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高校球児、公爵令嬢になる。  作者: つづれ しういち
第七章 今後の進路に悩みます
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1 久しぶりの家族の団らん?です


 かちゃかちゃと静かな食器の音がする。

 翌朝。公爵邸の朝餉(あさげ)の間。

 昨日は勲章授与のあとのパーティなんかで忙しくて帰りも遅くなったんで、俺はいま、初めてシルヴェーヌちゃんの家族と久しぶりに顔を合わせている。


「ともあれ、よかった。これで我がマグニフィーク公爵家の品格もさらに上がろうというものだ。陛下のおぼえもよりめでたくなる。これは大いに皇帝派たる我々の力にもなることだ。でかしたぞ、シルヴェーヌ」


 パパン、つまりマグニフィーク公爵家の当主ドナシアンは朝から上機嫌。これまで絶対シルヴェーヌちゃんには見せたことのないようなキラッキラの笑顔全開だ。

 調子いいなあ。いやよすぎるわ。

 なんかこっちが笑えてくるっつの。


「はあ……ありがとあーッス」

「シルヴェーヌ! 相変わらず言葉遣いがなってませんわね。騎士として素晴らしい働きをしたことは認めますが、あなたはもう少し公爵令嬢としての気品と態度いうものを──」

「まあまあ。よいではないか、サンドリーヌ」


 ママンは喜びよりは不機嫌さを前面に出してるけど、パパンが「どうどう」とばかりにとりなすもんで、あんまりキツイことは言えずにいる感じ。

 ふっふーん。そりゃそうだろうね。なんてったってこの胸に輝く勲章は皇帝陛下から頂いたもんだし。あんまりアレコレ文句言ったら、陛下を悪く言ってるのと同じことになるもんねー? それはぜってえ、まずいよねー?


 長兄アルフレッドはというと、最初にニッコリ笑って「叙勲おめでとう」といったきり、ほとんど会話に参加してこねえ。その笑顔だって貴族特有の(てい)よく張り付けただけのもんなのは明らかだった。

 実際は腹のなかで嫉妬でもしてんじゃねえかなー。パパンからこんなに褒められてる弟妹(きょうだい)を目の前で見せられるのは初めてだろうし。


 で、姉のテレーズだ。

 こっちは一応お祝いの言葉をくれたあとはめちゃくちゃツンとしてて、ひたすら無言で食事を続けてる。怒ってるってほどじゃねえけど、不快そう。それを隠そうともしてねえ感じ。

 俺が妙に皇子と仲がいいことや、すでにプロポーズまでされた身だってことはとっくに社交界でも有名な話になっちゃってるらしいし、その上この「救国の女神」呼ばわり、さらには叙勲騒ぎだ。

 こっちも相当イラついてるのかもしれねえな。ま、どうでもいいけど。


 そんでベル兄。

 ま、ベル兄はいつものベル兄だ。俺の栄誉を我がことのように喜んでて、昨日から続けて今朝もご機嫌。ほっくほくの裏のない笑顔。「おめでとう」もすでに百万回ぐらい聞かされて、もう耳タコ。


 さて。

 そんで、問題のアンジェリクだ。

 超絶美少女の妹は、まだパパンから言い渡された謹慎期間が終わってなくて、この子にしちゃあビックリするぐらい地味な格好だった。

 いままでのリボンやフリルでいっぱいの華やかな色目のドレスとは打ってかわった、グレーのワンピース姿。リボンやアクセサリーも全くナシ。靴まで黒。

 全部自業自得だとはいえ、ちょっとかわいそうになるレベル。


 で、本人の態度はというと、ずーっと膨れっ面で皿の上のものをフォークでつつき回している状態だ。

 きれいに並べて盛りつけられていたハムやサラダがぐっちゃぐちゃ。

 なんか俺、見ててだんだんイラッとしてきちまった。


(食い物で遊ぶなや、罰当たりな)


 俺の田舎のばあちゃんがここにいたら、たっぷりどつき回されてんぞお前。

 お前にとっては「いつものつまんない朝食」に過ぎないのかもしんねえけどよ。それだってこのお屋敷のシェフたちが一生懸命作って、使用人の皆さんがこぼさねえようにって神経使って運んできて、ここに並べてくれたもんだろうがよ。

 そういうもんは、てめえの身分がなんであろうが、感謝して頂くのがスジだろう。食わねえっつうんならそれでもいいよ。でも、だったらせめてもきれいなまんまにしとけや。

 ほんと、こういうお嬢はそーゆー根本的なことからしてわかってねえから苦手なんだわ。そもそも話が通じるわけがねえんだよ。シルヴェーヌちゃんとは天と地ほども差があるわ!


 兄と姉はそれなりに礼を尽くしたのに、なんとこいつに至っては口のなかだけでもごもごと「おめでとうございます」とかなんとか言ったみたいだった。けど、ほとんど聞こえもしなかった。それだって、パパンとママンの前だから仕方なく言ったの丸わかりだったしな。幼稚な女~。

 横目でそんな妹の顔を盗み見ながらちょっと溜め息をつきそうになってたら、パパンが鮮やかな手つきで口もとを拭ってこう言い出した。


「それでだな、シルヴェーヌ。陛下から素晴らしい勲章を頂いた我が家の娘に、この公爵家からも何か褒美を与えねばと思ってるんだが」

「えっ。いや、そんなのはいいですって……」


 あわてて首を横にふりながらも、俺は見逃さなかった。隣で相変わらず料理をつついていたアンジェリクの手が、その瞬間ピタリと止まったのを。

 さすがにアルフレッドは笑みを崩さない。けど、その笑みが完全に凍りついている。テレーズは美貌をちょっとだけひきつらせて、無表情に青ざめている。

 そしてもちろん、ベル兄はいつものベル兄だった。


「えっ。いいじゃないかシルヴェーヌ! 貰えるもんは貰えるときに貰っとけよ」

「そうよ、シルヴェーヌ。お父様はこのようなこと、なかなか言い出す方ではないのですから。あなたもよく知っているでしょう?」


 いやママン。残念ながら、それはよく知らねえわ。


「えーと、うーと。あのう……頂けるって、たとえば何を──ですか?」


 俺、ほんのちょっぴり色気を出す。だって、モノによっちゃあ断ったらもったいないことになるかもだし。


「公爵領内、南部にあるアンバース鉱山。あそこの利権ではどうかと思っていたんだが、どうかな?」

「えっ!」


 この「えっ!」は俺とママン以外の全員の口から出た「えっ!」だった。

 まあママンは先に聞かされていた可能性が大だけど。

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