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高校球児、公爵令嬢になる。  作者: つづれ しういち
第四章 目的に向かって邁進します
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2 いじめっ子たちにもざまあしましょう


 休憩時間の練習をしているうちに、師範たちは道具にも注目しはじめた。ごくごく自然な流れで。


「この革製の『グラブ』とか申すもの、よくできておりまするなあ」

「『バット』も振る際の重心のことをよく考えられておりますぞ」

「うむうむ。これは剣や槍にも通じるところがありまする」

「今後は、専用の靴や衣服も製作予定であるとか。公女様はまことに活動的でいらっしゃる」

「いやいや、それほどでも……でへへへ」


 俺はまたバリバリ後頭部を掻きそうになって、エマちゃんにきゅっと手首を握られた。

 運動するときはポニーテールみたいな頭に結ってもらってるから、バリバリやっちゃうとめちゃくちゃになるんだよなー。シルちゃんの髪って癖っ毛だから、もうもっしゃもしゃになるわけ。もちろん、すでに経験済み。


「それもこれも、ここにいるエマちゃんとそのパパのおかげッス。俺、めっちゃめちゃ感謝してるんで」

「お、お嬢様……そんな」


 あっというまに赤くなるエマちゃん。

 でも、本当にそうなんだよな。道具類の仕上がりは上々だ。

 あのあと、皇帝陛下は俺が皇后陛下を癒したことに対する褒美として、帝国で野球というスポーツをすることを許可してくださった。つまりチームを編成すること、野球場をつくることなどなどをだ。

 もちろん、俺は飛び上がって喜んだ。エマちゃんと手をとりあってぴょんぴょん跳ねたもんだ。

「やったあ! バンザーイ!」ってな。

 エマちゃんは「お嬢様、よかったですね。よかったですね……!」って涙ぐんで喜んでくれた。


 実は騎士団内でも、野球に興味をもってくれる人が増えてきているそうで──これはまちがいなく、皇子とベル兄の宣伝の成果だ──休憩時間なんかにキャッチボールや簡単な試合をやってみたりしているらしい。

 ああ、いいなあ! 俺も混ざりたい、ぜひ混ざりたーい!

 こりゃあ俺、ぜったい騎士団の入団試験に合格しなきゃな。

 この世界で野球を始めて広めた張本人としてもカッコつかねえし。


 で、これにともなって必要になるのが、もちろん野球用品の数々だ。もっともっと数が必要になるのはまちがいなし。騎士団さんのほうのはもちろん、エマちゃんパパからご購入ってわけだ。

 エマちゃんのパパは、今や用具類を製造するグループの元締めみたいな立場になって、皮革職人、被服職人、靴職人、木工職人などなどをたばね、全体がひとつのビジネスとして機能しはじめている。出資者はもちろん俺……ってか公女シルヴェーヌちゃん。

 貴族たちがやり始めたスポーツだけど、用具をつくっている職人さんたち自身も面白がって遊んでくれてるし、そこから噂がひろがって、このところ平民にも興味をもつ人が増えてきているらしい。下町の空き地なんかで、バットとボールだけで野球をやってる少年少女の姿が見られるようになったんだとか。

 すげえすげえ、いい感じ!

 こりゃまたさらなるビジネスチャンスにつながるかもー!


 あ、そうそう。

 ビジネスチャンスと言えば、皇后陛下のドレスのことを忘れてた。

 あのあと、俺はあらためてデザイン画を描き、皇后陛下とキラキラ店長を引き合わせた。その後しばらくして、陛下のための新しいドレスが何着も完成した。

 ご本人は大満足で、パーティでも大いに着ては宣伝してくださったもんで、これまたご令嬢がたの評判に。つまり、ひとつのムーヴメントを生みだした。

 もちろん俺もその隣でシュミーズ・ドレスに身を包み、陛下と一緒にファッションショーに参加させてもらったわけだけどな。


 当然ながら、居並ぶ貴族の紳士淑女のみなさんは、ドレスとともに豹変したシルヴェーヌちゃんの容姿にも度肝をぬかれたのは言うまでもない。


『えっ……あれが?』

『あの公爵令嬢、シルヴェーヌ様……? ほんとうに??』

『なんてお美しいのでしょう』

『ずいぶんとまたお痩せ……いえ、健康そうなお姿になられて』


 前にアンジェリクに乗っかってイジメをやらかしてた女の子連中もぽかーんよ。うっへへへ。

 俺がちろんと目線をやると、その子たちはこそこそと人のかげに隠れちまった。そりゃまあそうよね。

 あいや、思い出した。全員じゃなかったわ。ごく一部だけど、逆につつうっと俺に寄ってきて、厚顔無恥にもこんなことを言いやがったのもいた。


『シルヴェーヌ様、お久しぶりでございます』

『そのドレス、大変お美しいですわね。ご自身でデザインされたというのは本当なのでしょうか?』

『近頃では、クリストフ殿下とずいぶんお近づきになられているとか──』


 って人の顔色をうかがうみてえにしてニコニコ話しかけてきやがる。

 俺としては不本意だけど、社交界ではすでに「公爵令嬢シルヴェーヌは、第三皇子殿下のお気にいり」なんて噂でもちきりらしい。いや勘弁して……。


 それにたぶん、アレだろうな。女子としてはドレスのことも気になってるんだろうと思う。

 だって俺の機嫌をそこねたら、その子たちだけ流行のドレスが買えなくなる恐れだってあるわけだ。なにしろあのドレスについても後見は俺なんだからな。キラキラ店長に言って「あの子とあの子には売らないでね」なんて言うのは簡単なことだ。店へ出禁にしてやることだってわけもない。


 その子たちにしてみりゃあ、内気でなにも言い返せなかったかつてのシルヴェーヌちゃんの、おどおどした対応を予想してたんだろうと思う。

 でもな。

 今の俺はあの時の「シルヴェーヌ」じゃねえし。


『あ~らあら△△嬢に××嬢じゃありませんの。みなさん、お久しぶり。みなさんのお顔はよーく憶えていましてよ? わたくし』

『……!』

 場が一瞬で凍りつき、令嬢たちはサーッて血の気の引いた顔になったもんだ。

『理由はみなさんお分かりよね?』

 俺は周囲をひとわたり見回し、にっこり笑ってやった。

『その節は大変お世話になりましたわね。これからしっかりとお一人お一人に()()()をして回らねばと思っていたところですのよ? それはもう心をこめて、懇切丁寧にさせていただきますわね? ウオーッホホホホホ──ッ!』


 って、にぱーっと笑って撃退してやったわ。ほとんどタカラ○カか恋愛ラノベの悪役令嬢みたいなノリで。ふん!

 台詞は一応令嬢らしいもんになってたでしょ? 前々からこの状況を想定して、がっつり練習しといたからな。

 まあ笑い方がちょいゴリラみてえだけど、そこはご愛嬌ってことで!


 問題の女の子たちはって言うと、真っ青な笑顔をひきつらせた顔のまま、そそそ……ってどっかへ隠れちまった。

 ざまあみろっつの。



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