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高校球児、公爵令嬢になる。  作者: つづれ しういち
第九章 魔族の世界でも頑張ります
99/143

3 驚きのあまり声もでません ※

※残酷描写ありです。


(えっ……子ども? お、男の子……??)


 俺は思わず、檀上にいるその存在を凝視した。

 声の響きは姿を裏切っていなかった。

 雛壇の上、豪華な王座にちょこんと座っていたのは、見たところほんの十歳かそこらのガキだった。


「え、マジ……? あれが魔王? ウッソだろ──」

「おい貴様! 無礼なことを言うな。命が惜しくないのか」

 隣から速攻で突っ込みが入る。ハゲ隊長だ。

「いや、だってよー」

「お姿があのようにお可愛らしいからといって、侮るなどは許さんぞ。あのお方は紛れもなく、我が魔王国の新魔王さまであらせられるッ!」

「はー、そーなんスか……」


 なんか、緊張して損した気分。

 いやまあ、舐めちゃダメってのはわかってるけどな。なにしろ皇子は、こいつらにひでえ目に遭わされたんだし。

 そう思い直して、俺は顔を緊張させた。腕の中のドットは静かにしている。でも、特に魔王を怖がってるとか、警戒してるとかいう様子でもなかった。

 と、頭上からまた鈴を振るみたいな綺麗な声がした。


「それが、お前になついてしまった例の赤いドラゴンか?」

「あ、……はあ。そッスね」


 少年の肌色はうっすらと青みを帯びている。瞳は爬虫類を思わせる金色に、鋭い虹彩が縦向きの切れ込みを入れたやつだ。耳は少し尖ってる。髪はつややかな紺色をしていて、腰のあたりまで伸ばしている。

 成長したら、さぞや長髪のイケメンになりそうな顔立ちと雰囲気だ。


「ふむ」


 少年は楽しそうに片頬をひきあげると、するっと立ち上がった。そこでほとんど音もたてずに飛び上がったかと思ったら、もう俺の前にやってきていた。


「はうっ……!」


 ビビる俺。

 ドットが腕の中で「ウルルウッ」と威嚇の声をあげる。

 うん。近くで見ると、本当に間違いなく美形の少年そのものだ。ただ、全身から放散されている威圧感はハンパねえ。魔力量もかなりのポテンシャルを持ってることが、俺の目からでもすぐにわかる。

 よく見たら、足は床についてない。ちょっとだけ空中に浮かんでるんだ。

 なるほどこれなら、前の魔王を滅ぼして自分が王座につくことも可能なんだろう。


「まあ、そう緊張するな。お前とはゆっくり話がしたかったんだ」

「は……はあ」

 言ったら魔王はサッと片手をあげた。

「お前はもうよい。みなへの褒美は後日あらためて通達する。さがれ」

「はっ」


 そう言われ、隊長はすぐさま頭を床にこすりつけるみたいにすると、あっという間に後ろの扉から出て行った。ほとんどつむじ風みたいだった。


(……ん?)


 それではじめて気がついたけど、この広間にはほかの魔族はひとりもいなかった。普通、帝国の皇帝だったら護衛の騎士たちがわんさか取り囲んでいるはずなのにな。まあそれだけ、自分の腕と魔力に自信があるってことなんだろう。やっぱ舐めてかかっちゃマズい。

 俺は気を引き締めつつ、魔王の子どもをじろっと見つめた。


「……んで? 話ってなんスか」

「そう固くなるな。そなたは余の客人ぞ。……今のところはな」

 はあ。今のところは、ね。

「まずは茶でも(きっ)さぬか」

「はあ? 茶を……ああ!」


 「茶」を「キッ」するという言葉をしばらく頭の中でぐるぐるさせて、やっと気づく。


「なるほど、喫茶店のアレね!」


 ぽんと拳でてのひらを打つと、その拍子に放り出されたドットが「ぴぎゃっ」と鳴いて頭上をひとめぐりし、俺の頭の上に尻をおちつけた。

 と、魔王少年が「ふはは!」と笑いだした。


「緊張感のない奴。我が前にあってその態度とは。なかなか大物だな、貴様?」

「は? いえ、そーでもないっすよ。今だって俺、チビりそーだし」


 それはほんとだ。

 皇子のあの有り(さま)を目にしていて、この人を怖がらねえわけがねえし。


「嘘をつけ。本当に怯えている者が余を前にしてそんな目をするものかよ」

「そっすかあ? いやまあ、今はドットもいてくれるもんで。緊張感なくてスンマセン……」


 ごりごり後頭部を掻いて言ったら、魔王はスン、と真顔にもどった。


「我が国随一のドラゴン兵だった赤竜を左様に手の上で転がすのだ。ただ者ではないとは思っていたが……。意外な方向に素晴らしいな、そなた。興味深い」

「い、意外な方向に、ッスか」

「ああ。拷問ののちに処刑しようとしか考えていなかったが、ちょっと惜しくなってきたぞ」

「はええ!? ご、ゴーモン、っすかあ……やっぱり」

「そうだ。手足の先からゆっくりと削り取り、皮膚をはがし、爪をはがして腕を折り、足を折り、内臓を引き潰し──ああ、その前に当然、部下どもに順番に犯させるものとして」

「ちょ、ちょちょちょ……待ってよ! プリーズ!」


 こっ、(こえ)え。怖すぎるわこの子。

 んな、可愛い顔で顎に手を当てて首をかしげられてもよー。

 言ってることとのギャップが激しすぎて、頭がついていきません。

 本気で俺、チビりそう。


「いや。だからそれは勿体ないかなと言っておる。あの皇子もそうだったが、ろくに話はできなくなるし、警戒させて必要な情報も引き出せなくなるしな」

「……はあ」


 なんですか?

 じゃあ皇子はアンタの目から見て「つまんねえ奴」だったから魔族の手下どもが好きにするに任せたってか?

 ひでえな。子どもの判断力って、そういうとこ残酷だから困るんだよ!



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