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高校球児、公爵令嬢になる。  作者: つづれ しういち
第四章 目的に向かって邁進します
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4 シルちゃんと情報を交換します


《ですからあれは……本当に、わたくしひとりが引き起こしてしまったことなのです。異世界におられたケントさんは、たまたまわたくしと魂が似通っていたことで、この現象に巻き込まれてしまっただけです》

《へ、そうなの?》

《はい。魂が抜けだしてからっぽになってしまったわたくしの体に、あなたの魂が吸い寄せられてしまった、といったようなことらしく……》


 はあ、なるほど?

 わかったようなわかんないような気になって、俺はちょっと黙った。


《あなたには、とても申し訳ないことをしてしまったと思っています。いまさらではありますけれど、どうかお許しくださいませ……》

 シルちゃん、本当に申し訳なさそうだ。きっとしゅんとしてるんだろう。

《あ~、いやいや。それはもういいよ。シルちゃんだって、俺をこうしたくてやったことじゃないんだし》

《そっ、それはもちろんですわ……!》

《でしょ? 俺は俺で、こっちでけっこう楽しくやってっし。野球だってやっちゃってるし。まっ、いずれはそっちに戻りてーけどよ。……それよりさ、そっちは大丈夫なの?》


 そうだ。

 俺の一番の心配はそこだった。

 俺とシルちゃんの適応能力はだいぶ違うだろうなって思ってたから。


《あ……はい。意識がもどったら病院とかいう場所で。まわりじゅう、見たこともないかっこうをした知らないひとばかりですし、最初のうちこそびっくりしてしまって……退院後は自分の──というか、あなたの部屋ですわね? そこから出ることもできないで、泣いてばかりいたのですけれど》

《あっちゃ~。やっぱりかあ》


 俺、ぺしんと額をおさえる。

 こりゃ予想通りだったか~。


《でも意外なことに、すぐにお姉さまが気づいて、お助けくださって》

《えっ。姉貴が……??》

《はい》

 こりゃびっくりだな。

《……あの、あなた方はほんとうに不思議ですね》

《は? なにが?》

《だって……。いきなり『異世界が』とか『人格が入れ替わって』とか、泣きながら説明したわたくしのことを、あの方、あっという間に理解されて……。わたくしも混乱していて、相当に支離滅裂な説明だったと思うのですけれど》

《ほへえ》


 さっすが姉貴。オタクの(かがみ)っつうかなんつうか。そりゃ異世界転生ものの恋愛ラノベとか読みまくってんだから免疫があるのは事実だろうけどさ。

 要するに姉貴は、様子がおかしい俺(中身はシルちゃん)からとっとと事情を聞きとって、あれこれサポートしてくれたらしい。

 俺自身のことはもちろん、親のことや学校のことや勉強のこと、それに部活のことやらなんかまで、懇切丁寧に説明してくれたんだと。


《それで次第に、わたくしも何が起こったのかを理解するようになり……。さほど休むこともなく、学校へも参りまして》

《へええ? マジかよ》

《はい! 幸い、あなたの記憶は残っていてさほど困ることもなく……そちらのような身分差のない世界というのも新鮮で。それに──》

《それに?》


 そこでシルちゃん、ちょっともごもごっと言い(よど)んだ。

 それからやっと、ぽそっと言う。


《あのう……学校ってとっても楽しいものですね!》

《……はいい?》


 いまの俺、たぶん目が点になってるだろう。

 だってシルちゃんの声は明るい。学生生活をめっちゃエンジョイしてる人のそれに聞こえる。


《そちらの世界にいたのでは知りえなかった、科学や数学の奥深い世界に触れることができましたし……。こちらでは魔法らしいものがないぶん、科学というものが発達したのですね。あなたの故郷である『ニホン』という国の(いにしえ)の文化も、とても興味深くて》

《ははあ》

《わたくし、つい面白くて原文で『源氏物語』と『枕草子』と『方丈記』と『徒然草』と『平家物語』を読破してしまいましたわ! とても感動的な経験でした……》


 うっとりして、ふう、なんて溜め息ついてるし。

 いやいやいや。

 読みすぎでしょ! しかも古語のまんま読んだって。天才か?

 ちょっと俺の頭じゃついていけねー。


《あっ、ご安心くださいね。成績もけっして落としてはおりませんし。むしろ、ほんのちょっぴりですが上がっているかと思います》

《あ、いやいやいや! そんなことは気にしないで?》

 俺、思わずぶんぶん両手を振った。

《っつうかそこはそのー、なるべくお手柔らかにお願いしたいッス……》


 いや「ちょっぴり」とか言ってるけどさ。シルちゃんってマジメだし、その能力だったら実は「ものすごく」成績が上がってる可能性大だぞ。

 いやまじで。いや絶対!

 それだと俺がそっちに戻った時に、逆の意味で困りそうだもん!


《野球部のみなさんも爽やかで温かくてとても素敵で。わたくしの様子が最初のうちおかしかったのは、頭に打球を受けてしまったせいだと思って、ずいぶん心配してくださって──》

《あ、なるほど。そこは都合よく理解してくれたってわけかー》

 俺、ちょっとほっとする。

《はいっ。それで、こちらもケントさんの記憶がちゃんと残っていたので、野球もたのしくさせていただきまして》

《おー、そうなんだ。チームメイト、みんな変わりねえ? 元気にやってる?》

《はいっ。新しく入って来たピッチャーの人もとても調子がよいようですわ》

《へー。そうかあ……》


 あああ、いいなあ。

 俺も早くそっちに戻りてー! そんで、チームメイトと甲子園を目指さねば。


《あのさー、シルちゃん? すんげえ基本的な質問があんだけど》

《はい?》

《そっちって、いま何月何日なの》

《……あのう、そちらとは時間の流れ方がずいぶんちがうようで。こちらがいま現在で五月の十日です》

《ええっ? マジ!? いや、でもこっちはもう何か月も経ってるぜ?》

《ええ、そのようですね。けれどこちらでは、あなたが頭を強打して入院してから、まだほんの十日ほどなのです。これは本当です》

《うひょお。そんなことがあんのかあ……》

 

 つまりむこうとこっちでは、時間の流れ方に差がある、と。心の中にメモメモ。



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[一言] さすあね(さすが姉貴)!
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