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高校球児、公爵令嬢になる。  作者: つづれ しういち
第五章 事態は急転直下です
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12 宗主さまとの密談です


「拝見しておりましたよ、マグニフィーク少尉。今回もまたすばらしい《癒し》の手腕にございましたね」

「い、いえ……それほどでも」

「ご謙遜をなさいますな。あれほどの広範囲に、強力な《癒し》のわざが行われるところは初めて見ました。感服いたしましたよ」

「えへへへ……いや、もうそのへんで! 勘弁してくださいっ……」


 そのまま宗主の部屋に連れていかれた俺は、そこで皇子やベル兄と一緒にお茶やお菓子なんか出されて、さっそく褒め殺しにあっていた。

 うう、恥ずかしい。身が縮むっていうけど、このことだよな。

 今の俺、きっと耳まで真っ赤だろう。

 そんで、なぜか隣の皇子の視線がめっちゃ(いて)え。なんでよ?


「わたくしも、このところあちこちを飛び回っておりましてね。皇帝陛下にも、あなた方の大いなる活躍について報告させていただいたところなのですよ」

「そーなんスか」

「ええ」


 出されたお茶は香りといい味といい、日本の緑茶にとてもよく似た感じだった。それをひと口飲み下し、宗主はあらためて俺をじっと見つめて来た。やっぱり何を考えてるかわからない瞳だ。


「さて、そろそろ本題に入りましょう。此度(こたび)の聖騎士殿への重い呪いの件ですが」

「は、はい」


 ぴりっと場の空気が緊張する。皇子とベル兄も顔を引き締めた。

 いよいよ来たな、と俺も身構える。


「先にお(たず)ねしてもよろしいでしょうか? あなたは今回のあの呪いをどのように見ましたか」

「え、どのようにって──?」

「あなたは今回、トリスタン殿を治療するにあたり、あの方の最も近くにいらした。そして能力者としての目で、あの呪いをはっきりとご覧になったはず。様々に感じることがあったのではないかと思うのですが」

「は……はい」

「どうか、忌憚(きたん)のないところをお聞かせ願いたい。かの呪いは、あなたがこれまでに見知っている物と似通ってはおりませんでしたか。臭いでも、音でも、なにかの印象のようなものでもよいのですが」

「……はあ」

「あなたが肌で、五感で感じとった印象でよいのです。どんな些細なことでも構いませぬ。なんでもお聞かせ願いたい」

「え、ええっと……」


 つい、口元に手をあててちろんと隣の皇子を盗み見てしまう。

 実は、思うところはあった。めちゃくちゃあった。しかも、かなりはっきりとした確信を持って。

 宗主は俺の表情を的確に読み取ったように、わずかに目を細めた。口元は笑ったままだけど、その実ちっとも笑ってなんかいない顔だった。


(うう……(こえ)え)


 そうだ。この人の目は怖い。一見おだやかで優しそうにしか見えないのに、底光りする(はがね)の意思みたいなものを秘めている。ニブい俺にでもわかるぐらいに。

 この人は見た目通りの、ただ優しくて美しい人なんかじゃないんだ。それだけは、こんなペーペーの俺にだってよくわかってる。俺ごときがこの人の目を欺くことなんてまず不可能だ。

 まあ、でなきゃこんな若さで魔塔の宗主になんかなれねえわな。

 だからここは、ただ正直に思ったことを言うしかなかった。


「……あの。ほんとに、ほんっとーのただの感覚で、イメージなんスけどね」

「はい」

「そ、その……」


 そこまで言って、俺は口ごもった。

 本当にこれ、言っちゃっていいんだろうか。


「どうぞ遠慮なくおっしゃってください、マグニフィーク少尉」

「そうだ。言ってくれ、シルヴェーヌ」


 隣から皇子が声を重ねる。俺は皇子にうなずいて、また宗主を見直した。

 一回息を吸い込み、ぎゅっと目をつぶってから開く。


「……あの、ですね。めちゃくちゃ似てたんス。……皇宮で、皇后陛下に《癒し》を使ったときに見たヤツと」

「……!」


 皇子が目を見開く。でも、そんなに「驚いた」って風じゃなかった。ある程度予想はしてたんだろう。多分だけど。


「えっと、体の大きさとかは違うんですけど、同じ黒いヘビだったし──なにより、持ってる雰囲気がそっくりで。たぶん、匂いとかも」

「……黒いヘビ」

 宗主が目を伏せて静かに言った。

「そうですね。わたくしにもそのように見えておりました」

「あ、そッスか」

「ええ。あなたの《癒し手》としての目がいかに正確なものかが、これで証明されましたね」


 宗主はそれから、簡単に説明をしてくれた。

 魔法っていうのは、その人の魔力(マナ)をもとに練り上げるものだ。ある一定の術式にのっとって練り上げるのは本当だけど、そこにはどうしても術者の性格とか、癖みたいなもんが影響するらしい。


 要するに、ちょうど筆跡みたいなもんだ。

 俺たちが文字を書いたとき、筆跡をちょっと変えようと思っても、その人の独特の癖みたいなものが現れてしまう。まあ素人には見破れなくても、優秀な筆跡鑑定士がちゃんと調べれば、どうしたってその癖は見抜かれてしまうみたいに。

 魔法には、しっかり「だれそれ(じるし)」みたいな印が刻まれる。

 要はサインみたいなもんだ。

 ただこれは、ある程度大きなマナを持っている術者にしか見分けることができないらしいんだけどな。


(けど……。ってことは、つまり──)


 皇后陛下を長年かかって呪っていた奴と、今回、聖騎士トリスタン殿を呪った奴とは同一人物である可能性がものすんごく高い。


(だけど……)


 この事実は、俺を当惑させた。

 そのことを考えると、俺の胃はぎゅうっと重みを増した感じがした。

 だって、皇后陛下を害そうとしていたのは、例の側妃がわの人間だったはずだ。ってことは、そいつは帝国の人間ってことになる。


 でも、なんでだ?

 なんで帝国の人間が、帝国を攻撃している魔族の手伝いみたいなことをするんだよ……?



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