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街角簡易シミュレーター・AOIちゃん  作者: マーク・ランシット
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 シューゼ社のモニター室。


 休日だと言うのに、主任の田中が太田の来るのを待っていた。

「昨夜は何時まで?」

 会社の中で太田にこんなタメ口を聞けるのは主任の田中ぐらいのものである。

 大学こそ違うものの学年が同じだという事もあって、二人だけの時にはどうしてもこんな会話になる。

 太田はめんどうくさそうに、左手の指を3本立てた。


「おたくら、よくそんな遅くまで飲んでられるね。身体に毒だよ、ほんと」

 田中は太田の様な軍事オタクではないが、アニメやアイドルについてはかなりのマニアである。そこが、言わば二人の共通点であった。


「KSテックは、いつソフトを回収に来る予定だ」

 太田が聞いた。

「月曜日と言ってた。恐らく朝一番に来るんじゃないのか」

 田中はめんどくさそうに答える。

「そうか、それじゃ早速始めようか・・・」


 太田は上着を脱いで、体感型バーチャル映像システム(BVPS)に乗り込んだ。

「ホントにロードスター貸してくれるんだろうな。来週乗せてやるって、女房と子供に約束しちまったんだ・・・。忘れないでくれよ」

 田中はそれだけは確認して置きたかった。休日出勤させられた上に、約束をなかったことにされれば、目も当てられない。

「分かってる。その代わり、お前の方こそ、録画を忘れないでくれよ」

 心配するなと言うと、田中は準備に取り掛かった。


 BVPSの電源を入れると、いつか見たことのある映像が流れ始めた。

 それは彼が2ヶ月前に評価したKSテック社のAVソフトであった。

 ただ一つだけ、2ヶ月前と違っていたのは、ヒロインであるミッコリンの名前と顔である。


 太田は、小林エリカへの復讐の為に、入館証明書に添付する為に撮影された彼女の写真をミッコリンの顔と入れ換えてしまったのである。その為にはどうしても田中の協力が必要だった。それでなければ、ロードスターを貸したりはしない。


 ストーリーは、前回と全く同じ様に展開して行った。そして、いよいよ雨に濡れたエリカが太田の車の中に隠れている場面に差し掛かった。


「エリカ・・・?」

 雨に濡れた髪の向こう側の寂しげな瞳に、僕は呆然とした。

「もしかして、エリカなの・・・」

 二度目の問いかけに、少女はコクリと頷いた。


「ごめんね、太田さん。こんな事して・・」

「えっ、どうして僕の名前を・・・」

 僕は、あまりの驚きに手に持っていたコンビニの袋を落としてしまった。


「いつも後ろ方の席で見ていてくれてたよね。初めてのコンサートの時から、エリカ気が付いてたよ」

「ほんとに・・・」

「だって、太田さんて素敵なんだもん。気が付かない訳ないじゃない。知ってた、エリカ、いつも太田さんの為に歌ってたんだよ」

「もちろん知ってたさ。でも君は人気絶頂のアイドルで、僕は名も無いサラリーマンだし・・・」

「そんなこと関係ないよ。一番大事なのは二人の気持ちだよ。そうでしょ、太田さん」


 いつの間にか、エリカの顔が僕の直ぐ前に来ていた。

 まるで桃の様なピンク色のクチビルが、まさに桃と同じ甘い香りを漂わせながら僕の目の前に迫っていた。


 僕は再び、ゴクリと唾液を飲み込んだ。心の中で、永遠のアイドルに手を出しちゃいけないという言葉と、ヤッチャエ、ヤッチャエという欲望が戦っている。


「私、もう疲れちゃった。太田さん以外の人の前で歌うのはもうイヤなの。もう、これ以上、他人も自分も騙したくないの」

 彼女の身体は、僕が抱きしめるのを待っているみたいにブルブルと震えている。

「でも、君はきっと後悔するよ。僕みたいな男を選んだことを・・・」


 次の瞬間、エリカの甘いクチビルが僕の唇にふれた。僕はその甘い香りと、柔らかの感触に気が遠くなりそうだった。経験の少ない僕はとっさに目をつぶった。

「強く抱きしめて、私を離さないで」

 僕の耳元で、エリカが囁いた。僕は恐る恐る両手を回して、彼女の細い身体を力一杯に抱きしめた。彼女の豊かな胸が、僕の貧弱な胸に押しつぶされる感触が伝わって来た。


 太田は、ここで自分を励ました。薫、ここで終わるんじゃないぞ。

 太田は他の事を想像して自分を落ち着かせ様とした。

 あのエリカが今自分の手の中にいる。最後まで行き着くんだ。そうしなければ、俺の復讐は終わらない。あの生意気な女を俺の手で汚してやるのだ。そうだ、これはただのバーチャルだ。この装置の中で彼女を汚そうとも、実際の小林エリカには何の被害も与えられない。そんな事は分かっていた。しかし、そうでもしなければ自分の気持ちが治まらなかった。


「ああーーーっ」

 唇を這わせて胸へと移動させて行くと、エリカの喘ぐ声がした。

「うっ」

 負けそうになる自分を、太田はグッと押さえた。彼女の喘ぐ姿をこの目で確かめたかったが、その瞬間に果ててしまうに違いない自分を想像して我慢した。彼女の姿を確認するのは、その時が来てからでも十分だ。


 太田の唇が柔らかな膨らみに達した時、またもやエリカの声がする。

「太田さん、止めて」

 ググググッーー。

 物凄い恍惚感が、脳と下半身を満たした。


「くそっ」

 太田は、ここでも何とか踏み止まった。AIの野郎が俺を落とそうとしている。

「俺は絶対に負けないぞ。絶対に最後まで行ってやる」

 太田は目をつぶったまま、右手を下半身へと下ろして行った。柔らかくて滑らかな肌が吸い付いて来る。


「ああーーーん」

 ググググッーー。それは、快感でありながら苦痛でもあった。


「海上自衛隊イージス艦“こんごう”の搭載兵器は・・・」

 太田は訳の判らないことを叫んで、意識を逸らそうと必死だった。

「オート・メラーラ127mm54口径単装速射砲 一門、ハープーンSSM4連装発射機 2基・・・」


「太田さん、お願いだから・・・、早く来て」

 エリカの手が、太田の髪をまさぐる。彼は、遂に最後の時が来た事を悟った。

 グワワワワーーー。


 太田はガッと目を見開くと、エリカの太ももの間に顔を埋めた。左目の端に、ウサギ模様の白いパンティーが見えた。なんだ、この柄は?


 ガツンと、快感が脳みそを直撃した。

 それがアドレナリンの本流となって下半身へと激流のごとく伝わって行く。

 その激流が彼の一番デリケートな部分に届く直前に、彼の網膜に異様な映像が映し出された。


 それは、そのパンティーからはみ出した毛むくじゃらの太ももだった。しかし、そう気が付いた時には既に遅かった。

「何・・・・」


 その疑問は、直ぐに「うそっ」に変わった。

 太田の狐目の下には、明らかに女性のものとは思えない毛むくじゃらの太ももが存在していた。しかもよく見ると、ウサギ模様のパンティーの中央には、何かの突起物が存在している。


 一歩遅れて絶頂がアソコに達した。本来なら、愛しむべき恍惚の産物は急激に萎えてベトベトとした、ヘドロへと姿を変えた。それはこの上ない虚しさを伴って外部へと噴出された。


 快感は、瞬時に嫌悪感や失望感へと変わった。身体を起こして、そこに存在する筈の小林エリカの顔を探した。

「グエエエーーーーっ」


 なんと、そこに居たのは醜い顔をした自分自身だった。

 どこかで入手した写真を取り込んだのだろうか、2Dを無理やり3Dにしたようなゆがんだ表情をしている。


「太田さん、早く来てーーー」

 自分自身がそう叫ぶ姿を見せ付けられて、太田は怒りより先に、このAIシステムに対してとてつもない恐怖を感じた。


「本当に、俺はこいつに勝利したのだろうか・・・?」

 素朴な疑問が彼を襲った。



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