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一つ目の封印

ご覧いただき、ありがとうございます!

「やあ、よく眠れたかい?」


 次の日の朝、商会の前へとやって来ると、慌ただしく宮殿と教会に届ける荷物の整理をしているサシャを尻目に、トマシュがにこやかに声をかけてきた。


「ああ、おかげさまでな。それじゃ、俺も手伝うとするよ」

「よろしく頼むよ」


 トマシュの指示の下、俺も荷物の積み込み作業に精を出す。

 だが、意外と量が多いな……って。


「トマシュ、この荷物は?」


 大量の包帯や薬品が入った木箱を見て、俺は尋ねた。


「ああ、それは教会に届ける分だよ。ここの教会は、治療院も併設しているんだ」

「へえ……」


 教会が治療院を、ねえ……。

 まあ、治癒魔法は[僧侶]の専売特許なところもあるし、別に不思議ではないが……それにしても、量が多すぎる。

 このプラグの街の規模からみても、ここまで必要になるようなことはないはずだがな……。


「積み込みが終わったっす!」

「よし、じゃあ行こうか」


 トマシュと俺は御者席に、サシャは荷台に乗り込むと、ますは街の中央にある宮殿へと向かった。


 ◇


「……うむ、確かに」

「今後ともごひいきに」


 無事に納品も終わり、俺達は宮殿を出た。


「さあ、次は教会なんだけど……一応言っておくけど、司祭様(・・・)のお相手はこの私がするから」

「お、おう……」


 いや、俺はただの護衛でトマシュが教会と取引してるんだから当然だろうに。


「とにかく! それは忘れないように!」


 さらに念を押され、俺はその勢いにただ頷いていると。


「さあ、着いたよ」

「ここか……」


 全て白色で統一された、この首都プラグにおいて大公の宮殿の次に大きな建物。

 それが、テトラグ教プラグ支部の教会だ。


「トマシュ商会のものです。ご注文の品をお届けに参りました」

「おお……テトラグ神のご加護があらんことを……」


 教会から現れた神官の一人が、(うやうや)しく一礼する。

 ふむ……年齢的に、俺よりも少し上程度だから、おそらくは下っ端といったところか。


 (あご)にさすりながらそんなことを考えていると。


「全く……遅いではないか!」

「まあまあ……」


 顔を真っ赤にして怒鳴り散らす偉そうな小太りの神官と、それをなだめる神官がやって来た。


 だが、このなだめている神官……女性とは珍しいな……。

 黒く(つや)やかな長い髪に、金色に輝く瞳、整った鼻筋に柔らかそうな唇。なかなかお目にかかれないほどの美人である。


「これはこれは……“フィリプ”司教様、それに“ゾラ”司祭様」


 その二人の神官を見た瞬間、トマシュは深々と頭を下げた。


「フン! 貴様がすぐに用立てるからと任せたのだぞ! もっと早く持ってこんか!」

「た、大変失礼しました!」


 ウーン……トマシュもなかなか大変だなあ……。


「大体……「まあまあ司教様、あとはこの私が応対しますので……」……む、そうか。ゾラ司祭に感謝するんだな!」


 そう言うと、トマシュから何やら受け取って小太りの司教とやらは教会の中へと戻って行った。


「トマシュ殿、うちの司教様が申し訳ありません……」

「い、いいえいいえ! こちらこそいつも助けていただき、ありがとうございます!」


 すまなさそうに頭を下げる司祭に、顔を真っ赤にしたトマシュが恐縮している。


「ふむ……なあサシャ、トマシュのあの様子……ひょっとして、そういうことか(・・・・・・・)?」

「ハイっす! うちの旦那はゾラ様に夢中っす!」


 やはり、そういうことらしい。

 だけどまあ……さすがに神に仕える女性が相手じゃ、トマシュの恋は実らなさそうだな……。


「それで、そちらの方は……」


 俺に気づいたゾラという司祭が、おずおずと尋ねる。


「は、はい! このプラグまで護衛として雇った、冒険者のディートリヒ君です!」

「そうですか……司祭の“ゾラ”です」

「“ディートリヒ”だ」


 直立不動のトマシュの紹介を聞くと、ゾラ司祭がニコリ、と微笑みながら会釈した。


「ああディートリヒ君、こちらのゾラ司祭は治療院を運営されていて、無償で病人の治療をされている聖母のような御方なんだよ」

「ふふ……言い過ぎです。私は(しゅ)の教えに従い、自分にできることをしているだけですから……」


 トマシュの奴がやたらと持ち上げるモンだから、ゾラ司祭は苦笑している。


「それでは、医薬品をお受け取りしても……」

「は、はい! 重いですので、この私が……「では、ディートリヒさんにお願いしても?」」


 せっかくトマシュは名乗り出たが、どうやらゾラ司祭は俺をご指名らしい。

 封印について少しでも手掛かりが欲しいところなので、俺としても教会の中に入ることに否やはない。まあ、トマシュには悪いがな。


 俺は医薬品の入った木箱を担ぐと。


「さあ、行こうか」

「ふふ……どうぞこちらへ」

「ディ、ディートリヒ君、くれぐれも粗相のないようにね!」


 トマシュの心配する声を無視し、俺はゾラ司祭の後に続いて教会の中へと入る。


「ところで……その治療院というのは、教会の中にあるのか?」

「同じ敷地内ではありますが、建物は別です。ほら、あれが……」


 教会の窓から、小さな白い建物が見えた。

 あれが治療院らしい。


「ふむ……それなら、わざわざ教会の中に入る必要がなかったのでは……」

「ふふ、これが近道なんです」


 そう言って、ゾラ司祭はクスクスと笑う。

 なるほど……もちろん見た目もあるんだろうが、トマシュはゾラ司祭のこういうところに惚れたのか。


 その時。


 ――ドクン。


「っ!?」


 突然、胸が脈打つ。

 だが、俺は【刹那】を発動していないぞ!?


「? どうされました?」


 俺の様子に気づいたゾラ司祭が、心配そうな表情で尋ねる。


「い、いや……何でもない……」

「そうですか……どこか具合が悪いのでしたら、私が治療いたしますが……」

「心配ない、大丈夫だ」


 俺は断りを入れると、何か言いたそうではあるが、ゾラ司祭は治療院へと歩を進めた。


 だが……そうか。

 ここに(・・・)あるんだな(・・・・・)


 ――ベルの、“七つの封印”の一つが。

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