15.チェックイン
横須賀の駅ビルは防衛省と経産省の支所が入っており、能技大横須賀校は経産省支所に隣接している。すなわち駅から徒歩0秒と言う好立地である。東京郊外にあって交通網がタクシーしか存在しない舎人校とはえらい違いである。
ビル内には軍服の海軍兵士がそこらじゅうにいるので何やら物々しさを感じるが、上層階にある海軍寮と海岸にある横須賀基地を通勤で行き来しているだけらしい。ちなみに海軍は探索者と無関係でもなく、東京湾洞窟へ行くには海軍のパトロール船で送迎してもらうとのことだ。
ホームグラウンドの舎人と比べるとかなりきれいで栄えている横須賀駅に気後れしつつ、学校の受付へと向かった。
「お疲れ様です。
舎人校から来た綾瀬六雨です。
二日間よろしくお願いします。
こっちが探索隊員の友利虹子です」
「あ、あの、索検三級取ったばかりの友利です。
この度は同行を許可していただきありがとうございます」
「二人とも横須賀校へようこそ。
今回の担当講師、松原弘樹です、どうぞよろしく。
専門は洞窟整備なので関連で知りたいことがあればなんでも聞いてくれ」
「洞窟整備ってどういう分野なんですか?
すいません、まだ入学前なので細かいこと全然知らなくて……」
「洞窟整備と言うのは損壊等で失われたビーコンを打ったり、運搬ルートを整備したりと色々かな。
生体調査からの報告を元に危険度を区分けするのも僕たちの仕事だね」
「なるほど、縁の下の力持ちって感じでカッコいいですね。
そっか、将来はそう言う道もあるってことかぁ」
まあ学問と言うか、能技大で教える講義の分類ではそうなのだが、実際には探索隊が不足のビーコンを追加したり、崩れて失われたところへ補充したりしている。モンスターと遭遇した際には種類や数を記録して報告することも義務付けられている。
今言われた中で縁が無いのは運搬ルートの整備くらいだが、舎人ダンジョンの場合は階層エレベーター建造時にモンスターが地上へ出てしまったため計画は大昔に中止された。そのため今も人力で運んでいるのだが、まさか背負って運び出すわけにもいかないので、専門の探索隊が運搬を請け負っている。
東京湾ダンジョンは海中エレベーターが設置されており、数階層ごとに出入り口と休憩所があると聞く。それだけ聞くと恵まれている環境に思われがちだが、モンスターが大量に出る階層が多く関東三大ダンジョンの中では一番難易度が高いとされている。
九十九里ダンジョンにも採掘資源運搬用としてダンジョン内エレベーターが設置されているが、探索者は乗せてもらえないらしい。モンスターもほとんどいないし資源調査はかなり進んでいて新規性もなく、交通機関が未整備なので今や東京以上に人の少ない土地である。
受付で入館を済ませた俺たちは、担当講師に出迎えられ雑談をしながら部屋へと案内してもらったのだが、ここで初めて男女二人で来たことを指摘された。
「そう言えば二人部屋だから同行は問題ないと簡単に言ってしまっていたね。
実はまさか男女ペアだとは思っていなかったんだ。
ええっと、友利さんは知らない子と同室でも気にならないかな?
誰か女子寮の子の部屋を当たってみようと思うんだけど待っててもらえるかな?」
「は、はい、特に気にしませんが、わざわざお手間かけるのは申し訳ないです。
リク、いえ、綾瀬君とは兄妹みたいなものなので、私は同室でも問題ありません」
「それでもさすがに学校の寮で男女同室は不味いからね。
とりあえずこの部屋に荷物を置いてフリースペースへ行こうか。
所在確認に索検カードを使っているから忘れず身に着けておいてね。
ちなみにカードで飲食もできて一日二品までは無料だから興味があれば試してみて」
寮に入ったことがないから知らなかったが、そんなお得な仕組みもあったのか。とは言っても舎人校の寮にもあるのかはわからない。それでもこの横須賀校の寮には随分興味を魅かれた。




