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公女との調査

ご覧いただき、ありがとうございます!

「……それにしても」


 大通りに来た俺と公女様だったが、俺にはどうしても気になることがある。


 それは。


「なあ……アンタ、本当に第一公女様なのか……?」

「む、失礼な。ウラヴィア公国において、私を差し置いて公女を名乗れる者は一人たりともいないぞ」


 俺の言葉が気に入らなかったのか、公女様は眉根を寄せて顔を背けてしまった。

 だが、だったらこんな大勢の人が行き交いしているのに、なんで誰一人として公女様を気に留めないんだよ……。


「……ディートリヒ。君、ひょっとして失礼なことを考えていないか?」

「い、いや……?」


 じろり、とこちらを見やる公女様の視線を避けるように、俺は明後日の方角へと顔を向けた。


「……まあいい。それより、あの路地は怪しいと思わないか?」


 公女様が指差す先を見ると……確かに、人を(さら)うにはもってこいかもしれないな……。


「よし、行ってみよう」

「ああ」


 俺達はその路地へと入ってみるが……。


「……どうやら行き止まりみたいだな」


 公女様がポツリ、と呟く。

 その一方で、俺の[斥候]としての勘が、この路地は怪しいと告げている。


「む、ディートリヒ?」

「…………………………」


 俺は僅かな違いも見逃さないよう、四つん()いになって地面をくまなく調べる。


 すると。


「……へえ」


 一か所だけ、人の足跡が密集している箇所があった。

 こういうところは、人が出入りしてできるモンだ。


「つまり……」


 行き止まりと思われた壁をコン、コン、と叩いてみると。


「……やっぱりだ」


 壁の一部に仕掛けがあり、そこを押し込んだ。


「っ! ……隠し扉か」

「どうやらそうみたいだな」


 もうこれで間違いない。

 行方不明の娘は、何者かによってここから(さら)われたんだろう。


「それで……どうする? 一旦ギルドに戻って、態勢を立て直すか?」

「いや……時間が惜しい。このまま行こう」

「だけど……」


 俺は公女様の背中にあるスコーピオンを見やる。

 平地といった開けている場所ならともかく、屋内となるとそんなデカブツ、役に立たない。


 とにかく、このまま公女様を危険な場所へ同行させて大丈夫なモンだろうか……。


「む……ふふ、この私を見くびるな。こう見えて、近接戦闘も得意だぞ」


 そう言うと、スコーピオンの一部を取り外して構えてみせた……って、まさか弓の部分がショーテルになるのかよ……。


「ハア……言っとくが、俺は責任持てないからな」

「もちろんそれで構わないとも」


 カラカラと笑いながらそう告げる公女様に俺は深い溜息を吐くと、扉の向こうへと足を踏み入れた。


 ◇


「なるほど……こうやって人の受け渡しをしていたのだな」


 隠し扉から進んだ先にあった地下室の牢屋を見て、公女様が呟いた。

 今は誰もいないが、人を(さら)ったらこの中に入れるのだろう……って。


「何をしているんだ?」

「ん? ここに例の娘の指の紋様がないか、調べてみるんだ。こうやってな」


 そう言うと、公女様がポーチから取り出した粉を鉄格子に()いた。

 そして、柔らかい布のようなもので丁寧に粉を払っていくと。


「……あったよ」

「っ!?」


 はは……まさか、こうもアッサリと手掛かりが見つかるなんてな。


「なら……ここに誰か現れるまで待つか?」

「うむ。とはいえ、この中にいたんじゃすぐに見つかってしまう。大通りからこの路地に入っていくものの後をつけ、一網打尽にするとしようじゃないか」

「分かった」


 俺達は地下室から出ると、大通りに戻って路地を見つめる。


「ふむ……おい」

「はっ」

「っ!?」


 公女様が声をかけた瞬間、俺達の背後に人が現れた。


「今のうちに、公国騎士団がすぐに出動できるよう、騎士団長に指示しておけ」

「はっ」


 短く返事すると、すぐに人が去っていく。


「今のは……?」

「ふふ、公国の“影”だ。私とて、ディートリヒがいるとはいえ単独行動などという軽率な真似はしない」

「なるほど、ね……」


 はは……この公女様、意外と食えないな。


「それよりも、お腹が空いたとは思わないか?」

「あー……そういえば……」


 結局、ギルドからここまで何も食ってなかったな……。


「なら、ちょっと買い込んでくる」

「ああ」


 俺は路地の見張りを公女様に任せ、大通りの屋台を物色する。

 お、ソーセージと野菜をパンではさんだものか。


「オヤジ、これを二つくれ」

「あいよ!」


 焼きたてのソーセージをパンにはさんでもらい、俺は金を払って受け取る。


「ん? 甘くて美味そうな匂いが……」

「はは、そりゃアレだよ」


 屋台のオヤジが指差した先に、鉄の串に刺さったパンのようなものが売られている屋台があった。


「ハハハ! アンタ、よそから来ただろう? アレは“トゥルデルニク”っていうパン菓子だよ。美味いんだぜ?」

「そうか、ありがとう」


 俺は屋台のオヤジと別れ、その“トゥルデルニク”とやらを売っている屋台へと足を運んだ。


「すまないが、それを二つくれ」

「ハーイ!」


 屋台のおばちゃんが焼きたてを紙に二つ包み、手渡してくれた。


「はいよ!」

「ああ……」


 代金と引き換えに受け取ると、俺は急いで公女様の元へと戻った。

 やはりこういったものは、熱々のうちに食べるべきだからな。


「ふふ……楽しそうだな」

「う……し、仕方ないだろう……俺はこう見えて、食べるのが趣味なんだよ……」


 俺は顔をしかめながら、ソーセージをはさんだパンとトゥルデルニクを公女様に手渡した。


 そして。


「! う、美味い!」


 ソーセージをはさんだパンにかじりつくと想像通り肉汁が広がるんだが、リトミルの街で食べた時のように茹でているものじゃなくて焼いてあるから、より香ばしくなっているな!


 俺は夢中になって一気に食べ切り、今度はトゥルデルニクを頬張った。ああ……甘くて優しい味だ。


「ふふ……本当に美味しそうに食べるんだな」

「……まあ、否定はしない」


 だけど……はは、これもベルの奴に食わせてやりたいな……。


「……そんな時に悪いが」

「ああ……」


 見やると、男が数人、路地へと入って行った。

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