26.カワザンヨウ
本来快適な舎人ダンジョンで一番温度が高そうな俺の頭は、結局なにも解決せずに二週間、探索回数は八回を数えた。つまり撮影用のカメラは見つからず、高熱源体をHMDRへ内蔵したままで過ごしたと言うわけだ。
「おにい、そろそろデータ取れてちゃんと再現できそうだよ。
次からストレージ変更して設定を軽いのに戻すから安心して」
「ようやくあの暑さから解放されると思うとホッとするよ。
次必要になる時までにカメラ探しておいてくれよな。
つーか、壁のテクスチャなんてどうでもよくないか?」
「せっかく見栄え良くできそうなのに手抜きするのもったいないじゃん?
いくら地味なおにいの探索配信でも、ウチはいっぱい見てもらいたいの!」
この言葉をどうとらえたらいいんだろう。ことあるごとに地味だ地味だとけなされている気もするが、俺の探索を評価してくれているようにも感じる。とは言っても表に出しているのはどう見ても 『我欲』そのものだ。
だが俺にとって愛すべき妹の望みを実現させることは何においても優先される。その為なら多少の恥ずかしさなんて余裕で我慢できるに決まっているのだ。紗由が準備を済ませたと言うのだから先ずはやってみることにしよう。それには虹子がいない方が都合がいい。なぜならアバターを見られるのはやっぱり恥ずかしいからだ……
「それじゃテストってことで二十階層くらいまで行ってみよー
配信するけど音声は入れないから普通にしゃべっても平気だからね」
「お、おう、つまり俺の姿はアバターで配信されるってことだな。
これで本当に視聴者数稼げるのか?
俺は無理なんじゃないかと思うけどなぁ」
「そりゃ一回目からいきなりは無理でしょ。
でも続けていけば絶対話題になるって。
いざとなったらスノーダイヤモンドとのコラボ動画だってあるしさ」
「それじゃ何回も配信することを覚悟しろってことなのな。
確かに何事も最初からうまく行くわけはないか……
ま、紗由の気が済むまで付き合ってやるさ」
「さすがおにい、物わかりが良くてウチうれしいよ。
虹子が一緒になる次の土曜までに一人配信の調整は済ませたいからさ。
今日は残業ありで六時間くらいよろしくね。
もちろん今週は休みなしだからそのつもりでお・ね・が・い」
お願いと言いつつもこれは完全に命令だし、内容も労働基準法を軽くぶち破る長時間労働かつ休みなしと来たもんだ。とは言え、三人称視点でのアバター配信自体には俺も興味があるし、うまくいったらガッポガッポ稼げるかもしれない。
もちろん俺が想定しているのは、配信がバズって上位人気ランカーになり副収入が期待できるなんてことではなく、DLS-HMDRが爆売れすることを期待してのものだ。自分たちで量産できないとしても、製造ライセンス販売や特許使用料等々で相当稼げるだろう。
そうなったら紗由と一緒に引きこもったまま、研究に没頭する生活ができるかもしれない、なんて考えてニヤニヤしてみたものの、俺の専門研究分野は自分でダンジョンへ潜らないと実現できないと気付いて勝手に落ち込んでいた。




