表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
街角簡易シミュレーター・AOIちゃん  作者: マーク・ランシット
20/30

20

 三日目。正午。


 一台のバンが、とある民家の前に止まった。周りは田畑に囲まれており、隣の家までは50メーターほどの距離がある。バンには宅配便のデザインが施されていた。バンから宅配便のユニフォーム姿の男が二人降り立った。二人は大きな荷物を抱えている。

「すいませーん。宅配便です」

 ドアホンに向かって一人の男が言った。中から割烹着姿の主婦が現れる。

「あーら。すごい荷物。だれからだろ」

 男たちは、荷物を玄関に降ろすと隠し持っていたサバイバル・ナイフを取り出した。


「静かにしろ。騒ぐと殺すぞ」

 後ろに回っていた男が、既に主婦を羽交い締めにして口を塞いだ。

「うぐぐぐ」

 主婦は目を見開いたまま、首を縦に振った。その目は恐怖に包まれている。

「中に何人いる」

 耳元で囁くように、男は聞いた。

「3人・・・」

 主婦は、右手の指で3を示した。

「みんな食事中だな」

 主婦は恐怖に引きつった顔で頷いた。男たちは主婦の口と手をガムテープで塞ぐと、居間に向かった。いつの間にか二人は、サイレンサー付きの小銃を手にしていた。居間に入ると、3人の男女が食事をしていた。


「みんな静かにしろ。動くと容赦なく撃ち殺す」

 3人は突然の事に、呆然としてその場に固まった。

「アンタが前田久司さんだな」

 男の質問に、食事をしていた40過ぎの男がコクリと頷いた。


「今日は夜勤の日だな。原発の・・・」

「それが何か・・・」

 前田の脳裏に不吉な予感が過ぎった。


「あんたにチョッとしたプレゼントが有るんだ」

 男はそう言うと、腕時計を見せた。

「腕を出して貰おうか」

 前田がしていた腕時計を外すと、替わりに持っていた時計を着けた。前田は何気なくその時計に触ろうとした。


「おっと前田さん。それに触っちゃ駄目だよ。あんたの身体が吹っ飛ぶからね」

 前田はギョッとして、弾かれた様に時計から手を放した。

「その時計の素晴らしさを見て貰って置いた方が良さそうだな」

 男は胸ポケットから、小型のDVDテレビを取り出した。スイッチを押すと、映像がスタートした。


 屋外の広場らしきところに椅子が置かれており、その上には車の衝突試験に使われるダミー人形が座っている。白衣姿の男が現れて、前田がしているのと同じ腕時計をカメラに向かって見せた。

 そして、その腕時計をダミー人形の腕に着けると、小走りに画面から消えた。

 しばらくすると、腕時計が閃光を放って爆発した。次の瞬間、ダミー人形の左半分が粉々に消え去っていた。前田の身体が、ビクンと跳ね上がった。


「この時計は、特別な処置をしなければ外せない。もし、無理矢理に外そうとすると、先ほどと同じ事がおこります。わかりますか?」

 前田はゴクリと唾を飲んだ。


「このプレゼントを外して欲しいなら、我々のお願いをまず聞いてください。そんなに難しい事じゃないですから・・・」

 前田は震えるように小刻みに頷いた。

  

 テロ当日。深夜2時。


 6,7人ずつ3組に分かれたメンバーは、3台の黒いバンに乗ってそれぞれ別々の目的地に到着していた。彼らは防毒マスクを着用している。夜でも見える特別な双眼鏡を手にしていた男が、横にいた男に確認のサインを送った。男は右手を突き上げて親指を付きだした。作戦決行の合図だった。


 3台のドローンが音もなく飛び立った。それらは3か所の方向に向かって飛んでいく。100メートル程上昇したドローンは、装着されたカメラで目標を確認する。

 暗闇でも見えるカメラが、自動小銃を肩に掛けた警備員達の姿をとらえた。


 やがてドローンは静かに高度を下げて行く。

 風上の上空10メートルに達したところで、サリンで満たされたボンベの噴射口を解放した。そのまま、ドローンは高度を下げて行く。


 うっ、漸くドローンの存在を確認した警備員達が喉を掻きむしり始めた。

 それは、3か所で同時に行われ、警備員達を無力にした。


 3台のドローンは、再度上昇を始める。

 各地点での生存者の有無を確認する為だ。

 5分ほど待ったが、各地点での新たな動きは起こらなかった。


「潜入開始」


 パク中佐の命令で、各部署に待機していた男たちが、草むらから飛び出して行った。


 原発の制御室では、前田が時計を気にしていた。

 既に稼働を中止している原発の管理者は少ない。

 その夜はたったの3人しかいなかった。


「前田さん。なんだか今日は落ち着かないね」

 同僚の言葉に、前田は気まずそうに下を向いた。

「おれチョット、トイレに行って来るよ」

「おい、またかよ。これで3度目だぜ」


 同僚から逃げるように、前田は席を離れた。

 心の中では、俺はこんな事して良いのかと考えていた。

 腕の時計を見た。指示された2時半を指していた。前田がエレベータの前に立った時、ビルの中に警報が鳴り響いた。エレベータは緊急停止した。


「始まったか・・・」

 前田は唾をゴクリと飲み込んだ。

「やっちゃいかんよ、こんなこと・・・」

 しかし、家では妻と両親が捕らわれていた。恐らく、その後学校から帰ってきた娘と息子も捕らえられている事だろう。そして、私もこの時計で殺されてしまう。


「やっちゃいかんけど、俺は死にたくないんだ」

 前田はそう呟くと、非常階段を駆け下りて行った。


 ガチャ。玄関の分厚いドアが、内側から開けられた。

「前田さん。よくやったな」

 防毒マスクの男に肩をポンと叩かれた。

「さあ、制御室に案内して貰おうか・・・」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ