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高校球児、公爵令嬢になる。  作者: つづれ しういち
第四章 目的に向かって邁進します
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5 癒しの本質ってなんでしょう


 シルちゃんの話はつづく。


《お姉さまのご協力もあって、こちらはどうにか滞りなく生活しております。むしろ、気になっていたのはそちらのことです。皇后陛下はその後、どんなご様子でしょうか?》

《ああ、うん! もうピンッピンしてらっしゃるよ~。むしろ前よりずっと若返ったぐらいな感じで、今にも空だって飛びそうよ》

《ああ、よかったわ……!》

 シルちゃんが心底安心したみたいに叫んだ。

《あの時はケントさんがすぐに協力してくださって、本当に助かりました。ありがとう、ケントさん》

《いや、俺はなんもしてないよ。シルちゃんがめっちゃ熱心に願っていたから、あの力が発動したんだと思うし》

《……そうですね。『願い』は確かに必要で、大切な要件なのだと思いますわ》

《要件??》

《そうです》


 シルちゃんが言うには、こうだった。

 《癒し》はもちろん、その才能があって魔力を持っている人にしか発動させられない。でも、相手に対して何の感情もない場合には、ものすごーく発動しにくいんだそうだ。できないことはないんだけど、効果が爆さがりするらしい。

 つまり、あの時はシルちゃんだけじゃなく、俺自身も皇后さまを「かわいそうだ、治してあげたい」と願うことが必要だった……ってことらしいんだな。皇后さまの状態もかなり悪かったし、受けてた呪いや毒の影響も深刻だったし。


《相手の治癒を願う気持ちは、まことに神聖なもの……尊いものです。そういうお気持ちがケントさん、あなたの中にもちゃんとある》


 俺は呆然とシルちゃんの静かな声を聞いている。


《それがとても嬉しかったの。『ああ、この方はやっぱり、わたくしと魂の等しいかたなんだわ』って。……クリストフ殿下が()()()()()を愛されるのも、無理のない話だと思ったわ》

《えっ。シルちゃん、でもそれはっ──》


 殿下が惚れてんのは、基本、君でしょ?

 俺みたいなフツーの、しかも異世界の男子なわけがないでしょうが。

 でも、シルちゃんの意見は違うみたいだった。


《よく考えてみて、ケントさん》


 シルちゃんの声は優しいけど、どこか毅然(きぜん)として聞こえた。


《殿下はわたくしが幼いころに小鳥を癒した姿を見たとおっしゃった。それからわたくしのことが気になりはじめたと。あの時、わたくしもあなたの耳を借りて話を聞いておりましたからわかります》

《あ、そーだったのね》

《はい。……でも、その当時から今に至るまで、わたくしと殿下はろくに言葉もかわしたことがなかったわ。わたくしも、ほとんど家にこもっているような状態でしたし……。それがいきなり愛に発展することなんてない。まして、プロポーズをなさるだなんて。そんなのおかしい。そうでしょう?》

《…………》


 シルちゃんはちょっと間をおいて、「ですから」と言葉をついだ。


《殿下が心を惹かれておいでなのは、ケントさん、()()()()()()()()()()()

《な……っ》


 度肝をぬかれて、俺は二の句がつげなくなった。

 え、まじ?

 なに言ってんのよ、この子。


《でも、シルちゃん……》

《わたくしのことを心配してくださっているのでしょう? ケントさんは本当にお優しいかたですものね。でも大丈夫。わたくしだって、今までろくにお話をしたこともない殿下のことなど、どうとも思っていませんことよ?》

《ええ……?》


 そこはちょっと疑問符がつくなあ。だって、あんなイケメンよ? いろいろあってちょいと腹黒いとこもなきにしもあらずだけど、基本的な性格はいい奴よ?

 シルちゃんの声に苦笑の雰囲気がまざりこんだ。


《もちろん、皇族として尊ぶ気持ち、敬う気持ち、憧れる気持ちがないとは申しませんけれど……。でもそれはあなたが思うような、そしてアンジェリクが抱いているような、生々しくて気が狂うほどに恋焦がれる気持ちには、ほど遠いものだと思うのです》

《はあ……》


 「もちろん」とシルちゃんは微笑みながら言った。


《そうは申しても、わたくしも公爵家の娘です。あのかたと結婚せよと言われれば、否やを申せる立場ではありません。それが貴族の娘としての務めですし》

《し、シルちゃん……》

《でも、それもこれも、あなたがわたくしの姿をあまりにも激変させておしまいになったからこそですわよね。わたくし自身もびっくりしたのですよ? 鏡にうつった自分の姿を見て『まさか、これがわたくし……?』って、とても信じられませんでした》

《あ、そう? やっぱり?? へへっ、すんげえ痩せたもんね。けっこう走り込んだし、筋肉ついたし。別によかったよね? 健康にもなったと思うし。まあいろいろ勝手にやっちゃってるけど、俺……》

《もちろん! むしろお礼を申し上げたかったのです》


 シルちゃんの声は嬉しそうだった。

 彼女はまったく知らなかったらしい。痩せてきちんと運動し、きちんと食事をして手をかけさえすれば、自分がこんなにもきれいな姿になれる人間だったんだってこと。

 それだけじゃない。生き生きと動き回ってベル兄や殿下や師匠たちと野球をし、エマちゃんと相談していろんな職人さんたちと話をし、交渉している自分の姿には、心底驚いたんだって。


《ケントさんの行動力。それに、人とのお話しのなさりかた。腰の低さや、敵を作らないお心の広さ……。ほんとうに学ぶことだらけで、わたくし……今までの自分が恥ずかしくなりましたわ》

《う、うへへへ。いや、そんな褒めないで、恥ずかしくなっちゃうから。それもこれも、公爵令嬢としてのシルちゃんの財産があってことのことだしさっ?》

《確かに、お金は大切な要件ですわね。でもそれだけでは、あんな風にたくさんの人があなたに協力はしなかったかと思いますわよ?》

《そ……そっかな》

《そうですとも。ケントさんのお人柄があってこそ。わたくしはそう思います》


 ああもう、シルちゃんてば褒め上手!

 もうそのぐらいにしといて、耳がかなり熱くなってきちゃったから!


《それに……あのアンジェリクに対しても、わたくしができなかったことを毅然となさってくださいました。これは、どんなに感謝を申してもし足りないと思っておりますわ》

《あー。あの子はちょい調子に乗りすぎてたもんね~。ちょびっとお仕置きするぐらいはいいだろって思ったのよ。ははは》

《はい。あの時は、わたくし本当に胸がすーっといたしましたのよ? もういっぱい泣けてきてしまって、大変でした……》

《そっかあ。そりゃよかった。へへへっ》

《うふふふ》


 シルちゃんに黙っていろいろ勝手しちゃったけど、そう言ってくれるんならよかった。結果オーライってやつだよな? うん。



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