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高校球児、公爵令嬢になる。  作者: つづれ しういち
第五章 事態は急転直下です
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8 癒し手としての力を発揮します


 予想はしてたけど、その《癒し》は一筋縄ではいかなかった。

 なぜってその真っ黒なヘビどもには、意思みてえなもんがあったからだ。

 俺がトリスタン殿の腕に触れて白いヘビたちを治療にかからせ始めるとすぐ、そいつらはかま首をあげて、逆にこっちへ襲い掛かってきた。


(くそっ……。なんだよ、こいつらっ!)


 反撃してくる呪い。こんなの、もちろん初めてだった。それだけ呪いのレベルが強烈だってことだろう。

 俺の白ヘビたちも負けてはいなかったけど、互いに食い合い、体を締め上げあってなかなか勝負がつかない。

 シュウシュウ、チリチリと攻撃音を発しながら、白ヘビと黒ヘビがくんずほぐれつ戦いまくる。白いヘビたちは光の炎を、黒いヘビたちはどす黒くて紫色をした瘴気をどばどば発し、お互いの体を砕こうとしていた。

 瘴気を浴びると、白ヘビたちの綺麗な白い鱗が腐るみたいに汚い緑色へと変色していく。逆にこちらの白い光にあたると、あっちの黒ヘビの体は黒い霧みたいになってそこだけパッと散って消えていく。

 でも、どっちも自分の体を治療できるみたいで、すぐに鱗の状態が元にもどる。いつまでたってもその繰り返しだった。


(ちくしょうっ……。これじゃ(らち)があかねえっ!)


 じっと集中しているのにも限界がある。なにしろ、究極まで自分の集中力を上げた状態だしな。なにより俺は、昨日今日この能力に目覚めたばかりのひよっこだ。

 経験が浅いぶん、長期戦になったらやばい。そんなことは分かっていた。こっちの集中力が切れたとたん、黒ヘビどもにあっというまにこっちが食われることは目に見えている。そうなったら全部が終わりだ。

 俺自身はもちろんだけど、聖騎士どのを救えなかったら帝国の存亡に係わる。

 絶対にここで負けるわけにはいかねえ。でも……キツい。


「くううっ……!」


 周囲の気温は低いはずなのに、体じゅうから滝のように汗が落ちているのがわかる。全身の筋肉が、緊張と凄まじいストレスでビリビリ震える。

 と、隣から落ち着いた声が聞こえた。


「シルヴェーヌ嬢、気をしっかり持たれよ。我らも加勢いたしますぞ」

「え──」


 グウェナエルだ。黒い瘴気にとりまかれていて視界が遮られ、顔はよく見えなかったけどな。

 そして、次の瞬間。

 ぶわっと俺の背後からいく筋もの光の帯が突進した。ほかの魔導士たちによる白ヘビの追撃が始まったんだ!


(おお……! すげえ)


 ここまで一進一退だった魔力同士の戦いが、一気にこっちに優勢に傾く。

 心強い後押しに勢いを得た俺の白ヘビたちが、この機を逃すまいとばかりに黒ヘビたちの殲滅にかかった。次々にその喉首に噛みつき、真っ黒な霧へと爆散させていく。


《ギョエエエ! キエエエエエ──ッ!》


 黒ヘビたちが奇妙な断末魔をあげた。背筋が凍るような気味の悪い声だ。

 聞くに堪えない。地獄の底に悪鬼どもがいるとしたら、きっとこんな声だろう。

 一番太くてでかい奴の喉元に、俺の白ヘビがぐわりと噛みつく。すると、のこり全部の黒ヘビの姿が嘘みたいに真っ黒な霧に変わって霧散した。

 ボスの黒ヘビの体に、稲光みたいなこまかい亀裂が走り、放射状に光を発する。つぎの瞬間、ぱあっとその場に光が満ちた。


「あっ……!?」


 周囲が真昼よりも明るくなる。この場が光源そのものになったみたいに、まばゆく光った。

 あまりの光で目が痛いほどだ。俺は思わず目をつぶった。

 と思ったら、それは唐突に終了していた。


「お……終わった……?」


 恐るおそる目を開けると、そこは薄暗い、元通りの病室だった。


「……終わりましたな。お見事でしたぞ、マグニフィーク少尉」


 静かな声で答えたのはグウェナエル。

 周囲の魔導士たちは俺と同じように、腕でかばっていた目をそっとあけて、しぱしぱと瞬きを繰り返している。

 なんだか夢でも見ていたみたいだった。

 皇后陛下のときと同じように、暗かった部屋が一段階ほど明るさをあげたような、爽やかな感じがある。気のせいか、なんとなくいい香りまでした。これは光の白い魔法には特有の感覚らしい。


(……成功したんだ)

 

 よかった、と思ったとたん、がくんと膝から力が抜けた。


「しっかりなさいませ」

「あ……あ、すんません……」


 いつの間にか、グウェナエルの腕が俺の体を支えてくれていた。そうでなかったら今にもその場に倒れそうなほど疲弊していた。ほとんど立っていられない。そんで、めちゃくちゃに眠い。今にも寝たい。今すぐにも。


「せ……聖騎士、さまは……?」


 ただそれだけ言うのもひと苦労だ。(まぶた)が重い。でもどうにかこうにか、聖騎士が穏やかな顔色で横になっているのは確認できた。さっきまであっただろう体じゅうの傷もきれいに塞がっているみたいだ。

 グウェナエルは穏やかに微笑んだ。


「もう大丈夫。このお顔の色なら問題ありますまい。傷も消えておりまする。あとのことはお任せを。あなたはどうぞ、少しお休みなさい」

「はは……。よかっ、た──」


 そこまでだった。

 グウェナエルにへらっと笑った次の瞬間、俺の意識はぶつりと途切れ、真っ暗な眠気の(ふち)に沈んでいった。



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