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高校球児、公爵令嬢になる。  作者: つづれ しういち
第九章 魔族の世界でも頑張ります
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2 魔王との対面です


 魔王の城だと言われた建物は、パッと見ただけでもそうだとわかった。ここもやっぱり帝都とよく似ていたからだ。

 周囲を防壁に囲まれた大きな街の中央部に、高い尖塔をそなえた宮殿らしいものが建っている。帝国は、俺がいた世界で言うヨーロッパ風だけど、こっちはだいぶ(おもむき)が違う。これはこれで「荘厳(そうごん)」なんて描写されてもおかしくない立派な建物だった。

 帝国のほどキラキラはしてないけど、がっしりした石づくりの建物はいかにも丈夫そうだったし、磨かれた表面が太陽の光を浴びてきらめいていた。


「ほへえ……。こりゃびっくりだわ」


 もっと暗くておどろおどろしいものを想像していた俺は、ここでもまた肩透かしを食らった気分になった。

 林立する尖塔のひとつには、ちょうどヘリポートみたいな感じの広い発着場があって、俺の檻をつかんだドラゴンはまっすぐにそこへ飛んでいくみたいだった。ふと気づくと、いつのまにかこの黒いドラゴン一頭だけになっている。一緒に戻ってきたほかの魔族たちはそれぞれの場所に解散してたらしい。

 ヘリ……じゃねえな、「ドラゴンポート」に降り立ったブラックドラゴンは、俺の《檻》を放すと魔族の隊長を背中からおろし、また翼を広げて飛び立っていった。


「どーするつもりなんだよ、俺を」

「そう(にら)むな。可愛い顔が台無しだぞ」

「んな、心にもねえお世辞はいらねーわ」

「……いや。結構本心なんだが」

「うるせえっつの!」


 俺はさらに頬を膨らませる。

 このハゲ、なんかいちいちしゃべり方がむかつくんだよなー。

 まあ「ハゲ」ったって別にそういう種族なだけで、もともとあった髪が悲しく抜け去ってこうなってるわけじゃなさそうだけどさ。

 男が無造作な足どりで城の中に入っていくと、俺たちの《檻》はちょっと空中に浮かんだ状態のまま、ふわふわとその後ろをついていった。

 ま、楽でいいわ。俺はドットを抱いたまま、《檻》の中で胡坐(あぐら)をかいていた。


 外から見たときに思った通り、城の中もそれなりに綺麗だった。帝国ほど豪奢な感じはしないけど、ええっと……なんていうんだっけ、あれ。あ、そうそう「質実剛健」だ。ちょうどそんな感じ。余計な華美な飾りなんかはそんなにないけど、どこも品よくまとめてある。そして機能性重視。そんな感じだ。

 ぶっとくて背の高い柱が並んだ、見上げるような大回廊を抜けていく。その途中、あちこちに立っている衛兵らしい魔族たちも、統制がとれたごく品のいい立ち姿をしていた。前線にいたトロルやオーガみたいな野卑な雰囲気は微塵もない。


(ふうん……。こりゃ、ますます認識をあらためなきゃなんねえかも)


 相手をただの低能のおバカと思って舐めてたら、えらい目に遭いそうだ。

 そう思ったときだった。ついに大回廊がとぎれ、目の前に巨大な両開きの扉が現れた。

 うーん。ゲームなんかでよく見る感じのヤツだ。そう、ラスボスがいる大部屋なんかの感じ。威圧感がはんぱねえ。


「帝国の公爵令嬢、シルヴェーヌを連れて参った。魔王陛下へ取次ぎを」


 隊長が、扉を守っていた仁王像みたいなオーガどもに向かってそう言うと、すぐに扉が開かれた。

 いかにも重量級の石づくりの扉が重々しい音をたてて開いていく。

 俺はごくりと喉を鳴らした。

 そして背筋をしゃんと伸ばした。


 ──この先に、魔王がいる。


 このあと、尋問されて拷問された挙げ句に殺されるんだとしても、そいつの顔だけはちゃんと拝んでおかねえとな。

 《檻》は謁見の間らしい大広間の真ん中をするすると進んでいき、隊長が足を止めるのと同時に止まった。隊長がその場で片膝をつき、頭をたれる。

 長くてでかい階段が目の前にあって、はるか上のほうに王座らしいもんが見えた。


「……ふぎゃっ!?」


 途端、《檻》がいきなり解除され、俺はドットを抱いたまま床に尻もちをついていた。隊長はそんな俺をちらっと横目で見たけど、すぐにまた床を見つめた。


「魔王陛下。例の《癒し手》の女と共に、ただいま戻りましてございます」

「ん。ご苦労」


(ほへ……?)


 予想していたのとはまったく違う声がして、俺は耳を疑った。

 野太くもない、低くもない。

 恐ろしくもなければ、酷薄でもない。


 それはキンと澄んだ、甲高い少年の声だった。



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