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高校球児、公爵令嬢になる。  作者: つづれ しういち
第六章 北壁への参戦、本格化です
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9 帝都への凱旋です


 北壁への出征から数週間後。俺たち第一騎士団は帝都に凱旋した。

 一応、停戦条約は結ばれて和平交渉に移行したタイミングだし、俺たちには特に皇帝陛下からの褒章が与えられることになったからだ。

 帝都へ戻って来た俺たちを見た街の人々も貴族たちも、そしてもちろん皇帝陛下も、びっくりしない人はいなかった。


 特に驚かれたのが、やっぱりドットをはじめとする魔族の赤ん坊たちの姿だった。

 実はドット以外にも、拾った騎士や兵士に妙になついちまって離れたがらない子がけっこういたんだよな。もちろん魔族側の要請に従って、それでもあっちに返した子がほとんどだったんだけど。

 俺は、今後、この子たちが帝国側でひどい目に遭わされたりしないかなってことが一番気がかりだった。奴隷にしてひどい労働をさせたりとかさ。けど、そこは皇子が「心配するな。きちんと保護のための法律を作り、規律を守らせるよう父にも進言し、議会に(はか)る」と言ってくれたのでひと安心だ。

 いま、ドットは騎士団としての正装をした俺の肩にとまって、すました顔をしている。

 馬上からも、沿道に集まった人たち、特に子どもたちの声はよく聞こえた。


「うわあ、あれが噂のドラゴンの赤ちゃんかあ」

「すっげえ、かっこいい!」

「いいえ、かわいいのよ!」

「わあ~。いいなあ……」


 ちらっと見たら、みんな目をきらきらさせちゃってる。

 にっこり笑って手をふったら、みんな大喜びしてくれた。


「シルヴェーヌ様が手をふってくださった!」

「わあ、本当にきれいな人ねえ!」

「キレイなだけじゃないぞ、シルヴェーヌ様はカッコいいんだ!」

「うんうん。まさに救国の女神!」

「あの方がおられたからこそ、この戦が終結したんだものな」

「シルヴェーヌさま、ばんざあい!」


 ばんざい、ばんざいと喜ぶ老若男女の声が街を包む。

 街の高い窓からは、女たちが花びらをまいている。

 なんかもう、夢みてえな光景だ。


「救国の女神さま、ばんざあい!」

「この国をお救いくださってありがとうございます……!」

「ひええ。や、やめてえ……」


 俺、完全に赤面して顔を隠しちまう。

 いや、だって「救国の女神」ってさあ。こっ()ずかしすぎるう!

 てか、騎士団も兵団もみんな頑張ってきたんだから。俺だけに声援を送るのはやめてほしい。


 俺たちはそのまま皇宮へ呼ばれて、すぐに論功行賞が行われた。つまり、功績のあった者には褒美が与えられ、階級もアップしてもらえるってやつね。

 大広間に集められた俺たち騎士団と兵団の代表を前に、檀上の皇帝陛下がお褒めのお言葉をくださったあと、将軍閣下が代表者の名前を呼んだ。


「シルヴェーヌ・マグニフィーク少尉。前へ」

「……へ?」

「呼ばれたぞ、ケント。早くゆけ」

「はやくしろって。シルヴェーヌ」


 頭を下げた状態のまま、こそっと隣から皇子に肘でこづかれる。反対側にいるベル兄も背中を押してくる。俺はそのままふたりに押し出されるようにして、雛壇の前によろめき出た。

 ……えっと。あんまりこういうときのお作法とかわかんねえんだけど。

 まあいいか、ひざまずいて、ちゃんと頭を下げていりゃあ。


此度(こたび)のあらたかな功績を讃え、そなたに特別に二階級の昇進、つまり大尉職を与え、名誉勲章を授与する」


(ひ、ひええ?)


 な、なんかものすごい言葉が聞こえた気がするけど。頭ん中がグルグルしてて、まだちょっと意味がつかめない。

 ぼんやりしているうちに皇帝陛下──つまり皇子のパパンだよな──が俺に立つようにうながして、胸に綺麗な勲章をつけてくださった。目元が皇子に似ていて、これまた相変わらずのステキなイケオジだ。


「長き戦に終止符をうつ、まことに稀有な働きであった。なにより、民らの心の平安の(いしずえ)となろう。心より感謝しているぞ、マグニフィーク大尉」

「は……はは。ありがたきしあわせ」


 うん、このへんはアレだ。

 たぶん時代劇かなんかの影響で、口からぽろっと出たセリフ。

 陛下、一瞬へんな顔になったけど、口の中だけで「ぶふっ」と吹き出して、すぐに真顔に戻った。それからそれを、ゆっくりとゆるやかな微笑みに変える。


「……なるほど。あの朴念仁きわまる我が息子の心を射止める理由に合点がいったぞ」

「え……は?」

「息子のことも、よろしく頼む」

「へあ? ……い、いや、陛下。それは──」


 「あばばばば」ってしどろもどろになってる俺を最後に一瞥して、陛下はさっと(きびす)を返した。


(え、なに?)


 俺、ぽかーんだ。

 まさかとは思うけど、これってもう決定事項なの? うそ~!

 うああ、ダメじゃーん!

 どんどん外堀が埋まってってるじゃん、俺のバカぁ! なにやってんだよ。


 呆然として列に戻って来た俺を、めちゃくちゃ幸せそうな笑顔で皇子が迎えた。

 手を差し出し、ごく自然に俺の手を取って自分の隣に迎え入れてくれる。

 騎士としての正装をして、マントをかけた姿はいつもの数倍はカッコよくてイケメンだ。

 俺の胸がまたどきんとはねた。

 

(ああ、どうしよう)


 問題はなによりコレだ。

 俺自身の気持ちがグラッグラなことだよな。わかってんのよ。

 皇子のことは嫌いじゃねえ。……たぶん、その反対だ。

 男だからとかなんだとかいうのはすっ飛ばしても、うーん……だから、人間として尊敬できるし、ちゃんと……ちゃんと好きだと思ってる。これが恋愛かどうかまではわかんねえけど。だってそんなもん経験がねえし。


 でも、俺はちゃんと元の世界に戻りたいと思ってて。シルヴェーヌちゃんのことだって、ちゃんとこっちの世界に戻してあげたいと思ってて。

 でもそれは、皇子とはさよならすることを意味してて。


(さよなら……?)


 ズキン、と痛むこの胸が、もうごまかせないほどの存在感を持っている。

 この痛みの理由はもうわかってる……と思う。

 ──でも。

 でもでもでも。


(ああっ、どうしよう)


 ほんとどーしよう??

 どうしたらいいんだよ……俺。


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