新たなる決起 ※エレナ視点
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■エレナ視点
「クソッ! どうなってるんだよ!」
ディーがトゥルンの街を出て行ってから一か月、私達はギルドから支給された地図を頼りに、“ホワイトウルフ”の討伐に来ていた。
何でも、依頼をした街の富豪がホワイトウルフの毛皮が欲しいらしい。
だけど、結果は散々。
この辺りに生息しているはずのホワイトウルフの姿はどこにもなく、現れるのはコボルトやゴブリンといった、弱い魔獣ばかり。
せめて賞金がかかっている魔獣でも現れてくれればいいんだけど……。
「なあ、みんな……やっぱり僕達には[斥候]か[盗賊]をパーティーに加える必要があるよ……」
ついさっきまで、このパーティーの名前の由来でもある“魔剣ドラグロア”を振り回しながら荒れ狂っていたオーランドが、微笑みさえ浮かべながらそんなことを言い出した。
「前にも言ったでしょ? 私は新しいメンバーを加える気はないの」
私は顔をしかめながらそう言うと、鼻を鳴らして顔を背けた。
そう……私達のパーティーに必要なのは“ディー”だけなの。
あの、パーティーみんなに気遣いができて優しく、[斥候]としてもトゥルンの街で一番の実力者。
たまに美食家を気取って蘊蓄を語るのは面倒だけど、ね。
そんなことを考えていたら、不機嫌だったことも忘れてクスリ、と笑ってしまった。
「ハア……ひょっとして、リエミとエマもそうなの?」
溜息を吐きながら、オーランドが二人に問いかける。
「当然だ。そもそも、ディーに劣るような者を加えても意味がない」
「…………………………知らない人を入れるのはイヤ」
ふふ……リエミとエマにまで明確に拒否されて、澄ましたオーランドの顔がますます醜くなってるし。
彼女達も私と同じく、ディーの復帰を待っていた。
まあ、ディーよりも人柄も実力も劣るような冒険者を加えても、私達にとってなんのメリットもないんだから当然よね。
「……言っておくけど、この“ドラグロア”のリーダーは僕なんだ。いい加減、ワガママを言うのはやめないか」
「ワガママ? より高みを目指すことの、何がワガママなの?」
低い声でそんなことを告げたオーランドに、私は逆にそう言い放った。
ていうか、パーティーに加えたがってる女冒険者がアンタとデキてること、みんな知ってるんだけど。
「……まあいい。この件は、今度ゆっくりと話をしよう」
私達と話をしても説得は難しいと判断したのか、オーランドはこれ以上この話題をすることはなかった。
「……ねえ」
「……うむ」
「…………………………うん」
私達三人は、オーランドに気づかれないように視線を合わせ、頷き合った。
◇
「「カンパーイ!」」
「…………………………カンパイ」
今日のクエストを終え、私達は酒場に来てエールをあおる。
「ふふ……だけど、一か月以上も前のあんな古い地図の情報なんて、当てになるわけがないわよね」
「全くだ。そもそもホワイトウルフは季節に合わせて住処を移動するのだぞ」
「…………………………バカ」
結局、今日のクエストでは一年前の記憶を頼りに狩り場を移動したおかげで、なんとかホワイトウルフの討伐に成功し、無事に毛皮を手に入れることができた。
「ハア……だって、私達がいつも使ってた地図って、全部ディーがギルドに納品してたヤツなのよ? ディーがいないんだから、地図が更新されるわけがないじゃない……」
「そうだな……それで、ディーはもう……?」
「…………………………」
リエミが瞳に悲しみを湛えて尋ねたので、私は無言で首を左右に振った。
一か月前、この街を出て行こうとしたディーを、私は街の入口で待ち構えた。
裏切者としてこの街から逃げ出すつもりだったら、私は罵倒でもなんでもして、発破をかけて奮起させるつもりだった。
たとえディーに憎まれてでも。
でも……あの時のディーの瞳には、覚悟と決意がみなぎっていた。
裏切者って呼ばれる前の、あの優しくて自信に満ちたディーの姿がそこにあった。
「…………………………だったら、もう意味ない」
「そうね……」
ミアの言葉に、私は静かに頷く。
私達三人は、ディーが裏切者の汚名を返上して、いつでも“ドラグロア”に帰ってこられるように、この七か月間、居場所を守り続けてきた。
でも、もう“ドラグロア”に戻らない以上、いつまでも守り続けている必要もない。
「だが……ふふ、ようやく肩の荷が下りるのかも、な」
「そうかもしれないわね」
七か月前のあの時、私達はオーランドの言葉を信じた。
その決め手となったのは、彼の言葉や罠による大怪我じゃなく、黄金の部屋の財宝を冒険者達に分配したから。
この七年間、オーランドは見た目や振る舞いこそ爽やかな好青年だが、実際は金にだらしなく女好きという二面性を持っていた。
そんな彼が、あの時はそんなことを言い出し、本当に冒険者全員に分配してまで訴えたのだから、その時ばかりは信じるしかなかったのだ。
……心の中ではディーのことを信頼してるし、彼の実力と人柄なら、またすぐに元通りになると思ってた。
でも、結局ディーは半年間も苦しんで、私はそんなアイツを助けてやれなくて……。
「……そんな顔をするな。心配しなくても、エレナの想いはディーに伝わっているとも」
「……うん」
去り際、ディーは確かに言ってくれた。
『エレナ……またな』
って。
「よし! それより、ミアからの返事はどうだった?」
「…………………………バッチリ」
気を取り直して尋ねると、エマがサムズアップした。
ディーが去ってからの一か月、私達は“ドラグロア”を抜けて新しいパーティーを設立することにした。
ディーが“ドラグロア”に戻ってこないことが分かった以上、私達もいつまでもパーティーに残る義理はないから。
今日は、そんな私達のこれから先の未来への、決起集会なのだ。
「それで、パーティーの名前は何にする?」
「そうね……“ドラグロア”も剣の名前から取ったから、今度もそうする?」
「…………………………ディーの剣、名前がない」
「「だよねー……」」
エマの正論の呟きに、私とリエミは肩を落とす。
「……とりあえず、あくまでも仮ってことで、“ディー”にしちゃう?」
「ふふ、それはいい!」
「…………………………賛成」
私達は笑顔で頷き合うと、私達のこれからとディーの旅の無事を祈って、もう一度乾杯した。
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