22.カクシンテキ
翌日、つまり横須賀校へ遠征してきて三日目の朝、昨晩遅くに紗由から届いていた動画ファイルに気が付いた。今日も昼からダンジョンへ潜ると言ってあったのに、早寝せず寝坊したらどうするんだと思いつつ動画を再生してみた。
『なんだこりゃ!?
これがもしかして例の新型HMDRで記録したデータなのか?
まるっきり実写風だしこれは…… もしかして俺がアバター表示されているのか?』
ブツブツと呟きながら確認していた動画には、公認HMDRのような一人称視点での3DCG表示ではなく、三人称視点でのCG表示、といってもまるっきり実写映像にしか見えないダンジョンに、ネコ耳少女の3Dアバターが闊歩していたのだ。
現代日本の通信システムはお世辞にも世界基準で見て高性能とは言えない。全国津々浦々に張り巡らされていた光ファイバー通信網も、6Gと呼ばれたモバイル通信網も壊滅しているからだ。代わりに整備されたのは東北から近畿へ伸びる鉄道網に沿った通信用メタルケーブルと、ダンジョン内のビーコンを利用した反射式小規模無線通信網がほぼすべてだ。
学校や役所、軍関連施設のような大型の公共施設には独自のLANが構築されており、それが全国ネットワークへと接続されている。歴史を振り返って同等に近い通信網を探すとすれば、それは二十一世紀初頭前後まで遡るほど、つまり約百年前の設備に等しい。
そんな劣悪なネットワークしか存在しない国内でリアルタイム通信するためには、当然データ量を大きく削減する必要がある。そのためダンジョン配信の画像品質も百年前程度のクオリティに抑える必要があった。
それなのに、送られてきた動画データは、カメラ映像そのままの背景にCGアバターをAR合成したものなのだから驚くほかない。そもそも俺の後ろにカメラマンが居たわけでもないのだから、カメラで写した探索映像なんてものは存在していないのだ。
これが本当に録画ではなく、HMDRの外周にいくつも埋め込まれているセンサで読み取った地形を元に再現したCGだとするなら画期的なんてもんじゃない。ホームダンジョンではないので細部まで正確に読み取られているのかまではわからないが、パッと見では破綻しているように感じない。
動画の下部にはタイムコードが表示されており、不自然な時間経過が起きた様子もない。これがまさかリアルタイム合成映像だとするなら画期的すぎる発明と言えるだろう。そもそもこんなホビー的分野に注力している科学者は現代にあまりいない。今は衣食住を初めとして、生きるために必須な物の質を向上することが社会的に望まれているからである。
しかし紗由は違った。住むところは最低限雨風がしのげて研究に使う機器が置ければいいようだし、食事は誰もが不満をこぼして当たり前の総合フードベース料理とたまのモンスター肉で満足している。着る物なんて言わずもがなである。
あれこれと考えることは多かったが、とり急ぎ俺はまだ寝ているであろう紗由へメッセージを送っておくことにした。とにかくあの動画の詳細が知りたくて仕方ないのだ。
そして数時間後、もう東京湾ダンジョンへ潜るために海軍船へ乗り込んだ辺りで帰ってきた返答に俺は一人で突っ込みを入れていた。
『おにい? やっぱりネコ耳少女じゃかわいすぎて気に入らなかった?』




