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街角簡易シミュレーター・AOIちゃん  作者: マーク・ランシット
8/30

「くそっ」

 自転車のペダルをこぎながら、もう何度も繰り返した言葉をまた口にした。


「あのくそ監督め。なんで俺をレギュラーから外すんだよ・・・」

 あの他人をなめ腐った様な顔を思い出す度に、悔しさといら立ちがフツフツと沸き上がってくる。


 川沿いの自転車道。

 夜の10時を過ぎた今は、人影はほとんどない。

 川の反対側には住宅がずらりと並び、個々の窓には暖かそうな灯りが灯っている。


 キャーー。


 どこかで女性の叫ぶ声がした。


 誰かー-!


 僕が進んでいる方向だ。


 頼りない、薄暗い街灯の下に3つの人影が見えた。


「うっせんだよ、こいつ。もうあきらめろよ」


 二人の男と一人の女性。

 女性の後ろに回った男が、彼女に抱きつき、前の男が彼女の唇を奪おうとしていた。


 関わり合いにはなりたく無かった。

 だけど女性が、僕の自転車のライトに気付いた。


「お願い助けてー-」


 僕は彼女の声を無視して横をすり抜け様として、端の方にハンドルを切った。


 蛍坂36の古城舞じゃね? 

 僕の網膜の端っこが、敏感に反応した。


 キイイイイイ。


 僕は急ブレーキを掛けた。僕の憧れの古城舞がそこにいた。


「こらっ。ガキが関わるんじゃねーよ。とっとと消えな!」

 言ったと同時にキスをしようとしていた男が駆け寄って来た。

 遠くで見ていたよりもスゴイ身体をしていた。


 男は、自転車にまたがったままの僕の襟を掴むと、凄い力で押した。

「うわっ」

 僕は自転車と一緒にコンクリートの地面に倒れ込んだ。


 倒れ込んだままの僕に、男は素早く近づき脇腹に蹴りを入れた。

 ぐっ。

 あばら骨にヒビが入ったかと思うほどの痛みが走った。


 間髪を入れず、男が僕の頭に蹴りを入れる。

 僕はかろうじて左手でそれを防いだ。


「うわっ」

 左手で掴んだ男の足を、僕は強引に払った。

 男はバランスを崩して地面に倒れ込む。

 ボキッ。ぎゃー--。

 受け身を知らない男は、変な手のつき方をした。

 僕の目に、腕があらぬ方向に曲がるのが見えた。

 イテー、イテーー。

 男は折れた方の腕を抱えて泣き叫ぶ。


「おい、大丈夫か?」

 もう一人の男が駆け寄る。


 バチーーン。

 起き上がった僕の右の頬に、男が強烈なパンチを放った。

 目の中で花火が炸裂した。

 僕はふらついて後ろに下がった。


 今度は顔面目掛けてパンチが飛んで来た。

 僕はそれを首だけ動かして避ける。

 空を切った男のこぶしと一緒に、男の顔が近づいてくる。


 ゴン。

 僕の頭突きが、男の鼻骨にヒビを入れた。

 ぎゃー--。

 男の額から鮮血が流れる。

 よろけて後ろに下がった男の股間ががら空きだった。

 僕は迷わず、股間目掛けて強烈な蹴りを撃ち込んだ。


 ぎゃー---。ドスン。

 男は地面に倒れ込み、股間を両手で押さえながら転げまわった。


 辺りに響くのは、二人の男たちの叫び声だけになった。


「ありがとうございます」

 僕と正面から向き合った女性は、紛れもなく蛍坂36の古城舞だった。


「傷の手当てをしなくっちゃ・・。私のマンションに来て・・」

 僕の自転車の後ろにお嬢様座りした彼女は、僕の腰に手を回しながらそう言った。


 リビングのソファーに座らされた僕。

 僕の頬と額の傷に、古城舞の細くてしなやかな手が触れてくる。

 

「わー-、痛そう・・」

 消毒液を塗る前に、しっとりとした手が僕の頬を撫でる。

 僕は痛さなんか忘れて、その手の感触に酔いしれる。あの古城舞の手が僕に触れ、その美しい顔が数十センチの直ぐそばにある・・・。彼女の吐息が僕の身体を覆っている。


 消毒液を塗るとき。

「動いちゃダメ」

 彼女は僕の左手を彼女の膝の上に置いた。


 うそ。

 僕の手が、古城舞のすべすべした、そしてマシュマロの様に柔らかな膝の上に乗っている。

 

 僕の手がホントに古城舞の膝の上にあるのかを確認しようとして、視線を下げる。


 うそ。

 僕の十センチ先に、古城舞の胸の谷間が・・。


 何という・・・。


 ゴクッ。

 喉の奥で音がした。


 ここにも、白い二つの大きなマシュマロが・・・。

 なめてー--!

 どんな味がすんだべー--?

 チュパチュパしてー--!

 どろどろとしたよくぼーが、ふつふつ、いやどばどばと沸き上がって来る。


 ガチャ。


「ただいまー-。あっ、お客様なの?」


「あっ、お母さん、お帰り」


「どうしたの?」


「暴漢に襲われたところを、彼が救ってくれたの」


「そうなんだ。ありがとうございます」


「いえ・・・」


「折角だから、何か食べていきます?」


「いえ、僕はこれで失礼します」

 僕は慌てて席を立った。


 玄関で靴を履き終わると、

「これ、私のスマホの番号。電話して・・」

「えっ、良いんですか?」

「もちろんよ。あなたが助けてくれなかったら、私どうなっていたか・・」

「はい・・・、んぐ・・」

 突然、彼女が僕にキスをした。

 濡れた、柔らかな、バラの香りの唇が僕の脳天を直撃した。


 おら、もう死んでもいいかも・・。



 ガシャ。


 集米出版から出向している評価委員の下田がコックピットから出て来た。


「ゼーガ社のAVソフト、どうだった?」

 シューゼのスタッフが聞いた。


「うん。最高だった・・。でも・・」

「でも・・?」

「リピーターは、同じストーリーで満足出来るのかな?」

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