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高校球児、公爵令嬢になる。  作者: つづれ しういち
第三章 なにがあっても拒否ります
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5 皇后陛下からのご招待です


顛末(てんまつ)はすべて拝見しました。首尾は上々でしたね。さすがのお手並みです》


 シルヴェーヌの部屋。

 一応、人払いをしてあるので今は俺ひとりだ。

 《魔力の珠》から、落ちついた皇子の声が響いている。珠から画像が現れていて、そこには軍服姿の本人が映し出されている。

 実はこれ、こうやってスマホやパソコンの映像通信みたいなこともできるんだよな。一応、簡単に殿下が操作方法を教えてくれたから俺にも操作できてるけど、そうでなきゃただの球でしかないシロモノだ。ふしぎ~。

 そしてほんと、すげえ便利グッズ。


「ありがとうございました。これも殿下の協力あってこそでした……ですわ」

《いえいえ。あなたの冷静なご対応はさすがでした。身近な使用人も信用のできる者たちに入れ替えられるとのこと。これで少しでもご身辺が落ちつかれるとよいのですが》

「はい。ほんと、殿下のおかげです。ありがとうございましたっ」


 俺がぺこりと頭をさげると、皇子は楽しそうにくすくす笑った。


《ところで……。さっそくお礼を頂戴(ちょうだい)する、というのは図々しいかなとは思ったのですが……少しよろしいですか? 実はお願いがありまして》

「ん? お願いですか?」


(なんだなんだ……?)


 身構える俺。自分でも言ってるけど、たしかにちょっと図々しいかも。

 ま、いいけどね。めっちゃお世話になったのは事実だし。


《申し訳ないのですが、私も少々困っておりまして……。聞いていただけますか? シルヴェーヌ嬢》

「はあ……」


 なんだろう。だってなんかこの人、こんな清廉潔白を絵に描いたようなイケメン顔をして、意外と裏であれこれやってる人だってわかっちゃったしなあ。ストーカーとかさあ。なんか素直に「かっこいい、好き~」みたいにはなりにくい。

 むしろ地味に怖いっつうか。

 まあ、育ってきた環境が厳しすぎたのが原因だってのはわかってるけどさ。何もしていなかったら、この人、こうしてここに生きてなかった可能性が高いんだし。


「……なんでしょうか」

《あ、そんなに身構えないでください》

 皇子は困ったようにちょっと意味のない咳をした。

《その……一度、私の母に会っていただけないかと思いまして》

「えっ。お母さん? って殿下の?」

《はい》


(いやちょっと待てや)


 だってもしかしなくても、殿下のお母さんっていったら、この国の皇后じゃん! 

 皇帝の正妃じゃん!

 確か、側妃がわの陰謀で長年いろいろ変な薬を盛られてきて、健康が害されちゃって病弱なんだって言ってたよな。普段は寝たり起きたりだとかさ。


《ここしばらく、あなたのご様子を時々報告していたのですが。それで妙に興味をもってしまったようなのです。自分が女性のことを話すのが珍しかったからかもしれませんが──》

「……はあ」


 そうかー。この人、ふだん女のことを話題にするのすら珍しいんかい。めちゃくちゃカタブツの真面目くんなんだなー。まあ、それだけ変な女にひっかからないように、用心深くやってたってことなんだろうけど。


《最近は、少し体調もよいようで。一度あなたをお茶会に招待したいと申しておりまして》

「ええっ。おれ……いや、わたしをですか?」

《もしお一人ではお気詰(きづ)まりなようでしたら、ベルトランも一緒に。いかがでしょうか》


 そりゃ気づまりだわ。気づまりマックスだわ!

 だって皇后陛下だよ? いくらシルヴェーヌちゃんが公爵令嬢だって言っても、それでも雲の上に近い人なんだよ?

 建国記念祭だとかなんだとかの大きな行事やパーティでも、遠くからお姿を拝見するのがせいぜいだ。その上、シルヴェーヌちゃんは超引っ込み思案だしさ。パパンやママンにくっついていって、ちょこっとご挨拶するだけでも超めずらしい御方(おかた)なんだよ??

 それなのに、中身が俺のまんまでそんなに色んな人とお近づきになっちゃって大丈夫なのかなあ。あとあと面倒なことになっちゃったら、シルヴェーヌちゃんに悪いんだけど……。


 俺が難しい顔になったままあんまり長いこと沈黙していたもんだから、皇子はしゅんとしたみたいだった。声のトーンがひょろんとさがった。なんか寂しそうに。


《……あの。ご無理なお願いをしているのは重々承知しております。ですので、本当にご無理は申しません。母が勝手を申しているだけですので。でも、できましたらほんの少しだけでも、お顔を見せていただくわけには……?》


 あああっ。またわんこ耳がへちょっとなってる~! 

 なんか今日は、しょぼんて垂れたしっぽまで見えてる気がすんぞ。

 まったくこの皇子はよー。

 クソ真面目かと思ったら、急にクソ可愛くなるのやめろやー。


「あ、いやいや。えーと、じゃあほんのちょびっとだけなら……」

《本当ですか!》


 皇子、途端ににっこりする。めっちゃニコニコだな。

 そんでしっぽはパタパタだな!


「いやもう、ほんっとーにちょびっとだけ。ちょびっとだけですからね??」

《はい、もちろんですとも》


 にこにこにこにこ。

 そんな嬉しいか? よくわかんねえ。

 そしてイケメンの笑顔の破壊力よ。

 ……いや、男の俺には一ミリも刺さんねーけどな、やっぱり。ごめんよ。


「あっ、あのあの! ベル兄もぜひ一緒にお願いしたいっすけど……」

《はい。そちらは大丈夫かと。彼のスケジュールは把握しています。自分から話をしておきましょう》

「はあ……」

《後日、日程の調整をしたうえで、あらためて招待状をお送りします。母の体調の関係もありますし、こちらも予定が立て込んでいますので、少し先にはなると思います。ゆっくりご準備なさってください。当日は自分がお迎えに参りますので》

「えっ。いやあの、殿下。そんなことまで──」


 皇子殿下じきじきのお迎えとか重いわ。重すぎるわ!

 って言いかけたらもう通信がぷつんと切れた。


(うぎー! 切りやがった。マジかよ!)


 あーもう皇子! 俺がなんだかんだ文句言うまえに、わざと切ったな。

 ぜってえそうだ。まったくもう!



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