一人ぼっちの邪神様① ※ベル=ゼブル視点
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■ベル=ゼブル視点
――主神テトラグ=ラマトンに封印されたあの日、ボクは正真正銘の邪神になった。
「邪神ベル=ゼブル! 主神テトラグ=ラマトンに牙を向ける、愚かな神よ! 我ら眷属である“七大天使”が、貴様を封じる!」
ボクはテトラグ=ラマトンに連れてこられた地上のどこかにある石室でたたずんでいたら、そんなことを叫びながら天使族が乗り込んできた。
ああ、これがテトラグ=ラマトンが言っていた、悪役としてのボクの役割ってことなんだね。
「フフ……本来であれば私達の手によってその身体の全てを引き裂いてやるのですが、主は慈悲深い御方……『五体満足のまま封印せよ』とのこと。感謝するのですね」
足首まで伸ばした銀髪の天使が、クスクスと笑いながらそう告げる。
だけど……この天使は何を勘違いしているんだろう。
確かにボクは神族の中で一番若いけど、天使族ごときがボクの身体を引き裂くどころか、触れることだってできないのに。
「“ラファエラ”、無駄話をするな。我等はただ、主の仰られたとおりのことをするだけだ」
「ふう……相変わらず“ウリエラ”は固いですね……」
背の高いくせ毛のあるショートカットの天使がたしなめると、銀髪の天使は肩を竦めた。
「……いいから早くする」
ボクよりも背の低い、オカッパ頭の幼い天使が冷たく言い放つと、二人の天使はバツの悪そうな表情でボクを囲むようにして立った。
すると。
「邪神ベル=ゼブル」
一番先にこの部屋に乗り込んできた、ハニーブロンドの髪をポニーテールにまとめた天使は、ボクの傍に来てそっと耳打ちする。
「……主からの言伝です。『これから永遠に、仄暗い穴の中で暮らすのだ。最も若く、最も愚かな神として』」
「っ!? ど、どういうこと!? ボクはあくまでも、人族達の信仰心を集めるために悪役を演じただけじゃないの!?」
天使の言葉に、ボクは思わず声を荒げた。
だって……だって、これは全部演技でしかなくて、ボクは封印されるフリだって……!
「アハハハハ! 主の言う通り、本当に愚かですね! そのような言葉を鵜呑みにするなんて!」
「フフフ……本当に」
「クク……まあ、このような若い神ではやむを得んか」
「……バカ」
この石室に乗り込んできた四人の天使が、口の端を吊り上げながら嘲笑う。
「……たかが天使族の分際で、あまりボクを舐めないでよね」
カチン、ときたボクは、目の前に手をかざして権能を発動させようと……っ!?
「ど、どうして!?」
「ああ、そうそう。一応言っておきますが、あなたの『七つの権能』は使えませんよ? なにせこの石室……いえ、この建物全てが、あなたを封じるために主が御創りになられたのですから」
そう告げられ、ボクはここにきてようやく悟る。
ああ……ボクは、テトラグ=ラマトンに騙されたんだ……。
「アハハハハ! いい! あなたの今の表情、実に素晴らしいですよ! 神であっても、絶望の表情を浮かべるのですね!」
鼻の先が触れそうになるほどグイ、と顔を近付け、目の前の天使は醜悪な笑みを浮かべた。
あはは……こんなのが神の御使いだなんて、人族達が知ったらガッカリするだろうなあ……。
「フフ……本当に、ズタズタに切り裂いてやりたいほどぞくぞくする表情ね……」
「……だったらすれば? もう、ボクに価値なんて何もないでしょ?」
自暴自棄になったボクは、吐き捨てるようにそう告げる。
だけど。
「んー……そうしたいのはやまやまなのですが、永遠に封印をしろというのが、主の命令ですので……」
心底残念そうに、銀髪の天使が肩を落とした。
「さあ……無駄話もこれまで。では『七つの権能』をあなたから奪います」
「っ!? ア、アア……アアアアアアアアアアアアアアアアッッッ!?」
四人の天使の手によって、『七つの権能』がボクの魂から無理やり引きずり出されると、そのあまりの苦しみに絶叫した。
「ああ……! いい響き……!」
恍惚の表情を浮かべる天使達。
そして。
「では、永遠にごきげんよう」
「…………………………」
遥か地の底へとボクを投げ捨てると、天使達は微笑みながら永遠に開くことのない蓋を閉じた。
◇
それからボクは、この穴から抜け出すためにありとあらゆることを試した。
天使達に……主神テトラグ=ラマトンに復讐するために。
だけど、やはり主神が創っただけあって、どうやっても抜け出す方法が見いだせない。
なにより、『七つの権能』を奪われてしまったことが一番大きい。
それさえあれば、たとえアイツが創ったものだったとしても、簡単に抜け出してやったのに……!
悔しさから、ボクはガリガリ、と石の壁をひっかくと、その全てが砂に変わる。
でも、壁は瞬く間に元通りに修復されてしまった。
破壊も駄目。飛んで一番上まで行こうにも途中の結界に阻まれる。
それでも諦めなかったボクは、残された神としての力を使って、三百年かけてかろうじて地上とボクのいるこの地の底を繋ぐためのゲートを、あの石室に創り出すことができた。
でも……やっぱりボクは、そのゲートを通り抜けることはできなかった。
そんなもがきを五百年も続け……ボクは、この地の底から抜け出せないのだと悟った。
ひょっとしたら、ボクの創ったゲートを通じて地上から誰か現れて、ボクの封印を解いてくれる者が現れるかもしれない……って。
「あはは……そんなことない、よね……」
だって本当にそうだとしたら、この二百年の間に誰かが来てもおかしくないし……。
それに、ボクは人族達にとって邪神なんだ。そんな神様、誰が助けようだなんて思うのさ……。
ボクは全てを諦め、それから先の五百年をただ無為に過ごした。
立つことをやめ、話すことをやめ、見ることをやめ、聞くことをやめ……そして、考えることをやめた。
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