ギルドマスターと第一公女
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「あああああ!? お、お待ちください!?」
さっき不愛想に応対した受付嬢が、焦った表情で追いかけてきた。
「……何か用か?」
先程の意趣返しとばかりに、俺はぶっきらぼうにそう告げると。
「そ、その! ギルドマスターが是非ともあなたにお会いしたいと!」
「ギルドマスターが?」
ふむ……俺を呼び止めたということは、あのミロク村での一件の話を詳しく聞きたい、ということか。
先程の態度といい、この受付嬢は少々気に食わないが、例の天使族が絡んでいる可能性があることを考えると、ここで俺が我を通している場合じゃないな。
「分かった。ギルドマスターに会おう」
「! ど、どうぞこちらへ!」
受付嬢に案内され、ギルドの一番奥にあるギルドマスターの部屋へと通されると。
「ふふ……よく来てくれた」
どうやら、ここプラグのギルドマスターは女性のようだ。
腰まで伸ばした銀色の髪に、眼鏡越しに覗くサファイアのように青く輝く瞳。
端正な顔立ちと、薄い唇に淡いルージュを引いていた。
背の高さは俺よりほんの少し低い程度だが、その胸はかなり主張している。そうだな……トゥルンの街のギルド受付嬢、ミアに匹敵するくらいか。
「私がここのギルドマスターを務めている、ブラヴィア公国第一公女の“エレオノーラ”だ」
「ああ……俺は“ディートリヒ”、冒険者だ…………………………ちょっと待て」
今、第一公女って言わなかったか……?
「ん? ……ああ、ひょっとして、この私の美しさに見惚れてしまったか? だが残念だ……この私は、身も心も研究にこの身を捧げているのでな……」
「いや、そうじゃなくて」
眉根を寄せながらかぶりを振るギルドマスターに、思わず突っ込んでしまう。
「ア、アンタ……この国の公女様、なのか……?」
「ああ、ソッチか」
なるほどとばかりに、目の前のギルドマスターはポン、と手を叩いた。
「その通り、私はこの国の第一公女でもある。といっても、今はこのギルドでの研究に忙しいから、そんな肩書などこの私には無用の長物だがな」
「いや、軽々しく放棄するなよ!? しかもギルドマスターだったら研究じゃなくて仕事しろよ!?」
……リトミルの街のギルドマスターは、ここのギルドマスターは気難しいって言ってたが、これは気難しいとかそんな部類じゃないぞ……。
「そ、それで、俺に会いたいってのは……」
「ああ、そうだった。リトミルのギルドマスターからは色々と話を聞いていてな。その中で、くれぐれも君のことをよろしく頼むと書いてあったよ」
「そ、そう……ですか……」
「ん? 私が第一公女だからと、別に敬語を使う必要はないぞ。それこそ時間の無駄だ」
目の前の公女様はそう言うが、いくら俺でも一応は弁えているぞ。
といっても、邪神には一切敬語を使ってないがな。
「まあいい。それで早速本題だが……例のトロールとゴブリンに施されていた刻印、今も調査を進めてはいるが、手掛かりが一切ないんだ……」
そう言って、公女様は肩を落とす。
ベルから聞いた話では、あの刻印は天使族が使用するものらしいが、その効果までは込められた魔力を見ないと分からないんだったな……。
「それに、君が見たというトロールの人族との繁殖行為……これも、宮殿にある文献を調べてみたが、そんな記述は一切見られなかった……だが」
公女様が顔を上げ、俺を見つめた。
「刻印とトロール達の異常行動……それには必ず関連性があるとみている」
「…………………………」
「ふふ……誰がそんな真似をしたのかは分からないが、この私が必ず暴いてみせる」
胸の前で両の拳をグッと握り、公女様は不敵な笑みを浮かべた。
「だから、現場の第一発見者であり当事者でもある君に、是非とも協力してほしいのだが……」
「……ああ。俺もこの件については、真相を知りたいと考えてい……ます。そして、あんな真似をした連中を叩き潰してやりたいとも」
そう……ベルを一千年も封印した実行犯で、ミロク村のハナを壊した原因である天使族は、この俺が必ず……!
「ふふ……君、いいな」
「え……?」
突然そんなことを告げられ、俺は思わず呆けた声を漏らした。
「いや、第一印象としては飄々として斜に構えているようにも見えたんだが……なかなかどうして、情に厚いじゃないか」
公女様は「手紙にあった通りだな」との言葉を付け加え、口の端を持ち上げた。
「できる限り刻印について調べてみるが、まだまだ時間がかかりそうだ。それまで君には悪いが、このプラグに滞在してくれたまえ。なに、君は客人としてこの私が全力でもてなそうじゃないか」
「いや、そういうのはいいから」
「そうなのか? せっかくこのプラガで贅の限りを尽くそうと思ったんだが……」
俺があっさり断ると、何故か公女様は残念そうな表情を浮かべた。この人は一体何をしたいんだろうか……。
「まあ、いずれにせよ何か分かるまで、ここでクエストでもこなしながらのんびりと過ごすさ」
そう言うと、俺はギルドマスター兼公女様の部屋から出た。
◇
「ふむ……」
その後、俺は掲示板をしげしげと眺めているんだが……。
「やたらと人探しのクエストが多いな……」
リトミルの街ではゴブリン討伐ばかりだったが、ここでは人探し……というか、普通に考えたらゴブリンが攫ったと見て取れるんだが……。
その時。
「へへ……見かけねえ面だな」
強面の[重戦士]、少し頼りなさそうな[剣士]、そして化粧が濃い[魔法使い]の三人組が声をかけてきた。
……俺は、この組み合わせのパーティーに縁でもあるんだろうか。
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