行方不明者の謎
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「へへ……見かけねえ面だな」
強面の[重戦士]、少し頼りなさそうな[剣士]、そして化粧が濃い[魔法使い]の三人組が声をかけてきた。
……俺は、この組み合わせのパーティーに縁でもあるんだろうか。
だが、リトミルの街でも見た目とは反対に、ヤン達は本当にお人好しな冒険者だった。この三人も、同じように……ってわけでもなさそうだな。
「ハッ! 余所者のくせに、やたらデケエ態度だな!」
「キャハハ! 田舎から出てきたばっかりなんだ、許してやんなよ!」
デカい態度も何も、俺はただ掲示板を眺めてただけなんだが……。
まあいい、いちいち相手にしてても面倒だ。どれか適当にクエストを取って、さっさとここから出て……「ふむ、そのクエストを受けるのかね」……って。
「……公女様、こんなところで何してるんですかね?」
「ん? ここは私のギルドなんだ。別にどこにいても不思議じゃないだろう?」
口の端を持ち上げながらそう言われてしまうと、俺としても何も言い返せない。
だが、ギルドマスター兼公女様なら、普通はそうやってギルド内をウロチョロしないと思うが。
「ん? ところで君達、私のディートリヒに何か用か?」
「「「いいい、いえいえ!」」」
三人組の冒険者は、必死で顔と手を振りながらどこかへ去って行った。
いや、あの連中は何しに絡んできたんだよ……。
「ふむ……それで、その人探しのクエスト、君が受けるのか?」
「ああー……」
適当に取っただけだったから、詳しく内容を読んでなかったな……。
「ふふ、そのクエストはプラグの平民が依頼をしたものだから、報酬は安いぞ?」
「……まあ、取っちまったからやりますよ」
クスクスと笑う公女様に、俺は肩を竦める。
できれば、転移魔法陣のスクロールを買うための資金を増やしたいところだが……まあ、これくらいは……。
「ふふ! ますます気に入った! よし、そのクエストにこの私も付き合おうじゃないか!」
「……は?」
オイオイ……この公女様、何を言い出すんだよ……。
「ふふ……こう見えて、この私はギルドマスターでこの国の第一公女で、この国一番の[機巧師]なんだぞ?」
「へえー……」
「む、信じてないな?」
俺の生返事が気に入らなかったのか、公女様は口を尖らせた。
だが……[機巧師]とは珍しいな。
[機巧師]は、自らが製作した武器を用いて戦う職業だ。中には一秒間に十数発も放つ弓矢であったりする武器なんかもあるらしいが……。
「まあ、私の武器を見たら君も驚いて納得するに違いない」
「はあ……」
「むむ! ちょっと待っていろ!」
そう言って公女様は執務室へと戻って……………………えええええ!?
「ふふ、どうだ? すごいだろう?」
なんと、公女様は自分の背丈と同じくらいの長さの巨大なクロスボウ……いや、あれはスコーピオンか!?
「と、というか、そんなもの操れるんですか!?」
「ふふ、もちろんだとも」
そう言うと、公女様はスコーピオンを片手で軽々と振り回した。
ど、どんな怪力だよ……。
「そういうことで、早速人探しに行くぞ!」
「ちょ、ちょっと!?」
俺は後ろ襟をつかまれ、引きずられるようにギルドを出た。
◇
「そ、それで……うちの娘が、突然いなくなって……!」
そう言うと、依頼主である行方不明者の父親が泣き崩れた。
まずは事情を聞くということで依頼主に会いに来たんだが……話を聞く限り、ほとんど手掛かりがないぞ……。
「ふむ……それで、その行方不明となった娘のものはあったりするのか?」
「は、はい……」
そう言って、父親は娘が使っていたという食器類や衣服などを持って来た。
「ふふ、これだけあれば充分だよ」
「何か分かるんですか?」
「まあ見ていたまえ」
公女様は娘が使っていたという食器を手に取ると、ポーチの中からビンを取り出し、中に入っている粉を振りかけた。
「……ええと、それは?」
「これは、行方不明になった娘の指の紋様を採取しているんだ」
「指の紋様!?」
俺が驚きの声を上げると、公女様が嬉しそうに頷いた。
公女様が言うには、人族には指の先には誰しも紋様があり、それは全員異なっているらしい。
「それで、この粉でその紋様を採取できれば、同じ紋様のある場所から行方をたどる手掛かりになるんだ」
「へえー……」
いや、そんな探索方法があるだなんて思いもよらなかったな……。
「うむ……無事に紋様が採取できたぞ」
「そ、それで……娘は見つかりますでしょうか……」
「それはまだハッキリとは答えられないが……私達も全力を尽くそう」
おずおずと尋ねる父親に、公女様はそう言って頷いた。
「よ、よろしくお願いします!」
深々と頭を下げる父親に見送られ、俺達は行方不明者の家を後にした。
「それで……その紋様を採取したのは分かったが、この後どうするん……ですか?」
俺は思わず敬語を忘れそうになるのを堪え、公女様に尋ねた。
「ふふ、敬語なぞ使わなくても構わないと言っているだろう。それで、行方不明となった娘が最後にいた場所は聞いたな?」
「ええ……」
あの父親曰く、行方不明の娘が最後に目撃されたのは大通りの市場だということだった。
だが、昼夜問わず人通りの多いそんな場所で、簡単に人が行方不明になったりするんだろうか……。
「ディートリヒは、大通りでは大勢の目があるから行方不明などあり得ない、と考えているな?」
「……違うのか?」
もう面倒くさくなって敬語を使うのを諦めた俺は、いつもの口調で公女様に聞き返した。
「ああ。人通りが多いと言うことは、逆に言えば人が一人いなくなったところで、誰も気に留めないということだからな」
「あ……!」
そうか……人が多いことが、かえって人の印象に残らなくなってしまうこともあるのか……。
「だが、行方不明の娘のこれまでの生活や行動から考えても、自分からいなくなったとは考えにくい。となれば、誰かに攫われたと考えるのが妥当だろう」
「……一体誰が、ただの街の娘なんかを攫うなんて真似を……」
「さあな。このプラグであり得ないとは思うが、奴隷商人の可能性は否定できないな」
奴隷商人、か……。
今では多くの国で奴隷が禁止されているが、一部では非合法に奴隷が売買されていると聞く。
行方不明の娘も、そんな連中に攫われて……って。
「ちょっと待て。もし奴隷商人の仕業だというなら、ギルドの掲示板にある人探しの全てが奴隷商人の可能性が出てくる。さすがにあの人数を奴隷商人が攫ったとは考えにくいぞ」
「ふふ……私はあくまで可能性の話をしただけだ。ただ、この街で起こっている一連の行方不明の状況を考えると、私は同一犯によるものだと踏んではいるがな」
少しくだけた様子だった公女様が、真剣な表情でそう告げた。
同一犯……だとすると、一体何の目的で……。
「とりあえず、まずは大通りに向かおう」
俺達は頷き合うと、足早に大通りへと向かった。
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