眷属の力
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「……いない、な」
魔法陣のある石室へと戻ってきた俺は、すぐに周囲を確認するが、三体のゴーレムの姿は見当たらなかった。
「これは、諦めてくれた、ってことでいいのか……?」
あれほど執拗に追いかけてきたが、ベルのいる地の底へ転移したことで俺という存在がゴーレムの中で抹消されたのかもしれない……って。
「さすがに都合がよすぎるか……」
とはいえ、ゴーレムがここにいないのは俺にとって好都合。
今のうちにこの遺跡から地上に出ないと。
だけど。
「……次にベルに逢いに来る時にも、ゴーレムはいるんだよなあ……」
そう呟き、俺は思わず右手で顔を覆う。
ベルに逢うためには、ゴーレムという敵を毎回かいくぐらないといけない。ハッキリ言って、ただの[斥候]でしかない俺には荷が重い。
「そういえば……ベルの奴、変なことを言ってやがったな……」
そう……この石室に戻る直前、ベルは確かに言った。
『だけど、大丈夫だよ』
『あは、ボクの言葉を信じて』
……他の誰でもない、あの邪神の言葉なんだ。間違いなく信ぴょう性がある……と思いたい。
「まあいい……早くここから出るぞ」
俺は石室の入口から通路を覗き込むが、やはりゴーレムの姿はなかった。
このまま出口まで真っ直ぐ行けば……っ!?
――ぐるん。
聞き覚えのある音が通路に響く。
これは……ゴーレムの眼球が、獲物を捕捉した音。
俺はおそるおそる後ろを振り返ると……そこには、あの落とし穴に嵌まっていたゴーレムが、こちらを見ていた。
――ずうん……ずうん……。
「っ!? 来やがった!」
俺は落とし穴のゴーレムを背に、出口へ向かって走る。
だがあのゴーレム二体は、まるでその出口までの通路を塞ぐかのように現れた。
「クッ!」
それを見て俺はすぐさま反転し、またあの石室へと戻ろうとするが。
「っ!? チクショウ! あの石室にも入らせないつもりか!」
残る一体のゴーレムが、いつの間にか石室の前で仁王立ちしていた。
もう、八方塞がりだ……。
そして。
「ああ……」
迫ってくるゴーレムの腕。
この俺を、ぐちゃぐちゃに叩き潰すつもりなのだろう。
「ベル……すまん……」
そう呟き、俺は全てを諦めて目を閉じた。
その時。
――ドクン。
「っ!?」
突然、胸が激しく脈打つ。
俺は思わず胸を押さえるが、不思議と痛みや苦しさは感じられない。
それより……一体いつになったらゴーレムの腕は俺をとらえるんだ……?
一向にやってこないゴーレムの一撃に、俺はおそるおそる目を開けると。
「え……?」
ゴーレムの腕は、俺の目と鼻の先に確かにある。
もう一体のゴーレムも追撃をしているし、振り返れば背後のゴーレムも同じく腕を振り上げていた。
なのに、そこで止まったまま……いや、ほんの僅かではあるが、動いてはいる……のか?
今のこの状況が理解できず、俺は混乱する。
念のため自分の拳を握ったり開いたりするが、正常に動くし普段と変わったところは何もない。
じゃあ……俺以外の者だけが、時が止まって……いや、時が遅くなっているということなのか……?
――それならっ!
俺は刃渡り五十センチの片刃の剣を構えると。
「おおおおおおおおおおおおおおおおおッッッ!」
雄叫びと共に、ゴーレムの突き出した腕を斬りつけながらその額……『emeth』と刻まれた文字のうち、『e』の字を剣で抉った。
「次ッッッ!」
先頭のゴーレムに飛び乗って後ろに控えるゴーレムも、狙い澄まして『e』の文字を剣の切っ先で縦に刻む。
そして。
「これで……最後だあああああああああッッッ!」
ゴーレムを思い切り蹴飛ばして最後の一体へと飛びかかると。
――ずぐり。
額の『e』の文字に剣を深々と突き立てた。
その瞬間
『…………………………ッ!?』
「おわっ!?」
突然、時が正常に動き出し、石でできていたゴーレムの身体が一瞬にして砂へと変わった。
それは、他の二体も。
「や、やったか……?」
もんどり打って倒れていた俺は、身体を起こして床に散らばる大量の砂をつかむ。
「は、はは……おとぎ話の通り、だな……」
幼い頃に読んだ、神が創ったゴーレムのおとぎ話。
人族と仲良く暮らしていたゴーレムが、子どものイタズラで『emeth』の『e』の文字に落書きをした瞬間、砂に変わってしまい、永遠の別れを迎えてしまうという話。
まさか、あれが本当のことだとは思いもよらなかった……。
「……そのおかげで、俺はなんとか生き延びたんだがな」
そう呟き、俺は膝を立てて立ち上がろうとすると。
「っ!?」
全身に激痛が走り、俺は再度床に身体を預けた。
「こ、これ……は……っ!」
この懐かしい痛みに、俺は覚えがある。
「まさか……筋肉痛、かよ……」
おそらく、あの周囲の時が遅くなった際、俺だけが普通に動いたことに対する反動だろう。
ひょっとしたら、周りからは俺の姿が消えたり、残像が見えていたりするほど高速に動いているように感じるかもしれない……。
「そ、そりゃ、そんな無茶をしたんだから、身体にガタがきても仕方ない、か……」
この状況に、妙に納得する俺。
そして、そもそもこんな真似ができた原因についても思い当たるふしがある。
「はは……だからベルは、自信満々であんなこと言いやがったんだな……」
ベルが俺に与えてくれた、この眷属としての力は破格だ。
とはいえ、その後にこんな反動がくるってんなら、最初に教えてくれよ……。
「……まあ、邪神に筋肉痛なんてモンは存在しないだろうから、分からないだろうがな」
床に顔をこすりつけながら、呑気にそんなことを考えていた俺は、這いつくばりながら出口を目指した。
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