幼馴染と毎年バレンタインにサイゼに行っていたが、今年は行かないらしい。幼馴染に彼氏ができたらしいんだ。
高校二年の冬。毎年やってくるこの日。
義理チョコしかもらったことない俺は、今年もいつもと同じだと信じていた。
「なぁ、今年もサイゼか?」
幼馴染の由香は小学校からの付き合い。
家も近所で長年つるんできた。彼女には何でも話せたし、逆にあいつは俺に何でも話した。
腐れ縁というかもしれないが、俺たちはお互いに親友だと思っているに違いない。
だが、俺は彼女に言っていないことが一つある。
いつの頃だろうか。ふとした時に気が付いてしまった。
俺は由香に恋をしていると。
何気ない仕草、何気ない会話、何気ない微笑み。
本当のことを言ってしまえば、関係が壊れる。だから俺はずっと心の中に閉じ込めていた。
だが、今年の俺は違う。卒業まで約一年。由香と一緒に恋人として高校生活を送りたい。
俺は由香にチョコを渡し、告白する。ギリギリまで気づかれたくはない。
後悔したくない、だから俺は今年のバレンタインに、逆バレンタインを決行する!
「んー、今年はちょっと」
あれ? 思ってもみなかった返事。
毎年リア充爆発しろと、一緒にサイゼに行って好きなものを食べ、同じ時間を過ごしていた。
それが、今年はいかないだと?
「な、なにか予定でも?」
ま、まさかとは思うけどか、か、か、彼氏とかできたのか!
「うん、ちょっとね。隆二はいつもと同じサイゼに行くの?」
まさかのボッチバレンタイン確定。
お前だけは、信じていたのに……。でも、しょうがないよな。
由香は結構かわいいし、優しいし、クラスでも人気あるし……。
俺にはもったいないくらいの女の子だからな。
由香には幸せになってほしい。俺は由香の幸せをずっと祈っている。
まだ見ぬ彼氏のことも、由香にとっては大切な人。
いいよ、俺は生涯ボッチを貫く!
流れそうな涙を抑えながら、俺は由香に笑顔を見せる。
「そうだな、毎年恒例になっているから、いつものサイゼに行くぜ」
「そっか。いつものサイゼに行くんだ。ごめんね、行けなくて」
明日のバレンタインの為に、がんばって作ったチョコは冷蔵庫で冷えている。
想いを綴った手紙も、可愛い紙袋も準備した。すべてが意味がないことに俺は肩を落とす。
「じゃ、また明日学校でな」
◆ ◆ ◆
翌日、俺は眠ることができなかった。
せっかく作ったチョコも手紙も、すべてをなかったことにしたい。
でも、捨てることができなかった。由香への想いを捨てることが、俺にはできない。
渡すことはないが、作ったチョコと手紙を鞄に入れ学校へ向かう。
学校へ行き、由香について女友達に探りを入れた。
どうやら由香は今日の日の為にチョコをこさえ、告白するらしい。
バレンタイン告白。本命チョコ、由香の本命。
溶けたチョコがまぶたから流れ落ちそうだ。
小さな頃から、ずっと一緒だったのに。でも、俺はお前の幸せを願っているよ。
学校が終わり、校舎裏や屋上、校庭の隅にある桜の木の下。
あっちもこっちもどっちも人がいる。
リア充爆発……はしなくていいが、うらやましい。くそっ。
俺は帰ろうと下駄箱に行く。
「帰るのか?」
由香がいた。
「うん、急いで帰らないと。またね」
笑顔で俺のもとを去っていく由香。
告白は終わったのか? 誰にしたんだ? その笑顔は俺に向けてはもらえないのか?
由香の後姿を追う。少し離れた所で由香が振り返り、俺の方に向かって叫ぶ。
「サイゼ、行くんだよね!」
何回も確認するな。ボッチで行くわ! 全メニュー頼んで食べてやる!
「あぁ! 行くよ! 絶対に行くからな!」
手を振り、彼女は正門を出ていった。
数十分後、俺はボッチサイゼでドリンクバーを頼み、適当に注文する。
鞄に入ったチョコと手紙がむなしい。
帰ったら自分で食べようかな。
いつもだったらここにあいつがいた。
いつもだったらあいつの笑顔がそこにあった。
いつもだったら一緒に帰って、あいつから義理チョコをもらっていた。
いつもだったら……。
そのいつもはもう二度と来ない。
ドリンクバーが空になる。次は何を飲もうか……。
新しいジュースを手に入れ、席にもどる。
が、誰かが座っている。
髪をポニーテールにして、向こう側を見ている。
俺の席に勝手に座るな。間違ってるぞ。
「あの、そこ俺の席──」
目を疑った。
そこには由香が座っている。
制服ではなく清楚な服装になっており、うっすらと化粧もしている。
普段よりも、ずっと可愛い。
「え? は? 由香に似た人?」
「違う違う。本人だよ。何言ってるの?」
「え? だって、おまえ、何でここに?」
「よかった、まだいてくれた」
何がどうなってるの?
「何してるんだよ? お前、彼氏は?」
「彼氏? きっとできるよ?」
「は? あ、今から行くところか。だからそんな可愛い格好してるんだな」
「可愛い? この格好可愛いの?」
その彼氏候補がうらやましいぜ。
「あぁ、可愛い。その格好で告ったら成功率百パーセントだ」
「そっか、百パーセントか……」
向かいに座った彼女が紙袋を取り出す。
「これ、あげる」
「義理か。毎年サンキュー。お前しかくれないからさ」
「開けてみて」
中を開けるといつもと同じチョコ。義理チョコだ。
だが、今年は手紙が入っている。去年はチョコ単体だったよね?
「ナニコレ?」
そっか、お別れの手紙か。由香、幸せになれよ……。
「手紙……。読んで、今ここで」
少し真剣な目で、俺を見てくる。
俺は手紙を読み始めた。
『
二人の関係を壊したくなかった。
でも、私は今年本当の想いを伝える。
いつも一緒に来たサイゼで。
いつもと同じ時に。
あなたの笑顔が、優しさが好き。
』
え? これってどういう……。
「由香?」
笑顔で彼女は答える。
「書いてある通り。隆二のことが好きです。ずっと前から」
耳を疑う。
「え? だって本命に告白するって聞いたぞ?」
「それは隆二の事」
「今日だって来れないって……」
「帰って準備したかったから」
「だって、おまえ……」
「だから何回も隆二がここに来るか確認したの」
「そ、そんな事って……」
俺は、なんてバカなんだ。
「だったら俺も、由香に渡したいものがあるんだ」
鞄に入れていたチョコと手紙。
それを俺は彼女に渡す。
「ありがと。何かな?」
彼女は紙袋から手紙を出し、読み始める。
「ばか、何でそっちから告るの。今日は女の子の特別な日でしょ?」
「違うよ。想いを伝えたかった日がたまたま今日だっただけ」
「ありがとう。私たち相思相愛だったんだね」
「だな。これからもよろしくな」
「うん。来年も再来年もサイゼに来ようね」
俺と彼女はただの幼馴染から恋人同士になった。
思い出でのサイゼで、またいつの日か……。
──
「パパ! 私サイゼに行きたい!」
「僕も! 間違い探ししたい!」
「よーし、今日もサイゼに行くか!」
「ふふっ、みんなサイゼが好きね」
当たり前だろ?
俺とお前の思い出の場所なんだから……。
ちなみに作者の紅狐は甘党デス。