表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
高校球児、公爵令嬢になる。  作者: つづれ しういち
第八章 事態は一転、どん底です
90/143

4 騎士団の最後です


 もちろん騎士団は必死に応戦した。最初はさすがに虚を衝かれて少し動揺しちまったけど、そこはやっぱり騎士団だ。戦闘には慣れている。

 騎士団のみんなは皇子と団長を中心に防御の陣形をとり、魔族の厳しい物理と魔法攻撃に耐えた。

 剣を抜きつれ、魔法攻撃をする者は魔撃の構えをとり──


 でも、やっぱり多勢に無勢だった。

 あっちはふんだんに《跳躍》魔法を駆使して次々に新しい兵を送りこんでくる。こっちの兵の数には当然、限りがあった。たとえ魔法で通信をしたとしても、そんなにすぐに兵を送りこんでもらえるはずがない。

 こっちの騎士たちはひとり倒れ、ふたり倒れして、じわじわと数を減らしていった。


 最初は百名ほどいた騎士たちが、遂に両手の指で数えられるぐらいになったとき、ひときわ大きなドラゴンに(またが)ったヒト型の魔族が大声でみんなを(あざけ)り笑った。


「ふはは! さすがの帝国騎士団も不意打ちには弱いようだな。この程度のことでこの体たらくとは!」


 ベル兄をはじめ、騎士団のみんなの目に怒りの炎が燃え上がる。みんなギリッと奥歯を噛みしめて自分の得物を構え直した。

 でも、さすがに団長は冷静だった。


「落ちつけ。あのような低劣な挑発に乗るな。耳を貸すでないぞ!」


 ベル兄には相手のリーダーが、ふんと鼻を鳴らしたのが聞こえた。


「適当なところで諦めるのが、おのが命を守る(すべ)だぞ。そこなヒヨッ子皇子が帝位に就くなど、夢のまた夢であろうに」

「なんだと──」

「貴様、言うにこと欠いてッ……!」


 周囲の騎士たちがザワッと殺気だつ。ベル兄も同じだったけど、そこは必死に(こら)えた。

 団長の言うとおりなんだ。挑発に乗って下手な動きをすれば命にかかわる。なにより、誰より守らなきゃならない皇子を守りきれなくなるんだ。

 だけど、それからも魔族どもの嘲笑と罵倒は続いた。騎士たちは次第にジリジリしはじめ、少しずつ冷静さを失っていった。


 遂に、生き残りの中でも最も血気盛んな奴が目の前の魔族に斬りかかり、それまでの膠着状態がドッと崩れた。

 あとはベル兄にもなにがどうなったのかはっきりしない。

 恐るべき阿鼻叫喚と剣戟の渦に飲みこまれ、皇子を背中側に守りながら無我夢中で剣を振った。


 ──そして。

 ベル兄が混濁していた意識からハッと目覚めたとき、すべては終わっていた。

 周囲には仲間の騎士たちの無惨な死体が折り重なっていた。その中には、尊敬してやまなかった団長のみる影もない姿もあった。


「ふははは! 無駄な足掻きをしたものよ。おとなしく渡しておけば、左様な損害はなくて済んだものを」


 聞くに堪えない嘲りと罵倒の言葉を吐き散らしながら、魔族のリーダーが大笑いしている。

 その片腕に横抱きにされて気を失っている男の姿。


(クリストフッ……!)


 ベル兄は必死で、ドラゴンに乗るそいつの方へ腕をのばした。


「ひとりは生かしておけ。皇帝への伝令が必要であろう」

「き……っ、貴様っ! クリストフを返せ……!」


 魔族は倒れたベル兄を見下ろして哄笑した。


「そこのゴミ。皇帝に伝えておけ。こやつの無事を願うならば、後ほど魔王陛下から届く通達によく耳を傾けるようにとな」


 気を失う寸前、ベル兄の耳に聞こえたのはその言葉だった。

 その後はなにもかも真っ黒になり、ベル兄の意識は遠のいた。





 深夜の皇宮の一室は、しばらくしんと静まり返っていた。

 ベル兄は語っていくにつれてどんどん目線を下げ、うなだれて、ついには床に両膝をついてしまっている。俺はその隣にしゃがんで、ベル兄の肩に手をかけていた。


「話してくれてありがと、ベル兄」

「…………」

「みんなのことは残念だったけど……。ベル兄が生きててくれてほんとによかった。俺は嬉しい。……生きててくれてありがと、ベル兄」

「っ……」


 ベル兄は感極まったのか、片手で目元を覆って俯いてしまう。その肩が震えている。痛々しいなんてもんじゃなかった。

 俺もキリキリと胸が痛んだ。

 だって騎士団のみんなは、俺にとっても大事な人たちだった。一緒に訓練して、一緒に野球だってやって──

 それなのに。

 ひとりひとりの顔と名前が脳裏につぎつぎに現れてくるたびに、俺の両目からどうしようもなく雫があふれた。

 そして、だれよりも。

 

(皇子。……皇子)


 ぐっと唇を噛む。

 あんな風に別れたばかりで、俺はあんたになんにも言えてないのに。

 こんな風に、あんたと二度と会えなくなってしまうのか?

 ……そんなのイヤだ。

 絶対に、イヤだ。


「……あの。それで、魔王からの連絡ってあったんですか」

「ああ。それなのだが」


 答えた陛下は、となりの皇后陛下をそっと見た。皇后陛下は血の気のないほとんど灰色に見える顔でうなだれている。


「……つまり。俺に関係があること、なんスよね」


 俺の問いに、陛下は重々しくうなずいた。

 


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
小説家になろうSNSシェアツール
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ