出逢い
ご覧いただき、ありがとうございます!
「ディートリヒ様、お気をつけて」
「ああ、行ってくる」
次の日の朝、俺はいつものようにギルドへと来てクエストの手続きを済ませると、受付から笑顔で見送るミアに短く返事した。
もちろん、昨日も行ったあの遺跡調査の続きだ。
市場で保存食として干し肉とチーズを買い込み、途中の小川で水筒に水を汲んだら、いよいよ遺跡へと乗り込む。
罠や仕掛けを解除したところを順調に進み、昨日到達した場所へとたどり着くと、俺は早速仕掛けの解除に取りかかる。
「あとは、この仕掛けを押し込んで、と……」
カチリ、という音が聞こえ、目の前の壁がゆっくりと開いていく。
すると。
「これは……?」
そこにあったのは、石でできた高さが三メートルほどの人型のもの。
それも、三体。
「……ひょっとして、これは“ゴーレム”か?」
古代には、魔力によって意思を持って動く、ゴーレムと呼ばれる人形があったと聞いたことがある。
この遺跡の古さから考えても、その可能性は否定できない。
「はは……! これは、ひょっとしたらすごい発見かもな!」
ゴーレムを発見したことで、俺の心が躍った。このままいけば、もっとすごいものが見つかるかもしれない。
俺は軽い足取りで、その先も罠や仕掛けを次々と解除していく。
そして……これまでとは明らかに異なり、丸い円を中心として稲妻が螺旋を描くような紋様が施された壁があった。
「この奥に、とんでもない財宝が……」
そう考えた俺は、壁を隅々まで確認すると、案の定仕掛けがあった。
「これを解除すれば……!」
壁の一部を押し込んだ瞬間、カチリ、という音と共に目の前の壁がゆっくりと開いていく。
「おお………………………………って、あれ?」
壁が開き、あの黄金の部屋以上の財宝を今か今かと待ち構えていた俺は、思わず呆けてしまった。
何故なら、そこあったのは財宝などではなく、どういう仕掛けかは分からないが明々と照らす燭台と、床の中央にある魔法陣のようなものがある石室が現れただけだったから。
「嘘だろ……あんなに命がけで罠も仕掛けも解除したのに……」
期待が大きかった分、俺は失望のあまり膝から崩れ落ちた。
その時。
――ずうん……ずうん……。
「な、なんだ!?」
ゆっくりと近づいてくる、地響きのような音が聞こえた。
俺は一旦その部屋から離れ、地響きのするほうへと向かうと、そこには……ここまで来る途中で見つけた、あの三体のゴーレムの姿があった。
(な、なんで……なんでゴーレムが突然動き出してるんだ!?)
俺は咄嗟に通路の陰に隠れて口を押さえ、必死で考えを巡らせる。
そもそもゴーレムってヤツは、魔力を込めてやらないと動かないんじゃないのか!?
色々原因を考えるが、導き出される結論は一つだけ。
(俺が……あの壁の仕掛けを解除した、から……?)
そう考えた瞬間。
――ぐるり。
「っ!? 見つかった!?」
いつの間にかゴーレムが通路から顔を覗かせ、怪しく動く眼球のようなもので俺を凝視していた。
「クソッ!」
俺はその場から一気に駆け出し、ゴーレムから逃げる。
だが、ゴーレムは思いもよらない速さで俺を追いかけてきていた。
「どうする!? このままじゃいずれ捕まるぞ!?」
ゴーレムから逃げながら、俺は必死で辺りを見回すが……っ! そ、そうだ!
通路の少し奥に見える、俺が一度解除した落とし穴の罠。
素早く罠を作動させるための仕掛けへと手をかけ、迫り来るゴーレムを凝視する。
「まだだ……まだ……!」
タイミングを見計らい、落とし穴のあるところに足を置いた、その時。
「今だ!」
俺は罠を作動させ、ゴーレムの足が落とし穴へと落ちた。
「よし! どうだ!」
ゴーレムが罠に嵌まった姿を見て、俺は思わず拳を握った。
はは! 後ろにいるゴーレムも、先頭の奴が邪魔でコッチに来れないだろ!
だが。
「っ!? ク、クソッ!」
落とし穴に落ちたゴーレムを、後ろの二体のゴーレムが破壊し、それを足場にして再び追いかけてきた。
俺は必死で逃げ、通路を曲がると。
「チクショウ! 挟み撃ちかよ!」
後ろから追いかけてくる二体のゴーレムとは別のゴーレムが、目の前から一体現れた。
「コ、コッチに……っ!?」
慌てて飛び込んだ、その先は……さっき仕掛けを解除した、紋様のあった壁の向こう側の、魔法陣のある部屋。もちろん、その先はなく行き止まりだ。
「ヒッ!?」
ゴーレム達が、部屋を覗き込む。
もう……逃げ場はない。
「は、はは……」
魔法陣の上で、俺は乾いた笑みを浮かべながら、ぺたん、とへたり込む。
俺は……この遺跡に賭けたんだ。
なのに何も見つけられないまま、こんなところでゴーレムにやられてくたばるのかよ……!
エレナ達の誤解も解けないで……。
オーランドを痛い目に遭わせることもできないで……。
「もう……疲れた……」
そのまま後ろへと倒れ込み、俺は手で顔を覆う。
気づけば、俺の手のひらが、頬が、涙で濡れていた。
その時。
「っ!? な、なんだ!?」
突然、魔法陣が光り出すと……目の前が、周囲が、全てが、漆黒の闇と化した。
「うおおおおおおお……っ!?」
その瞬間、俺は勢いよく落下していった。
あの遺跡でオーランドに罠に落とされた時は、周囲に壁があったから助かった。
だが今この場にあるのは、どこまでも広がる闇だけだ。
「ど、どこまで落ちていくんだ……!」
この闇に落とされてから既に五分は経過しているはずなのに、今もなお俺の身体は落下し続けている。
はは……俺は、ここで死ぬのか……。
せめてアイツに……オーランドに、同じ目に遭わせてやりたかった……そして、エレナ達の誤解を、解きたかっ……た……。
俺は静かに目を瞑り、闇に身を委ねて意識を手放した。
◇
「んう……こ、ここは……?」
意識が戻り、俺はゆっくりと目を開けると、どこまでも続く暗闇が視界に入る。
ただ、背中には平らな何かに触れている感触があるし、周囲は薄っすらと様子が窺える程度の明るさはある。
とにかく俺は上体を起こして辺りを見回すと、半径百メートルはありそうな、かなりの広さの円形状の部屋……いや、天井が一切見えないことを考えると、ここは遺跡の中にある遥か底なのかもしれない……。
「ここから、出られるのか……?」
俺は立ち上がり、周囲に罠などがないか注意深く確認する。
どうやらそういった類は、少なくともこの地面にはなさそうだ。
――カラン。
「っ!?」
突然小石が転がるような音が聞こえ、素早く翻って身構えると、後ろ腰に佩いている刃渡り五十センチの片刃剣の柄に手をかけた。
目を細め、注意深く薄暗い闇の中を凝視すると……紅く輝く二つの揺らめきが見えた。
……ひょっとして、さっきのゴーレム、か……?
緊張から、ごくり、と唾を飲み込む。
すると。
「あ……目が覚めた……?」
現れたのは、瞳をルビーのように紅く輝かせた、一人の少女だった。
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