表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
高校球児、公爵令嬢になる。  作者: つづれ しういち
第十一章 両国を巻きこんで動きだします
131/143

8 さらに驚くべき提案です


 あっちのみんなが度肝を抜かれるのがはっきりわかった。

 まあ、すでにそういう話をしていた皇子とベル兄、宗主さまは別だけどな。


此度(こたび)は《魔力分けの儀》のみならず、《魂替えの儀》までおこなうというのですか?》


 さすがは皇帝陛下。真っ先に驚愕から立ち直られたみたいだ。


「そういうことだ。というか、むしろ不可欠だと考えている」

《とおっしゃいますと》


 一同、不思議そうな顔になる。魔王はさらにめんどくさそうな顔になった。

 この人、基本的にめんどくさがり屋なんだよな。丁寧な説明とか、そもそも嫌いみたいだし。のんびりしてて理解や仕事が遅い人は、さぞかし嫌いなんだろなー。てか、あっという間に首を切られそう。しかも物理的に。


「当然であろう? 中身が『ケント』である場合と『シルヴェーヌ』である場合。魔力をどれほど貯めておける状態なのか、事前に調査することは不可欠だ。もしも《魔力分け》をやってしまった後で《魂替えの儀》をおこない、我が娘とシルヴェーヌとの魔力の均衡が崩れてしまっては元も子もないであろうが。二度手間は御免こうむりたい」

《……な、なるほど》


 そっか。なるほどね。

 今のところ、「シルヴェーヌ」として俺がやってきたことっていうのは、シルちゃんがやったことのないハイレベルなものばかりだ。一度、幼いときに小鳥を癒したことがあるのは皇子も知ってるけど、それは今まで俺がやっちゃったのとは比べものにならないほど簡単なことだし。


「ゆえに、どうあっても《魔力分けの儀》のまえに《魂替えの儀》を済ませる必要がある。ご理解いただけたかな?」

《それは理解いたしましたが。しかし、さらに術式が複雑になるのでは》

 これは宗主さまの言葉。

「まあ、慌てていっぺんにやる必要はない。まずは《魂替えの儀》をおこない、成功を確認するのだ。それに失敗したのでは、お互いその後の計画も立てようがないわけだしな」

《お待ちくださいっ。その儀は──》


 つぎは皇子だ。思わず立ち上がって叫んでる。


《シルヴェーヌ──いえっ、ケントをあちらの世界へ戻すとおっしゃるのであれば、是非わたくしも──》

「って、待てよ皇子っ!」

《殿下、お待ちを》

《やめとけ、クリス!》


 俺につづいて遮ったのは、宗主さまとベル兄だ。

 当然だろう。皇子が言いだすことは予想がついた。きっと、俺の《魂替え》を行うのなら自分もなんとかそれについてあっちの世界へ行けないか、とかなんとか言うのに決まってるんだ。

 でもそれは、今ここでいきなり陛下や皇后陛下のお耳に入れていいことじゃないだろ。

 父ちゃん母ちゃんに心配させたり、混乱させたりしちゃダメだろ、少なくとも今ここじゃさ。


 だけど陛下も皇后さまも、とっくに皇子の言いたいことは見抜いてらっしゃるように見えた。二人とも息子を案じる目をしてじっと皇子を見てらっしゃったから。

 それに気づいたのか、皇子はぎゅっと唇を噛んでまた席に座り直した。

 魔王はそんな顛末を面白そうな顔で観察していた。


「で? あちら世界にいる『シルヴェーヌ嬢』としてはどうなのだ? こちら世界へ戻れるものなら戻りたいか」

《ええ、それは……。もちろんでございます》

 困ったような声でシルちゃんが返事をする。

《こちらの世界も非常に興味深く、学べることも多うございまして、いざ離れるとなれば寂しいのも本当ですが……。やはり、わたくしはそちらの人間ですので》

《シルヴェーヌっ……!》


 パパンとママンが目を輝かせて叫ぶ。本当に嬉しそうだ。当たり前だけど。


(よかったな、シルちゃん)


 パパンとママンは、決して君のことをうとましく思ってたわけじゃないみたいだよ? どんなに内気だろうが太っていようが引きこもりだろうが、やっぱり自分の娘として、ちゃんと愛してたんじゃないかな。あんまり伝わってなかったみたいだけど。

 今のこの必死な様子を見れば、君にもきっとわかるよね。


「よし。では《魂替えの儀》については決定でよいな」

 魔王は満足げにうなずいた。

「で、だな。ここからはさらに私的な話になるわけだが」

「は? まだなんかあるんスか」

「あるとも。そこの第三皇子どのの問題だ」

「へ? 皇子がなにか??」


 言った俺を筆頭に、こっちもあっちも変な顔を並べて魔王を見つめた。

 特に名前の挙がった本人である皇子は、かなり驚いた目でこっちを見ている。


「クリストフ・バラデュール=エノマニフィク皇子。そなた、エノマニフィク帝国の皇太子になりとうはないか。つまり、次期皇帝に」

「……ええええっ?」


 場の一同は、またもや呆気にとられてこのイケメン魔王を凝視するはめになった。


 なんだ、一体。

 いきなりまた何を言い出すんだよっ!

 第一そんなの、帝国の内政問題じゃね?

 そーゆーのって、えっとなんて言うんだっけ、ええっと──


《お待ちください。それは明らかに内政干渉と申すものでは》


 あ、そうそう。それそれ! さすが皇帝陛下。

 「内政干渉」ね、そーだったそーだった。

 って感心してる場合じゃねーわ。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
小説家になろうSNSシェアツール
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ