29.ケイカイ
いくつものパーティーが一斉に入場するなんてことはめったにない。普段なら入り口で鉢合わせした時には予定階層を相談したりする時間もあるけど、今日はよーいドンで始めてしまったのでなんだか変な気まずさ漂う二階層への通路だ。
「えっと、俺は二十階層辺りまでは飛ばしていくつもりなんだけど君たちは?
こっちは一人で身軽だから進むのは早いし邪魔にはならないと思うけど……」
「あ、あの僕たちは最高でも十階層までで鍛錬するつもりです。
それより先に進むのであればどうぞどうぞ」
「私たちは十六階層から未発見領域を探そうと思っていました。
多分進んでも二十には届きません」
「じゃあ全員被らずってことか。
ありがとう、それじゃお先に行かせてもらうね」
「「はーい」」
ついいつものようにしゃべってしまったが、少なくとも飛鳥山隊は三年生以上が入隊条件だったはずだから年上というか目上だったかもしれない。動きも良かったからそれなりに鍛えられてそうだけど、今季デビューと十二番隊と言っていた。俺が知っている飛鳥山隊は九番隊までだったので、今年に入ってから三つ増えたと言うことだろうか。この舎人ダンジョンをホームにしている勢力の中では間違いなく最大のグループだ。
もう一つのパーティーは、スピードアップ系の能力者が二人いて、さらになにかで援護しているような様子のメンバーもいた。未発見領域探索なんて空振りが当たり前の分野を専門にしているなら相当慣れているパーティーのはずだ。舎人でそんなやつらの話は聞いたことがない。もしかしたら他から来た?
ダンジョンの中を、俺なりの猛スピードで走りながらふと考えが浮かんだ。横須賀校から派遣している奴がいるか確認してもらえばいいのだ。もし上位ランカーが舎人に来ているなら、あの氷漬け事件と同じようなことが起きるかもしれない。
「もしもし紗由? 聞こえるかい?
横須賀校からこっちに遠征しているパーティーがいるか調べられるか?
特徴は速度上昇能力で未発見領域探索が専門かもしれない」
『うーん、横須賀校の職員ネットワークに侵入しないと無理かも。
リスク高いけどそんなに必要なこと?
そんなことより、配信してるのにメッチャ走ってるだけでつまらないよ。
もっと戦ったりやられたり倒れたり怪我したりしないの?』
かなり物騒な期待を寄せられているが、そうそうやられてもいられない。時間をかけていたら追いつかれてしまって迷惑をかけてしまうから、とにかく今は急いで十七階層より先に行かなければならない。もちろんモンスターは全部スルーしていくのだが、一カ所に溜まったりしないよう注意も必要だ。
「そこまでして調べることもないから別にいいや。
スノーダイヤモンドの誰かに聞けば分かるかなって思っただけだから」
『その程度でいいなら虹子へ連絡して聞いてもらうよ。
ウチは連絡先とか知らないし』
「そっか、その手があったな。
それじゃ念のため確認しておいてくれよ。
入り口の騒動が人為的な物だとしたらちょっと気になるじゃん?」
『そうだね、さっき十四階あたりで誰か隠れてたし。
もしかしたら罠張ってるかもしれないから、場合によっては戻った方がいいかもね。
とりあえず虹子の返事待ちだけどさ』
「その地元っぽくないパーティーは十六階層あたりから下がってく予定らしい。
このまま二十階層まで一気に下がる予定だったけど十八くらいでやめとくかな。
配信内容はモンスタータグ打ちでいいか?」
『やる人少なくて珍しいからいいかも?
それとも人気ないかも?
ま、おにい一人だし獲り過ぎても困るんだからそれでいいよ。
豚がいることに期待』
「それは俺も期待したいもんだ。
たまには厚切り肉を腹いっぱい食いたいもんな。
ガンバルゼー!」
ここ最近、モンスター肉と言えばカピバラばかりだったので、豚を狩ったことを想像していたらテンションが上がり過ぎてしまった。牛系モンスターも味は最高なのだが大きくて持って帰るのが大変だ。なので俺一人でも楽に運べる程度の小型の豚がちょうどいい。と妄想を膨らませていた。




