邪神の眷属として
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「そうか……なら、その封印はここ以外からなら解けるんだな?」
「そ、それは……地上から封印が施されてるみたいだから……って、ま、まさか!?」
「はは……地上からだったら、俺がその封印を解くこともできるんだろ?」
ガバッと顔を上げたベル=ゼブルに、俺は口の端を持ち上げてみせた。
「だ、だけど! あの主神テトラグ=ラマトンが施した封印なんだ! 絶対に封印を解かれないための罠だって仕掛けてあるだろうし、配下の天使族も守護してるはずだよ! そんなの、ただの人族でしかない君じゃ、簡単に死んじゃうよ!」
ベル=ゼブルはその真紅の瞳で俺を見つめる。
「はは……俺はこう見えて、街でも一番の[斥候]だっていう自負がある。それに君がいるこの遺跡も、罠も仕掛けも全て解除して、俺はここにいるんだぞ?」
「あ……」
そう、彼女を封印しているものだって、邪神本人を封印しているこの場所よりも難易度が高いとは思えない。
なら……俺にも封印のある場所までたどり着くことができるはずだ。
「……問題は、その封印の場所までたどり着いたとして、どうやって解けばいいのかってことだが……もちろん、やり方は教えてくれるんだろ?」
「そ、それは……だけど、それでもキミが危険なことには変わりない、し……」
どうやら、まだ俺が封印を解くことに躊躇しているみたいだ。
はは……こんな自分じゃなくて人のことばかり心配するような少女、どう見たって邪神から一番遠いだろ。
「いいや、やらせてくれ。俺は君の封印を解いてあげたいんだ。この俺自身のためにも」
「…………………………」
俺はオーランドの裏切りのせいで、他のかつての仲間達から裏切者のそしりを受けた。
だが、彼女の封印を解いていくうちに、ひょっとしたら俺はみんなの評価を覆すほどの成果を上げることができるかもしれない。
……いや、違う。
俺はただ、この干し肉やチーズを美味そうに食べる、優しい邪神をこんな深くて暗い穴の底から救い出してやりたいんだ。
だから。
「俺は、君の封印を解いてここから連れ出す。それに、地上には干し肉やチーズよりも、もっと美味いものが山ほどあるんだぞ?」
少しおどけながら、俺は彼女にそう告げた。
「ほ、本当に!? 干し肉とチーズだってあんなに美味しかったのに、もっと美味しい食べ物があるの!?」
「ああ」
真紅の瞳をキラキラさせながら尋ねるベル=ゼブルに、俺は頷く。
「うわあああ……! ボク、他の美味しいものを食べてみたい……!」
「はは、だろ? だから……俺が必ず封印を解いて、その時は俺と一緒に美味いものを食べ歩こうぜ」
「うん……うん……!」
ベル=ゼブルはぽろぽろと大粒の涙を零しながら、だけど、女神に相応しい最高の笑顔を見せた。
◇
「それじゃ、いくよ……『人の子、“ディートリヒ”よ。我が眷属となりて、その力を示さん』」
ベル=ゼブルが俺の胸に手をかざして呪文のようなものを唱えた。
「うおお……なんだか胸が熱くなってきたぞ……!」
「お願い、静かにして」
彼女に叱られてしまったので、俺は大人しくジッとする。
「ふう……ん、終わったよ」
俺は身体を動かして確かめてみるが……うん、している最中に胸が熱くなった程度で、特に変化はなさそうだな。
「これでキミの身体の中に “鍵”ができたから、『封印の石板』に近づけば反応して位置が分かるし、その石板に手をかざせば封印が解けるよ」
「そうか……原理は分からないが、すごいんだろうな」
「あはは、そうかもね」
俺がそんな感想を言うと、ベル=ゼブルは楽しそうに笑った。
ああ……本当の彼女は、こんなにも笑顔が似合う少女なんだな……。
「うん……それじゃ、そろそろキミを地上に還すね……」
するとベル=ゼブルは、少し寂しそうな表情を浮かべながらそう告げる。
封印されてから俺がここに来るまでの一千年もの間、暗闇の中でずっと独りぼっちだったんだ……そんなの、寂しいに決まっている。
「……封印を解くのもだが、美味い食い物を見つけたらすぐにここに持ってくるよ」
「! ほ、本当に!」
「ああ」
「うわあああ……嬉しいなあ……干し肉とチーズだけじゃなくて、他の美味しいものも持って来てくれるなんて……! じゃ、じゃあ、またすぐに逢えるね!」
はは……たったそれだけのことで、ここまで喜んでくれるなんて……提案してよかった……って。
「そ、そういえば!?」
「ふあ!? ど、どうしたの!?」
俺が大声を上げたため、ベル=ゼブルが驚いた。
「い、いや、あの石室にはゴーレムがいるんだよ! しかも三体も!」
「ゴーレム? ……って、さっき言ってた?」
「ああ!」
俺はここに来た経緯を簡単に説明した。
紋様のある壁の仕掛けを解除した瞬間、途中で発見したゴーレムに追い詰められ、石室の魔法陣の上で絶望していたら突然暗闇の中に落とされて気を失い、目が覚めたらこの穴の地面に寝そべっていたことを。
「ふうん……多分、テトラグ=ラマトンの眷属である天使族が、侵入者を防ぐために用意したものだとは思うけど……」
「そ、そうなのか……」
ま、まあ、ここは邪神を封印している場所なんだ。普通に考えれば、侵入者を排除するためのゴーレムを配置していて当然か。
「だけど、大丈夫だよ」
「だ、大丈夫、って……」
ニコリ、と微笑みながらそう告げるベル=ゼブルに、俺は思わず呆けてしまった。
「あは、ボクの言葉を信じて」
「お、おお……」
じゃ、邪神が自信満々に言うんだ、大丈夫なんだろう……多分……。
「それと、今度からは“絶望の涙”を流さなくても、封印を解くのと同じ要領で石室の魔法陣に手をかざせば、いつでもここへ来れるよ」
「ぜ、“絶望の涙”!?」
「うん……それが、あの魔法陣の発動条件だからね……」
あー……確かに俺は、ゴーレムに追い詰められた時、無念の涙を流したな……。
まさか、それが発動条件だったなんて……。
「そういうわけだから安心して! じゃあ今度こそ、キミを地上に還すね!」
俺がまたここに来る約束をしたからか、彼女からさっきまでの寂しそうな様子は消え失せ、今は笑顔を見せていた。
「ああ、頼む」
「うん! そ、それじゃ……ま、待ってるね! “ディート……「“ディー”でいい」……うん、その……“ディー”!」
「またな、“ベル”」
最後に照れくさそうに、だけど、嬉しそうに口元を緩めるベルの顔を最後に、俺は一瞬であの魔法陣のある部屋へと戻った。
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