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11.ヘンカク

 日本中の地形が突然変貌し、各地にダンジョンが口を開いたのが今からおよそ八十年前。もちろん毒ガスの噴出が始まったのも同時である。それよりも少し前に始まったユーラシア欧州戦争(WWⅢ)は世界を大きく疲弊させ多大な損害を出したのだが、日本はそこに参戦する間もなく地殻変動という大災害により人口が半減した。


 それから十年ほど経ってから、首都は比較的環境の良かった旧山梨県へと移転した。その理由はもちろん首都東京の壊滅だ。日本人口の約一割が住み、政府機関や全ての省庁が集結していた大都市だったものが、たった数年で人も物も激減したことは歴史の授業で教わるので誰でも知っている。


 今も日本中に蔓延している毒ガスは致死性のものではないのだが、身体機能の大幅な低下や睡眠効果をもたらし、防毒マスクや空気清浄器も役に立たないと言う特性がある。そのため、その環境から逃れるよう外国人たちはこぞって出国し、駐留米軍も世界中の企業もあっという間に日本から立ち去った。こうして日本は世界から孤立し見捨てられた国家となった。


 しかし、ダンジョンと毒ガス発生から十年ほどで日本人は他の人類とは異なる大きな進化を遂げ、毒ガスに適応する呼吸器官と、一部の新生児には超能力や超頭脳が備わるようになった。未だに原理は解明されていないが、特殊能力は日本人特有の遺伝子を持った親から産まれた子の一部にしか発現したことはなく、そのせいもあって日本に留まる外国人は皆無だったらしいし、今も訪れる気配はない。


 そんな特殊能力を持った子らが成長した結果、過去に存在していなかったような天才たちが現れ、毒ガスを用いたエネルギー取得機構を発明すると、二十世紀から長年懸念されていた燃料問題が解決した。その後も食料革命が起き従来の国家が形骸化していくと十代の社会進出が進み急激な社会変化が起きた。


 当時は十代の天才児たちが社会を動かすなんてことは想像できなかっただろうが、健康を害してまともに動けない大人たちが、ダンジョン世代の子供たちが描く未来図に抗うことなど出来るはずもない。そして西暦2048年には新政府が樹立したのだが、政府を初めとする政治家や官僚たちは全て十代だった。


 日本の改革がまあまあ順調に進んだのは、主だった国がほぼすべて参戦した世界大戦の混乱で、毒ガスが発生し続けて多数の死者が発生している島国に構っている余裕が無かったことも幸いした。大戦の中心となった北の大国は、核戦争終了後に残った僅かな土地でEU管理の自治区としてのみ存続している。


 東ユーラシアも同様で、日本に隣接する国で原型をとどめているのはフィリピンだけである。台湾は大陸の中でも被害の少なかった香港を含む大陸の一部都市と合併した新国家を樹立しているし、チベットが独立したりモンゴルが国土を広げたりと激動の時代だった。


 まあ今更世界史を勉強し直しても国交が無くなった今となっては意味がない。ただ、他の国では昔ながらの農業をやっていて、今でも本物の肉や野菜を食べているらしいのでそれは羨ましい。日本でも農業を営んでいる人たちはいると聞くので、その人たちは本物を食べているのかもしれない。


 しかし現在は、雑穀や雑草等の成長の早い植物や水、大気から炭水化物やビタミンを生成、動物性タンパク質は昆虫やモンスター、植物性たんぱく質は主に大豆から抽出精製し、それらを一カ所で生産する工場がほぼすべてのはずだ。モンスターとは言え、本物の肉が食べられるだけ探索者は恵まれていると思い込むしかない。


 それに明日か明後日には久し振りに本物の魚が食べられるかもしれない。俺は横須賀行きを楽しみにしすぎて、虹子の問いかけに気付かずほっぺたをつままれてしまった。


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