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高校球児、公爵令嬢になる。  作者: つづれ しういち
第九章 魔族の世界でも頑張ります
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5 魔王との話し合いです


「んで? 話したいことってなんなんスか」

「単刀直入だな。まあ情報どおりだが」

「情報? って、えっと」


 俺はちょっとだけ考えた。

 これ言っちゃうのマズいのかな~って。でも結局、言っちゃった。


「つまりその、帝国にいるスパイからの情報ってやつっスか」

「『すぱい』が何かは知らないが。間諜ということなら確かにその通りだ」

「うわー。やっぱ潜入させてんスねー」

「なにを言う。そんなものはお互い様だろうが」


 しれっとした顔のまま、魔王は自分のお茶を飲んだ。

 ふーん。魔族でもこういうお茶飲むんだなー。


「余が知らぬとでも思ってか。貴様ら帝国の魔導士どもも、なんのかんのとこちら側に間諜を送り込んでおるではないか」

「……はあ」

「我らと貴様らとの確執が始まって以来、数百年。互いの関係はずっとこのようなものであった。今さら驚くには値せぬ」

「はあ。って、話をそらしてんじゃねー……ですよ」


 相手の視線がキラーンと冷たく光ったのを感じて、慌てて語尾に「ですます」をくっつける。なんか前にもあったな? こういうの。


「『話がある』っつったのはアンタ──陛下でしょうが。早いとこ本題に入ってもらえません?」

「ふむ。そうだな」


 そこからたっぷり五分間ぐらい、少年魔王は黙っていた。知らん顔をして自分の茶を飲み、菓子を食べて沈黙している。

 俺はいい加減ジリジリしてきた。

 これぜってえ、遊ばれてる。


「あーのー?」

「まあ、簡単な話だ。……そなた、我らの役に立ってみぬか」

「……はい? 役に立つってどーゆーこと?」

「そなたの力は存じておる。《癒し》と、それに伴う《若返り》であろう?」

「はあ……まあ、そっすね」

「それを我らの国でも役立ててくれぬか、と訊いている。こちらの国にも、病に苦しむ民はいる。そちらとの長年の戦争のため、体の一部を失った者、重い後遺症に悩む者も数多い」

「…………」


 うん。そりゃそうだろう。

 帝国の兵士たちがあれだけ疲弊していたんだ。こっちにも同じぐらいか、それ以上の被害が出ていて不思議じゃない。


(でも──)


 俺の心の揺れを察したように、魔王はすらすらと言葉をついだ。

 ひとすじの表情筋も動かさないまま。


「そなたが協力してくれるなら、そなたの拷問や処刑の予定はなかったことにしてやろう。それ以外にも、この国の者どもからいかなる迫害・虐待をすることも禁じてやろう。……その代わり、そなたはこの国で生きてゆく。この(のち)、その命の尽きるまで」

「いや、あの。ちょっと待ってよ。命の尽きるまでって──」


 そんな、冗談じゃねえ。

 俺はもちろんだけど、シルヴェーヌちゃんはどーすんだよ。まさか今から死ぬまで魔族の国で暮らせってのか? パパンやママンにも会えないまま?

 そんなの、俺が決められる話じゃねえし。


「悪い話ではないはずだ。そなたがそうしてくれるのであれば、余にはあらためて帝国との和平交渉を再開させる用意もある」

「ええっ」

 マジか。

(さき)の魔王は、そなたの恐るべき力を警戒するあまり、急に弱腰になって帝国との和平を求めた。だが、国内に反発する者は多かった。理由は簡単。単純にそなたの力の方向性によるものだ」

「俺の力の方向性……?」

「つまり。そなたの力は破壊者としてのそれではないだろう?」

「……あ」


 俺、やっとこの子の言いたいことに気付く。


「相手に攻撃的でない魔力をぶつけ、傷や病を癒し、若返らせる力。そなたのそれは、陰と陽で言うなら陽の力とでも言うべきものだ。……確かに、前線の兵らがみな赤子にされるのは困ることではあるものの、心底から恐ろしいと思えるような種類の力ではあるまい? まあ、その家族にとってはそうは言えないこととは申せ」

「……はあ。まあ、確かに」


 そりゃそうだよな。

 めちゃくちゃにやられて大怪我したり殺されたりする力は、やっぱり怖い。でも、単に赤ん坊にされるだけなら、政府の高官からしたらそんなに怖い話じゃないもんな。

 まあ赤ん坊にされた人の奥さんとか、恋人さんはめっちゃ微妙な気分になっちゃうだろうと思うけど。

 魔王はじっと俺の表情の変化を観察していたようだったけど、また一口、静かにお茶を飲んでから言った。


「そなたは知らぬことであろうが。こちらの国は、そちら帝国よりもずっと貧しい。平民どもの暮らしは非常に厳しいものである。北壁より北の地域は、土地が痩せ、自然は厳しく、作物の育ちが悪いからだ。栄養不良に陥った民らの間には病も流行しやすくなる。子どもの死亡率も、そちらの比ではないゆえな」

「…………」


 少年が何を言いたいのかがだんだんわかってきて、俺は思わずじいっと相手を見つめてしまった。



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