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高校球児、公爵令嬢になる。  作者: つづれ しういち
第十章 問題解決に向けて突っ走ります
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4 魔王城でひきこもります


 それから。

 俺はしばらく、ちょっとした「引きこもり」になった。

 魔王城の中の自分に与えられた部屋で、ベッドに潜り込んで鬱々とすごしたんだ。

 ウルちゃんはあのあとすぐ、ハッとしたみたいな顔になって必死に俺に謝った。


『申し訳ありません……! この話をすれば、あなたがこんな風に後悔なさることはわかっておりましたのに』って。

『でも、父ばかりが責められる今の状況は、娘としてどうしても得心がいきませんでした……。お許しください』

『いや、いいんだよ。だってそれは、娘として当然の気持ちだろうから。……ゴメンなんだけど、今はひとりにしてくんね?』


 俺が力なく笑ってそう言ったら、ウルちゃんは何度も「申し訳ありません」って、魔族のやりかたで俺に何度も頭を下げ、ふり返りふり返りしながら出て行った。


(やっぱ……俺なんかじゃダメだったんだな)


 やっぱりシルヴェーヌちゃんが言った通りだ。戦争や紛争で、「どっちかが百パー悪い」なんて状況はありえねえ。

 どんなに「罪がない」って思っても、水面に落とした石ころひとつが、どんな波紋を作り出すかなんて、投げた本人に全部予想がつくはずがねえんだし。


 俺、ちょっと調子に乗ってたかもしんねえよな。

 相手を殺すんじゃなくて、怪我を治したり赤ん坊にしちまったりするこの能力(ちから)。この力なら、誰のことも傷つけずにうまく問題を解決できるんじゃねえか……って。うまくこの戦争を終わらせて、この世界を平和にする手伝いができるかもしんないって。そう考えちまっていたかもしんない。

 それは、ものすごく安易で、浅はかな考えに過ぎなかったのに。


(俺……どうしたらいいんだろ)


 そもそも、これはシルヴェーヌちゃんの体なのに。どうにかして、彼女にこの体を返してあげなきゃなんないのに。

 それなのに、こうやって魔族の国に囚われた状態になっちまって、もとどおり公爵家に戻る方法もわかんねえ。


 何度か食事を運んでくる音が聞こえたけど、俺はほとんど食欲もわかなくて、ぼんやりとベッドで過ごした。ドットは心配そうに、ずっと俺のそばを離れない。

 窓の外がだんだん暗くなってきて、今日という日が終わっていくのを、俺はぼんやりと見つめていた。


《……シルヴェーヌ。聞こえているか》

「え──」


 と、枕の下から皇子の声がして、俺はぴくっと飛び上がった。

 もちろん《魔力の珠》だった。俺がそこに突っ込んでおいたんだ。


「皇子っ……!」


 珠を取り出して飛び起きる。珠はいつもみたいに、通信中であることがわかるようにぼうっと光っていた。


《……なんだか声に元気がないな。なにかあったのか》

「えっ? べ……べつに? なんもないよ」

《嘘をつけ》

「う……嘘じゃねーもん」


 どうやら今は、周りにほかのやつはいないらしい。皇子はひとりで、自分の珠を使って俺に通信してきたってことらしかった。

 よかった。あの時、咄嗟に皇子にこの珠を投げ返しておいて。そうでなかったら、いま、こうして皇子の声を聞くことはできなかっただろうから。


「皇子──」

《こら、ケント。約束しただろう》

「え」

《『ふたりきりのときは名前で』と言ったじゃないか。いま、私はひとりだぞ》

「あ。……そう、だったな……」


 ふへっと情けない笑いが口から洩れる。


「ごめんな……皇子、じゃなくってクリス。あんたがあんなひでえ目に遭ったのも、結局俺のせいで」

《え? いったいどういうことなんだ》


 皇子の声が怪訝(けげん)なものになる。

 それから俺は、簡単にあれからのことを説明した。

 あと、この通信もきっと魔王が聞いているだろうってこともな。


《……そうか。だが、それは別にそなたの責任ではないだろう》

「そんなわけねーだろ。だって──」


 俺がいたから、第一騎士団が狙われた。そんで皇子が攫われた。

 俺がいたから、魔族軍には訓練された部隊がいなくなってた。だから皇子がひどい拷問をされることになっちまった──


「……情けねえ。この力でみんなを……あんたを助けようって、思ったのに。これでうまく、この戦争を終わらせることができたら……って。でも結局、ダメだった。俺の考えが浅かったんだ。そ、それであんたを……あんな目に──」


 言ってるうちに、どんどん視界がぼやけてくる。

 顔が見えねえのは助かった。きっと今、俺の顔はみっともねえべそっかきになっちまってるだろうから。

 カッコ悪いこんな声、皇子にだけは聞かせたくなかったのに。


「ごめん……。あんたにも、シルヴェーヌちゃんにも、みんなにも。騎士団のみんなにも。俺……おれっ……」

《ケント!》


 皇子の声が、鋭く俺の名を呼んだ。


※実は健人が皇子に《魔力の珠》を返したという描写が抜けていたため、後日描写を書き足しました。第8章「10 驚愕の目で見つめられます」です。よろしかったらご覧ください。


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