28.トレダカ
予定よりだいぶ遅れているがいまだに入り口から進むことが出来ていない。と言うのも、特殊捜査官と一部の探索隊が揉めたせいである。ネズミの大群を誰が片付けることになろうと俺たちにとってはどうでもいいことだったが、向き不向きで言えば俺には向いてない作業なことは間違いない。
そのため足止めされていた中にいた舎人のトップパーティーである『カミナリモン』にさっさと片付けてほしかった。しかし揉めている探索隊の一番手がそいつらなので望み薄だと半ばあきらめていたのだが……
『おにい、どんな状況なのか絵が欲しいから見に行ってよ。
どうせ揉めたまま何もできないなら見に行くくらい許されるよ。
いぬが許さなくてもウチが許すから行ってきて、そしてやっつけちゃいなってば!』
「無茶言うなよ、俺の能力じゃ数百匹を片付けるのなんて無理だっての。
散らすくらいならできるかもだけど、さすがにそれやっちゃマズいだろ」
『他に誰かいないのかな。
全員が揉めてるわけじゃないんでしょ?
志願して突撃すればバズるかもしれないから頑張って!』
通信に何かを食べる租借音が入っている。こんな時でもおやつを食べながら身勝手な指示を出してくるのだから困ってしまう。しかしじっとしていても仕方ないのは事実である。俺は紗由の口車に乗って、思い切って先陣を切ることにした。
「もう報酬とはどうでもいいんで俺は行きますね。
散らかった分は運搬業者さんが片付けてくれるってことでヨロです」
「おう、君は公共の利益と言うものがわかっているな。
識別コードを記録しておこう」
別にこれは脅し文句ではなく、確約はしないがいい報告は上げてくれると言う意味だ。しかしこう言う場合、貰えるのは追加報酬ではなく感謝状と言うのがこの業界の常識である。それでも俺の宣言に乗ってくれた探索隊がいて、多分弱小だが損得を考えるほど経験がない奴らは手を貸してくれた。
「あの、僕たちも一緒にやらせてもらいますね。
今季デビューしたばかりの『飛鳥山十二番隊』と申します。
僕は重力制御、メンバーにはアタッカーとして架空の弓矢の使い手が居ます」
「あの飛鳥山隊の十二番目!? それは心強いね。
俺は肉弾戦専門だから数こなすの大変なんだ。
能力は肉体硬化なので気にせず射ってくれて構わないよ」
射手である女の子はギョッとしていたが、俺は全然問題ないともう一度伝えたら納得してくれたようだ。もうひとパーティーは俺と同じ近接系でスピードアタッカーらしい。競争したら確実に負けるだろうが、この状況が早く片付くならいくらでも負けて構わないと言うのが本音だ。
ダンジョンの床一面に敷き詰められたように待機しているネズミたちはなんで動かないのだろうか。その理由はわからないまま、俺たちは討伐と言うか駆除を始めた。
俺はいつものように棍棒形状のスタンガンで気絶させるのではなく、強く殴りつけて始末していった。重力制御の使い手は金属製のボールのような物を空中へ放り投げてから重くしてネズミを打ち抜いているようだ。もしあれを回収出来る虹子と組んだならとても相性がいいだろう。
その仲間の実体の無い弓矢による攻撃も素晴らしい。人力なので連発は疲れるだろうに、次から次へと矢を放っている。他にも怪力っぽかったり何かを発射する系の能力者もいるようで、結構順調なペースで片付いていく。
「捜査官さん、そろそろ片付いたんで俺たちは進みますよ。
残りは回収業者さんと一緒に始末してくださいね。
それと一応ご褒美期待してますからー」
「うむ、みんなご苦労だった。
間違いなく上へと報告しておこう。
期待してくれたまえ!」
『おにい、きっと感謝状だけだよ。
この間の救助だって感謝状とフードベース十個だったもん』
「仕方ないさ、総務省はケチなんだからさ。
経産省案件だったら金一封くらいつくんだけどな。
上位パーティーが渋るのも仕方ないよ」
『まあでもウチはいい絵が撮れたから満足だけどね。
残念ながら配信はいつもと大差ないけど『なんかすげー』ってコメントついたよ。
きっとアーカイブは再生数稼げると思うから期待しよー』
そんなことを言いつつも、俺の探索は終わらせてもらえたわけじゃなく、時間一杯は進むようにと命じられ先を急ぐのだった。




