「綾瀬君、私たちのオペレーターさんはどんな方なんですか?
まだお会いしたことがないどころか、一度もお話したことがないんです。
もしかして私嫌われているんでしょうか……」
「いや、そんなことはないから心配しないでいいよ。
うちのオペは俺の妹で優秀なんだけど、人見知りが激しくてね。
そのうち慣れると思うから気長に付き合っていってよ」
「嫌われていないならいいんです、妹さんならなおさら……
私もっと綾瀬君と仲良くなりたいですし……」
『おにい、新人への通信は切ってあるけどこっちには聞こえてるからね。
あんまりあちこち手を出すようなことしたら許さないんだから!』
「ちょっと変なこと言うなよ、俺がいつ誰に手を出したって言うのさ。
あれか? 横須賀の女の子とかか?
ないない、俺なんてガキだもん、相手にされないよ」
『わかってない、わかってないなー
今やおにいは結構な人気者なんだからね。
先週のランキングではとうとう二桁入りして大幅アップの七十四位だよ?
配信だって視聴者三ケタまでもう少しだしさ』
「そういや忘れてたけど俺のアバター、あれはいったい何なんだ?
ネコなのかピエロなのか、それとも手品師か何かか?」
『おにいは学が足りないなぁ。
あれはケットシーっていうネコの妖精で大昔のおとぎ話に出てくるやつだよ。
シルクハットとステッキがかわいいでしょ?』
「まあ最初のネコ耳少女みたいなやつよりは断然いいけどな……
武器はこう、なんというか、日本刀みたいなカッコいい奴にならねえの?」
『そんなのキャラに合わないからやだよ。
いいじゃん、伸び縮みするステッキで戦うなんてかわいいってば』
結局何を言っても押し切られるだけなので食い下がるような真似はしない。ただ念のため言ってみただけなのだ。俺と紗由がテレパシーで話している間に採取は進み、虹子たちが集めたコケ類の量は今日の目標数に達していた。
「それじゃそろそろ引き揚げ準備に取り掛かろうか。
鶴城さんは探索時間稼ぎたいだろうし、三階層まで戻って欠落ビーコン調査をしよう。
虹子は鉱物資源探知の練習をしてみてくれ」
「了解よ、今日こそなにか見つかるといいけどなぁ。
さすがに鉱脈は無理だろうけどね」
「私も承知しました。
それと綾瀬君、私のことは美菜実って呼んでくださいね。
虹子ちゃんと同じように扱ってくれると嬉しいの」
「お、おう、善処するよ…… 美菜実、さん……」
『おにいのスケベ! エッチ! ヘンタイ!』
それが聞こえた瞬間、紗由の罵倒が美菜実に届いていないのは本当に良かったと思っていた。




