10.研究所ウマレ研究所ソダチ
紗由の発明品の一つ、いつもダンジョンへ行くときに乗って行くミニバイクはさすがに今回の遠征に持っていかれない。今日は遠征前日だしオペレーターの紗由も寝ていて探索は休みなので、ミニバイクの手入れをしておくことにした。こいつには自立ジャイロがついているのでキーをオンにすると倒れずにじっとしていてくれる。お陰で掃除や手入れをするのが楽だ。
更に、俺にとって必須アイテムであるマイクロ発電機内臓のバックパックもしっかりと点検しておく。これのおかげで予備バッテリーが不要になったし、ライトを初めとする電気装備品や、探索用端末等の電子機器も使い放題なのだ。もちろん燃料はとめどなく溢れ出てくる毒ガスである。
ちなみにこのマイクロ発電機は、入手しやすい部品を使って一般向けに再設計したものが市販されることになっている。他にもビーコンを打ちこむためのアシストツールや、設置型のモンスター識別装置も市販品へフィードバックされた実績がある。
ただし量産品となると、パッケージやサポート等を含んだコストが発生するため、企業へライセンス契約をするのが精いっぱいで、開発費等々を差し引くとそれほど莫大な利益を産み出すほどではないのが残念だ。
だが今回のDLS-HMDRはかなり期待できそうだ。特許や実用新案をどこまで取れるかはわからないが、地形センシングからの3D描画とアバター表示には新規性があると言えよう。と言うことは――
「でもなあ紗由、新型で特許とか視野に入れるならおおっぴらに使ったらまずいだろ。
母さんに頼んで申請してから使い始めた方がいいと思うぞ?」
「おにいはのんびりしてるなぁ。
そんなのもうとっくに済ませてるってば。
ママがもう使っていいって言ってたから試そうとしてるに決まってるじゃん」
おっと、やっぱり妹の方が数倍賢いのでとっくに先を行っていた。近くで誰かの配信を見ている虹子もこれには苦笑いだ。虹子の父は資源探索員、通称『まるキ』なのだが、母親は元探索者で今は能技大で教鞭を取りつつ資源調査を研究している。そんなことも有り、一家まるごとダンジョンへどっぷりと浸かっていると言ったところなのはうちと似たようなものだ。
うちは父親が超能力研究者で、母親は経産省の下部組織でセンサー類の研究開発をしている。どちらも現在の拠点は山梨都内なので滅多に会うことがない。昔はこの東京府が首都だったらしいが、ダンジョン発生による環境悪化と人口減少で一時期はゴーストタウンになっていたと聞く。
まあ現在の東京府も全自治体の中で人口はそれほど多くないが、東京近郊には北足立市の舎人洞窟、横須賀沖の東京湾洞窟、そして太平洋に面した九十九里洞窟の三つがあるダンジョンの多い地帯だ。それを監視管理する役目もあるため国内最大の日本軍基地であり陸海空全てが揃っている東雲駐屯地を擁している。
世界的に見れば環境の悪い地域上位に入るのだろうが、俺と紗由は舎人洞窟周辺に設定された危険区域内にある親父が務めていた研究所併設の病院で産まれたのでそう言うことは気にしていない。虹子も同じ病院で産まれたが、ほどなくして区域外へと引っ越したらしい。
内と外では生活環境が大分異なるわけで、一番の違いは内側には水道が通っていないことだ。元々はちゃんと整備されていたらしいが、水道管の中に毒ガスが流れてしまうと膨張で破裂してしまうのだと教わった。同じ理由で都市ガスも撤去されているが、こちらは電気でまかなえるので問題はない。
まあ勤務地からの利便性を取ったうちの両親と、育児環境を取った虹子の両親の考え方の違いと言ったところか。でも結局俺たちは、危険区域内側にある超能力研究所内で幼少期を共に過ごし現在に至るのだった。




