6 入団試験に出発です
《今度、なんだかんだで、流れで騎士の試験を受けることにもなっちゃってるけど……。いいよね? 俺、受けにいっても》
《はい。自分が騎士にだなんて想像もしなかったことですけれど、実際にケントさんがやり始められてから、実は訓練を見ているのが楽しくてしかたがありませんの》
《おっ。そうなの?》
《はい。それに、帝国のお役に立つことは帝国の臣民ならば当然の務めでもありますし。ですからその体にいらっしゃる間は、どうぞ存分になさっていただければ》
《そっか……。ありがと、シルちゃん!》
シルちゃんはうふふ、とまた笑った。
《とはいえわたくしたちは、なにより、どうすればもとに戻れるかを模索しなくてはなりませんけれどね》
《うんっ。そこはまったく同じだよ、俺も。あのさ、これからはこうやって、時々連絡が取れそうなのかな?》
《はい、おそらく。一度つながった連絡の道筋はそうそう断ち切られないと思われます》
《そっか! じゃあ夜には連絡するようにするよ、俺からも》
《はい。こちらは授業中ですとあまりお返事できないかもしれませんが、なるべくお返事いたしますわね》
ひょええ。さっすがシルちゃん、まじめだなー。
《今は部屋なの?》
《はい》
《そっか。んじゃ、姉貴にはよろしく伝えといてよ。シルちゃんのこと、これからもよろしくなって。恩に着るって言っといて?》
《はい。本当によいご姉弟でいらっしゃいますね。羨ましいですわ……うちとは大違いですから》
《え~? それほどでもねえよ。姉貴は完全な『俺サマ』だかんなあ。俺なんかずっと尻に敷かれっぱなしで。シルちゃんも、姉貴にいじめられたら俺に言ってね? 俺だって姉貴の弱みのひとつやふたつ、知ってんだからよっ》
《あら、それは頼もしいですね。でも大丈夫ですわ。本当にうまくやっておりますから……。わたくしたち、本当にいいお友達になったのよ? ですから心配なさらないで》
そこまでだった。
シルちゃんはどうやら誰かに呼ばれたらしい。「ではそろそろ。またご連絡いたします」と言って、ぷつんと通信を切ったんだ。
俺はベッドに座り込んだまま、しばらくぼんやりとカーテンの外の月を眺めていた。
(ひょええ……。びっくりだなあ)
でも、なんだかわくわくする。
なにかが急に動き出しそうな予感がした。
◆
そして。
いよいよ今年の騎士団の入団試験の日がやってきた。
季節は冬を越えて、いつのまにか春がやってきたんだ。
その日、俺は朝から緊張していた。
「お嬢様、とにかく落ち着いてくださいませね」
「お嬢様ならきっと大丈夫にございます。あれほど練習なさったのですし」
エマちゃんはじめ、侍女ちゃんとメイドちゃんたちが口々に可愛い声で励ましてくれる。
あ、そうそう。
あれからすぐ、新しい侍女とメイドが俺の陣営に加わった。今度こそちゃんと身元も性格もはっきりわかった女の子たちだ。要は「親シルヴェーヌ派」とでも言うべき子たちかな?
人選にはパパンやママンはもちろんのこと、あれ以来すんごく俺のことを気にしてくださってる皇后陛下や、クリストフ皇子の口利きもかなり大きく影響した。
そしてエマちゃんには計画していたとおり、俺の侍女長に昇格してもらった。もちろん、俺は事前に新人ちゃんたちに「平民出身だからってエマちゃんを見下すような真似はしないでね。見つけ次第、厳罰おっことすから」ときっちり釘を刺している。
これでもう、軽率にアンジェリクなんかの口車にのってシルヴェーヌちゃんイジメをやるような、愚かな子は出てこないはず。
よかったよかった。
俺がこの体になったことの意味のひとつが成就したってわけだよな。
「俺、だいじょぶ? どこもおかしくない??」
ひととおりの身づくろいを終えて、でかい鏡の前に立った俺は、周囲の女の子たちを見回した。
武術や馬術の実技があることは分かってるんで、今日はもちろんドレスじゃない。騎士団の隊服は入隊してからの支給になるから、俺は今日のためにそれによく似た感じの、女性向けの服を特別に誂えた。
乗馬服とよく似たワイン色のジャケットに白いキュロットパンツ。そして長靴。髪は後ろでポニーテールにしてある。あくまでも試験が目的なんだから、あんまりキラキラした飾りなんかはナシにしてもらった。
いっぱいの微笑みとともに、「もちろんでございます」「お嬢様に非の打ちどころなどございません」という温かい励ましの声が俺をつつむ。
侍女長エマちゃんはとりわけ感慨深そうだ。嬉しそうな顔が輝いている。
ああ、この温かさ。ここにシルヴェーヌちゃん本人が立ってるんならいいのにな。
「お嬢様が十分に実力を発揮されますよう、わたくしども一同、心よりお祈り申し上げております。どうぞご存分になさいませ」
もはや「どこの貴族のご令嬢?」と思うような上品な振る舞いでスカートをちょっと持ち上げ、エマちゃんが礼をすると、周りの子もそれにならった。
「いってらっしゃいませ、お嬢様」
「公爵家の星の、ご武運をお祈り申し上げております」
「ありがと、みんな!」
俺はみんなに向かってぶんぶん手を振って、公爵家の馬車に乗りこんだ。





