表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。

短編シリーズ【恋愛/ラブコメ/青春】

幼馴染と毎年バレンタインにサイゼに行っていたが、今年は行かないらしい。幼馴染に彼氏ができたらしいんだ。

作者: 紅狐


 高校二年の冬。毎年やってくるこの日。

義理チョコしかもらったことない俺は、今年もいつもと同じだと信じていた。


「なぁ、今年もサイゼか?」


 幼馴染の由香は小学校からの付き合い。

家も近所で長年つるんできた。彼女には何でも話せたし、逆にあいつは俺に何でも話した。

腐れ縁というかもしれないが、俺たちはお互いに親友だと思っているに違いない。


 だが、俺は彼女に言っていないことが一つある。

いつの頃だろうか。ふとした時に気が付いてしまった。

俺は由香に恋をしていると。


 何気ない仕草、何気ない会話、何気ない微笑み。

本当のことを言ってしまえば、関係が壊れる。だから俺はずっと心の中に閉じ込めていた。

だが、今年の俺は違う。卒業まで約一年。由香と一緒に恋人として高校生活を送りたい。


 俺は由香にチョコを渡し、告白する。ギリギリまで気づかれたくはない。

後悔したくない、だから俺は今年のバレンタインに、逆バレンタインを決行する!


「んー、今年はちょっと」


 あれ? 思ってもみなかった返事。

毎年リア充爆発しろと、一緒にサイゼに行って好きなものを食べ、同じ時間を過ごしていた。

それが、今年はいかないだと?


「な、なにか予定でも?」


 ま、まさかとは思うけどか、か、か、彼氏とかできたのか!


「うん、ちょっとね。隆二はいつもと同じサイゼに行くの?」


 まさかのボッチバレンタイン確定。

お前だけは、信じていたのに……。でも、しょうがないよな。


 由香は結構かわいいし、優しいし、クラスでも人気あるし……。

俺にはもったいないくらいの女の子だからな。


 由香には幸せになってほしい。俺は由香の幸せをずっと祈っている。

まだ見ぬ彼氏のことも、由香にとっては大切な人。

いいよ、俺は生涯ボッチを貫く!


 流れそうな涙を抑えながら、俺は由香に笑顔を見せる。


「そうだな、毎年恒例になっているから、いつものサイゼに行くぜ」

「そっか。いつものサイゼに行くんだ。ごめんね、行けなくて」


 明日のバレンタインの為に、がんばって作ったチョコは冷蔵庫で冷えている。

想いを綴った手紙も、可愛い紙袋も準備した。すべてが意味がないことに俺は肩を落とす。


「じゃ、また明日学校でな」


 ◆ ◆ ◆


 翌日、俺は眠ることができなかった。

せっかく作ったチョコも手紙も、すべてをなかったことにしたい。

でも、捨てることができなかった。由香への想いを捨てることが、俺にはできない。

渡すことはないが、作ったチョコと手紙を鞄に入れ学校へ向かう。


 学校へ行き、由香について女友達に探りを入れた。

どうやら由香は今日の日の為にチョコをこさえ、告白するらしい。

バレンタイン告白。本命チョコ、由香の本命。


 溶けたチョコがまぶたから流れ落ちそうだ。

小さな頃から、ずっと一緒だったのに。でも、俺はお前の幸せを願っているよ。


 学校が終わり、校舎裏や屋上、校庭の隅にある桜の木の下。

あっちもこっちもどっちも人がいる。

リア充爆発……はしなくていいが、うらやましい。くそっ。


 俺は帰ろうと下駄箱に行く。


「帰るのか?」


 由香がいた。


「うん、急いで帰らないと。またね」


 笑顔で俺のもとを去っていく由香。

告白は終わったのか? 誰にしたんだ? その笑顔は俺に向けてはもらえないのか?


 由香の後姿を追う。少し離れた所で由香が振り返り、俺の方に向かって叫ぶ。


「サイゼ、行くんだよね!」


 何回も確認するな。ボッチで行くわ! 全メニュー頼んで食べてやる!


「あぁ! 行くよ! 絶対に行くからな!」


 手を振り、彼女は正門を出ていった。


 数十分後、俺はボッチサイゼでドリンクバーを頼み、適当に注文する。

鞄に入ったチョコと手紙がむなしい。

帰ったら自分で食べようかな。


 いつもだったらここにあいつがいた。

 いつもだったらあいつの笑顔がそこにあった。

 いつもだったら一緒に帰って、あいつから義理チョコをもらっていた。


 いつもだったら……。


 そのいつもはもう二度と来ない。


 ドリンクバーが空になる。次は何を飲もうか……。

新しいジュースを手に入れ、席にもどる。


 が、誰かが座っている。

髪をポニーテールにして、向こう側を見ている。

俺の席に勝手に座るな。間違ってるぞ。


「あの、そこ俺の席──」


 目を疑った。

そこには由香が座っている。


 制服ではなく清楚な服装になっており、うっすらと化粧もしている。

普段よりも、ずっと可愛い。


「え? は? 由香に似た人?」

「違う違う。本人だよ。何言ってるの?」

「え? だって、おまえ、何でここに?」

「よかった、まだいてくれた」


 何がどうなってるの?


「何してるんだよ? お前、彼氏は?」

「彼氏? きっとできるよ?」

「は? あ、今から行くところか。だからそんな可愛い格好してるんだな」

「可愛い? この格好可愛いの?」


 その彼氏候補がうらやましいぜ。


「あぁ、可愛い。その格好で告ったら成功率百パーセントだ」

「そっか、百パーセントか……」


 向かいに座った彼女が紙袋を取り出す。


「これ、あげる」

「義理か。毎年サンキュー。お前しかくれないからさ」

「開けてみて」


 中を開けるといつもと同じチョコ。義理チョコだ。

だが、今年は手紙が入っている。去年はチョコ単体だったよね?


「ナニコレ?」


 そっか、お別れの手紙か。由香、幸せになれよ……。


「手紙……。読んで、今ここで」


 少し真剣な目で、俺を見てくる。

俺は手紙を読み始めた。


二人の関係を壊したくなかった。

でも、私は今年本当の想いを伝える。

いつも一緒に来たサイゼで。

いつもと同じ時に。

あなたの笑顔が、優しさが好き。


 え? これってどういう……。


「由香?」


 笑顔で彼女は答える。


「書いてある通り。隆二のことが好きです。ずっと前から」


 耳を疑う。


「え? だって本命に告白するって聞いたぞ?」

「それは隆二の事」

「今日だって来れないって……」

「帰って準備したかったから」

「だって、おまえ……」

「だから何回も隆二がここに来るか確認したの」

「そ、そんな事って……」


 俺は、なんてバカなんだ。


「だったら俺も、由香に渡したいものがあるんだ」


 鞄に入れていたチョコと手紙。

それを俺は彼女に渡す。


「ありがと。何かな?」


 彼女は紙袋から手紙を出し、読み始める。


「ばか、何でそっちから告るの。今日は女の子の特別な日でしょ?」

「違うよ。想いを伝えたかった日がたまたま今日だっただけ」

「ありがとう。私たち相思相愛だったんだね」

「だな。これからもよろしくな」

「うん。来年も再来年もサイゼに来ようね」


 俺と彼女はただの幼馴染から恋人同士になった。


 思い出でのサイゼで、またいつの日か……。


──



「パパ! 私サイゼに行きたい!」

「僕も! 間違い探ししたい!」

「よーし、今日もサイゼに行くか!」

「ふふっ、みんなサイゼが好きね」


 当たり前だろ?

俺とお前の思い出の場所なんだから……。

ちなみに作者の紅狐は甘党デス。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
作品はとてもいいんです。でも娘をサイゼに誘うともっと高い所に連れてけって言われてサイゼ行けてないので、羨ましくて、、、
[良い点] 一歩間違えばすれ違いだったがならなくてよかった。 [一言] チョコの食い過ぎで鼻血出して、笑い話になってしまえ
[良い点] カッ……ドォォン(尊み大爆発)
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ